春・春の訪れ
「……はぁ」
「ねーちゃん何した。バイト休みでしょ」
「うん。そうだけど…」
「嫌な授業の日?」
「違うけど…」
フィラは最近ずっとため息をこぼしている。テイルは疑問に持ちながらも早く朝食を食べて鞄を持つ。もう少しで大会があるらしい。テイルはサッカーとやらにハマり、放課後活動もそこにしているとの事。サッカーはどこの国の物なのか、そもそも放課後活動というものはどこからやってきたのかフィラには全く分からない。
「じゃ、いってきまーす」
「行ってらっしゃい」
フィラはスープを飲みながらテイルを送り出す。両親は朝早くから収穫に出かけている。今日中に収穫しないとダメになるらしい。果物は難しい。
「…はぁ」
フィラはとても困りつつもスープを飲みきり立ち上がった。
♧♧♧
「先程から大丈夫ですか?」
「へ!?」
フィラは驚きバッと顔を上げる。珍しく教室にはほぼ誰もいない状態。そして、夕暮れになっている。フィラに声をかけたのは、今年度も勉強を教えてくれているマリノだ。
フィラが全く手を動かさなくなったからだろう。
「だ、大丈夫…大丈夫……うん」
「気分が悪いなら帰られた方が良いかと」
「大丈夫!ごめん…その、続きを教えて欲しいな」
フィラはペコペコしながらお願いする。マリノはとても不思議そうな顔をしていたが、続きを教えてくれるようだ。教本に指が添えられる。
(…サクリちゃんのせいだ…酷い、勉強集中出来ない)
フィラはお腹すいたから帰るーと言ってさっさと帰ったサクリに恨みの念を送る。届いても全く効果は無さそうだ。フィラは頑張って頭に教えてくれている内容を入れようとしてみる。だが、残念ながらいつもの半分も入ってない気がする。
(あーもう。これじゃダメでしょ…よく分かんないものに振り回されてもダメ!!)
フィラは一度ペンを置き、ベシンと両頬を叩いた。その音にマリノが疑問符を浮かべていたがフィラは気合いが入ったのかもう一度ペンを取った。
「もう一回教えて!」
「え、えぇ。分かりました」
「うぅ、難しいな…微分積分って何。いつ使うの」
「いつか使いますよ。きっと」
「保険だぁ…保険かけてる…」
フィラはペタリと机の上で倒れている。数学は常に難しいが、今年になってさらに難しくなった。それに、さらによく分からない今日かも増えた。
「…勉強なんで得意なの?」
「暇だったので」
「それ、理由か…?」
フィラには一生涯理解出来なさそうな回答を言われ、天才と凡人の差を思い知る。今日はアルバイトがない日だ。マリノが帰るではちょっと話したい気分になった。
「一番得意な教科は?」
「強いて言うなら数学ですかね」
「うぐっ、天才だ…」
さらに差を示され、フィラは小さくなっていく。ちなみに、フィラが得意な教科は世界史だ。どこか面白いから好きなのだ。
フィラは鞄を手に取り中身を綺麗にする。今日はアルバイトの制服がないのでスッキリしている。いつもはもっと重い。
「…マリノくんって顔いいよね」
「…??」
「……わたし、今なんて言った?」
フィラはピタリと動きを止めてマリノの方を見る。フィラの顔は真っ青だ。絶対に何か口を滑らせたと思っているようだ。
実際にフィラは口を滑らせた。しかも、無意識下のうちにだ。
「…顔が良いと」
「……やっちゃったぁぁ…いや、実際にいいとは思うけど…思っているけど!なんで滑らせたのかなぁ…自分」
ひゃぁぁとフィラは顔を思いっきり机に伏せた。恥ずかしくて死にそうだ。一方、マリノはあまり気にしてい無さそうだ。いつも女子生徒に囲まれているだけある。
「…忘れてくださいお願いします」
「……気が向いたら」
「忘れてよぉぉ…」
フィラは半泣きで反論しているとマリノが鞄を持った。予定があるのか、フィラが可哀想に思えたかのどちらかだろう。
フィラはそれを、ただぽけっと見ていた。
「帰るの?」
「えぇ、やる事があるので」
「はぇ……気をつけてね」
フィラは手をひらひら振って見送る。マリノも少し振り返してくれる。最近は優しくなっているようだ。
フィラは見送ると自身の鞄を持ち上げて椅子も直す。その間も恥ずかしさで今すぐに逃げ出したい衝動に駆られていた。
「やっちゃったよぉ…気にしてるよね…申し訳なさすぎる…うぅ、話してくれるかなぁ」
フィラが最近わかったこととして、マリノはあまり容姿に触れられたくないらしい。これはレオから聞いた事だ。レオ曰く、アイツの家は知恵の輪並にぐっちゃぐちゃでめっちゃくちゃだから触らない方がいい、との事だ。知恵の輪ってなんだとフィラは思ったが複雑そうなのはよくわかった。
それを分かった上で先程触れてしまったのだ。罪悪感も襲ってきてさらに死にそうになる。
だが、フィラの内面では罪悪感ではない何かも渦巻いている。
「…認めたらダメ、認めたらダメ…ダメなのにぃぃ」
フィラはついにガタリと床に膝をついた。半泣き状態だったが落ちてきた涙を拭う。
「うぅ……恋だ。多分恋だ……どうしよう…認めちゃった……」




