秋・恋人がいつの間にか出世した件について
「……ほんとに言ってる…?」
「ほんとですよ」
「……???」
「混乱させてしまいましたか。申し訳ありません」
フィラはニコッとしているマリノをただ見ていた。開いた口が塞がらないとはこの事だろう。フィラの頭の中は疑問符と理解出来ない塊で埋もれていた。
「……もう一回聞いてもいい?」
「筆頭になりました」
「……そんなさ、朝ごはんはクロワッサンみたいなノリで話さないでくれない?」
フィラは現在、珍しくアルバイトでもなく学園に行く訳でもなく私用で王都に来ていた。それも、今いるのは魔術戦時に来ていた競技場。何故こんなところにいるのかと言うとただ、サクリに誘われてサクリ一押しのお店に連れて行ってもらっていた。解散し、呑気にのほほんと歩いていると競技場についてしまい。そこに居た猫と戯れてたら見知った顔が出てきたのだ。それも、少し疲れた様子で。
「……???やっぱりなんか…クロワッサンみたいなノリで話すよね…」
「淡々としているという意味で良いですか?」
「クロワッサンみたいなノリ…?」
フィラはまだ上手く飲み込めていないようだ。フィラの腕の中にいる猫も足掻いている。出たいのかなと思いフィラは逃がしてあげる。猫はしゅたっと行ってしまった。
「……ち、ちなみになんの魔術なの…?一番上になったの…」
「当ててもらいましょうか」
「へ!?」
フィラは分かりやすく動揺する。
マリノがなったのは天八座、魔術師の中でもトップ中のトップ筆頭だ。八つの魔術のうち一つの座に君臨したと言える。それを当てろと言ってくるのだ。
「簡単!当てずっぽうでいけちゃうもん!」
「では、三回だけ解答権を上げます」
「……ひぇ」
フィラは顔が青くなる。マリノはそれが面白いのかクスッと笑っている。フィラはどうにかして当てようとする。笑われるのは好きでは無いのだ。
「……?そもそも魔術って八つ…何あるっけ…」
「さぁ?」
「酷い!教えてよ!!」
マリノはついに歩き出してしまった。フィラは慌てて追いかける。置いてかれるのは良いが、このまま雲隠れにされると嫌なのだ。
(…攻撃術……風術?炎、水、土…これどっちだ?えっと、あと…何あったけ…?)
フィラが頭の中でグルグル考えているものは八つの魔術の一つ攻撃術のさらに四つのものだ。全く当たっていない。
「…水!」
「水…?いいえ、違いますよ」
フィラはムスッとしてこめかみに指を置く。記憶をたどってもマリノが魔術を使っているところをあまり見た事がない。それこそ、先輩と喧嘩してた時くらいだ。
(何してたっけ、あの時…魔術を使ってたのは確かだけど…ワッとする様なのじゃなかった気がする…)
フィラはパッと思いつきマリノの前に出る。そして、普段ならしない指を指した。
「結界術!」
「不正解です」
「……名案だったのに…」
フィラはひぁーと頭を抱える。解答権はあと一度。ここで間違えたら何かされるのは間違いない。クイズとは大体そういうものだ。
いつの間にか道は王都のしっかりと真新しいタイルで敷かれた道から少し古いタイルを敷かれた道になった。景色もお店や少し高めの建物が立ち並ぶところからのどかな緑になっている。フィラはクイズに集中しすぎて気づいていない。
「あと一度だけですよ」
「プレッシャーかけないで!」
フィラは魔術の知識を引っ張り出すが、覚えているのは半分以上魔力に関する事だ。魔術は使わない気でいたから勉強していないのだ。
「ひ、ヒント!ヒントちょーだい!」
「あげません」
「酷い!」
フィラはうぐうぐいいながらマリノの隣を歩く。ふと、服装を見る。マリノが来ているのはいつもの制服だ。
天八座にはそれぞれ筆頭の色がある。それをローブに刺繍されているのだ。もし、ローブを着ていたら簡単にわかっただろうが着ていない。だったら、と思いフィラはマリノの周りを一回転する。
「流石にないよね…」
はぁと肩を落としたフィラはそのまま歩く。
フィラが見たかったのは杖だ。天八座の二つ目の証である杖。これには水晶がついておりその水晶の色も刺繍と同じ色をしているのだ。
(何色だっけ…。赤、青、紫、白…緑に紫…は言った。空色と桃色、橙色だ!)
この八色は学園でも使われている。中等部から高等部はネクタイとリボンをつけることが義務だ。この、ネクタイ、リボンこそこの八色のどれかが使われている。
(…なんか当てられない気がする…)
フィラはうーん、とマリノを観察する。簡単には当てられないのは承知の上だ。
「……???なんだろ」
「なんでしょう」
マリノは微笑んでいるままだ。フィラはうぐっとなり目を逸らす。あのまま見てたら良くない気がしたのだ。
「…なんか…迷路作る魔術」
「空間術ですね。不正解です」
「ひぇ…外した…」
フィラはあわわとしている。そして、とりあえずマリノを警戒しておく。仮にこれがサクリだったら絶対に何か奢らさせられる。マリノだから、奢れはないと思うが校庭一周は有り得る。もしかしたらそろそろ進路決めろと怒られるかもしれない。
「…答えは?」
「精神感応術です」
「……??心読むやつ?」
「ざっくり言ってしまえばそうですね」
「はぇ……すごいね」
結局、マリノは人の精神と心を見据える魔術のトップに君臨していた。これからは怒らせないようにしようとフィラは決意する。
「つきましたよ」
「…あれ?わたしの家?」
「では、また明日」
フィラは勝手に帰ろうとするマリノを引き止める。このまま有耶無耶にして帰すつもりは無い。
「な、なんでわたしの家?なんで知ってるの?」
「以前送りましたから。それに、女性を…大切な人を一人で返す訳には行きませんよ」
フィラはうぐぐ…となり、頬を抑える。秋のはずなのに熱くなる。感情をどうにかしたくて告白をしたはずなのに、どうにもなってないのだ。
「…うぐ」
「それと」
マリノはフィラの髪を上げて耳元に口を寄せた。身長差があるのでマリノが少し屈む。フィラはポカンとしていた。
その言葉を聞いたフィラはしばらく顔を染めて放心状態だった。




