冬・金銭のよりも……?
「はぁ食った食った…」
「サクリちゃん食べ過ぎだと思う……本当にこれ奢ってもらっていいの……?」
「金銭には余裕があるので大丈夫ですよ」
「そうそう……サクリは食いすきだ。もっと自重しろ」
四人が来ていたのはサクリのイチオシの店らしい。美味しそうなお菓子が沢山ガラスケースに入れられていたお店だ。そこでフィラとサクリはお菓子を食べていたのだ。レオとマリノは紅茶を飲んでいた。
「てか、あんたら食べなくていいの?あたし、もっと食べていい?」
「奢られるんだから自重しろよ」
「えぇ、めんど…」
サクリとレオは喧嘩を始める。いつもよりも、小声なのはこのお店がちょっと良い店だからだろう。貴族にとってはそこまででもないのかもしれないが、フィラにとってはとても良い店なのだ。正直、こんなに良い所で奢られるのは避けたいところである。
「うぅ、なんか申し訳ないな…」
「フィラちゃんならいい!全然俺が払うし!でも、こいつは別」
レオはサクリを指さしながらフィラに向けて言う。指を向けられたサクリはそんなに注目しないでよ、とカラカラ笑っている。全くレオの意図には気づいていないようだ。
「……マリノくんもいいの?こんなにいいお店なのに」
「構いませんよ。借りは作りたくないので」
二人に聞くも、二人とも大丈夫の一点張り。貴族は頑固なのかもしれない。
「フィラ!!何食べる?アタシはフィナンシェとマーマレード!!!」
「え…あ、えっと……サクリちゃんのおすすめで」
「フィナンシェとマーマレード、クッキー二つずつお願いしまーす!」
サクリはいつの間にか店員を呼びさらに注文をしている。マーマレードってジャムだろ、というレオのツッコミが聞こえているがサクリは気にしていないようだ。マリノも注文に何も言わずただ紅茶を飲んでいる。
フィラだけが、小さくなっているのだ。
「な、なんか本当に申し訳ない…」
「いいのいいの!コイツらはあたし達がいなかったら女疲れしてたんだから…ね?」
「ほぼ圧力じゃねーか」
サクリがフィラの肩を寄せて悪い事を吹き込んでいると店員が注文した品を持ってきてくれた。サクリは元気良さそうに、美味しそうに食べ始めた。フィラも、少し申し訳なさそうにしながら口に運ぶ。
「美味しい!」
「でっしょー?フィラも来てみなよここ。安めだからさ」
「サクリちゃんの感覚でしょ…一緒にしないで…」
「こりゃ失礼」
サクリはマーマレードをフィナンシェに乗っけて美味しそうに口に運ぶ。サクリの食べ方は綺麗だ。育ちがよく出ていると思う。育ちといえば、レオもマリノもそうだ。カップの持ち方がとても綺麗だ。フィラも感化され頑張ってみるが上手くいかない。
♧♧♧
「ほ、ほんとにいいの…?お金ちょっとは出さないと…」
「いいですよ。お気になさらず」
「でもぉ…」
フィラとマリノはお店の外に出ていた。レオとサクリは店の中にまだいる。サクリがショーケース見るから!!と言ったのでレオが付き合ってあげているのだ。フィラも誘われたが太陽に当たりたい気分になったので断った。そしたら、サクリがこいつ護衛ねと言ってマリノを差し出してきたのだ。
(……な、なんか申し訳ないし…気まずい)
フィラとしては、二人だけになるのは最近落ち着かないのだ。サクリに吐かされたせいだと結論づけている。そんな事を知らないマリノは普段通りフィラに接してくれる。それがとても申し訳ないのだ。
「…や、やっぱり払う…いくら…?」
「教えませんよ」
「あぅっ……お願い、なんかやっぱりこういうのはちゃんとしたいと言いますかっ。その…ね…」
フィラはあわあわしながらマリノに聞く。だが、全く口を割ろうとしない。やはり、貴族は頑固なのかもしれない。
フィラがどうにかして払おうとしているとマリノが鞄を漁り始めた。不思議に思いフィラはぽけーっと眺めていると、一つの箱が出てきた。
「なぁにそれ。正方形…」
「貴女にですよ」
「……どういうこと」
フィラは突然言われた事に混乱する。何かをしでかした覚えもなければ、何か良いことをした覚えもない。強いて言うなら毎日のように押しかけて勉強を教えて貰っているくらいだろう。それで怒る人ではないとフィラは知っている。それに、フィラはよくお礼にリピルやチョコレートを渡すこともある。
「夏のお礼です」
「夏…?なつ、なつ……何かしたっけ」
「覚えていないなら良いですよ」
マリノはフィラの手に箱を乗せてくる。物が入っていそうだ。
「受け取れないよ…無理…覚えてないし……」
「……では、私のエゴのために、見栄のために渡したとでも思ってください」
「で、でも……」
マリノは有無を言わさずにフィラに渡した。フィラはあわあわししていたが、渋々受け取る。夏に何したか記憶をたどって見る。
(…そういえば、いつかの夏に奢った気が……するようなしないような…)
フィラは首を傾げるが、奢ったのはサンドウィッチの金額分だけだ。それも、平民が出しているような露店の。
「…本当に良いの?」
「えぇ。お礼ですから」
「あぅっ……そっか」
フィラは鞄に貰った箱をしまう。何が入っているのか分からないため、鞄の奥底に閉まっておく。割れてしまったら悲しいからだ。
(…熱い)
フィラが熱に浮かされてボケっとしているとサクリとレオが出てきた。サクリの両手にはお菓子がある。
「見て!フィラ!!レオの奢り!!」
「…!いっぱいだ…」
レオはマリノの隣に腰掛けてはぁとため息をついている。相当絞り取られたのだろう。暫くは女子生徒とは遊べなさそうだ。
「てか、買わせたんだからお前ちゃんと食えよ?」
「あったりまえじゃーん。安心してよ!」
グッとサクリは親指を立ててレオに向ける。ほんとかぁ?とレオは大分怪しんでいたが疲れたのかベンチに背中を完全に預けた。
そんなレオを見ているとふとマリノと目が合った。向こうはすぐに逸らしたがフィラはポカンとしたままだ。そして、我に返ったように口を抑えた。
サクリは不思議そうにして見ていたが、お菓子に夢中なのかクッキーを美味しそうに食べていた。
(…これ、良くない…どうしよう…どうしよう…)




