夏・どど、どうにかなれー!
「さて、本当に決めたか?」
「……まだです」
「はぁ、そろそろ決めろ」
教師との十六度目の進路指導は何も進まずにここまで来た。フィラは膝に拳を作り震えている。周りの人は全て進路が決まった。男子生徒は家業を継ぐか、騎士団。女子生徒は花嫁修行か家業の手伝いらしい。
フィラだけが全く決まらず一年が過ぎていた。
♧♧♧
「フィラちゃん。フィラちゃーん」
「ふぇい!?」
フィラは突然呼ばれたことにビクッとし皿を落としかける。落ちなくてホッとして、後ろを見ると不安そうなマスターがいた。
「…マスターさん」
「進路の悩みかな?」
「…まぁ」
フィラはふいと視線を逸らす。進路をそろそろ決めないとまずい時期だ。フィラは焦っていた。サクリに聞いてもレオに聞いてもマリノに聞いても返ってくるのは焦らなくていい、という言葉。皆優しいのは分かっているがそれでも焦ってしまうのだ。
フィラがあまりにも泣きそうな顔をしているからか、マスターはフィナンシェをくれた。フィラは貰いモグモグ食べている。
「フィラちゃんは何か、好きな物ある?」
「……えっと、片付けとか好きです…」
「あとは?」
「…お料理も好きです。お茶飲むのも、お菓子食べるのも好き…」
「いいね、好きなことが多くて」
マスターもいつの間にか珈琲を飲んでいた。フィラは手が止まってしまう。
「フィラちゃん?」
「…わたし、何すればいいか分かんないです…お貴族様の元に嫁ぐのは確実で、ほとんど相手、決まってるようなものだけど…この先、想像できなくて」
フィラが考えていたのは卒業までにどうにかして婚約者候補を探すというものだった。これは、愛想さえ尽かされなければほぼ達成と言って良い。だが、この先の想像がフィラにはよく分からないのだ。
「…ね、フィラちゃんの作るショーウィンドウすごい評判なのよ」
「あ…ありがとうございます」
「分からないならこのままウチで働くのもいいと思うわ」
マスターはシルクに呼ばれてしまいすぐに言ってしまった。フィラは取り残されふらっと椅子に寄りかかった。
♧♧♧
「…あの、さ」
「はい。どうしましたか」
フィラは教室から出ようとしていたマリノを引き止める。どうしても聞きたいことがあったのだ。
ここ数日調べてみたがやはり平民の女性と貴族の女性では働ける場所が全く違うと分かった。平民の方が圧倒的に働ける職が少ない。こんな、今の状態が分からないまま進路を決めてしまうのは嫌なのだ。
「…、そのさ、秋くらいに言ってくれたの、さ、覚えてたりする…?」
「私が言ったことでしょう。覚えてますよ」
「あれ、さ、本気…だと思っていいの…」
フィラは下を向いてあわあわしながら聞く。
秋に家に送られた言われた言葉はちょっとした将来の確約的なものだった。本当に嫁いで良いのなら貴族の女性が出来る仕事をちょっとしてみたいと思ったのだ。転職歴とかはあまり気にしない所が多い。フィラは少しだけ挑戦してみたくなったのだ。
「…ほ、本当にわたしをさ──むぐっ」
「ご安心ください。ちゃんと迎えに行きます」
「……うぅ」
フィラはそれだけを聞くと恥ずかしくなり慌てて距離を取る。やはり、感情は中々追いついてはくれない。
だが、これでほとんど進路は決まったようなものだ。
「あ、ありがとう!わた、わたしっ、進路、先生に話してくるね!」
フィラはダダっと廊下をかけて教師の元へ向かう。教師がいる部屋を思いっきりバンッと開ける。中にいた職員は何か食べていた。羨ましい限りである。
「先生!わたし、決めました!」
「お、おお…そうか」
「わたし、まだよく分からないですけど、小さい子に喜んでもらえる仕事につきたいです!」
「え?仕事につくの…」
「?はい。喜んで欲しいです!」
フィラはキラキラした目で教師を見ていた。教師は押され気味だったが最終的には何かに書いていた。
「これで進路指導は終わりだ。あとは爆発させないような学園生活を送れ」
教師はそれだけを言うと珈琲を飲み始めた。ずるい事だ。フィラはムスッとしながらも教室に戻る。まだ、人がいるはずだ。誰かに相手してもらおうと教室の扉を開けると誰もいなかった。皆、帰ったのだ。
「……はぁ、バイト行こ…」
フィラは鞄を持ちバイト先に向かった。
♧♧♧
「マスターさん!わたし、進路決めました!」
「お、本当?」
「わたし、小さい子喜ばせる仕事やりたいです!」
マスターが裏で品物を整理している時に話しかけたフィラ。マスターはホッとしたような笑みを浮かべてくれた。
フィラは完全に少し浮かれていた。
「じゃあ、頑張らないとね」
「はい!頑張ります!」




