春・真っ当な平民です!!
フィラはトボトボと街に出ていた。制服を着たままで、右手には例の男子生徒から渡された銀貨。
銀貨一枚だけで一ヶ月の食費が賄えてしまう。下手したら二ヶ月は持つかもしれない。
(……これは、後で返そう……うん。脅されても怖いし)
フィラは一人で自己完結をし、うんうん、と頷く。
銀貨はポケットに入れて代わりに地図を出す。フィラでも雇ってくれそうなお店を書いたものだ。
一件目は八百屋さんだ。
「えぇ……?君、何歳…冷やかしはお断りだよ」
不採用だった。
二件目は果実屋さん。
「うーん……。ウチはお昼が一番混むのよ。逆に夕方は人手は要らないのよねぇ」
不採用だった。
三件目は花屋さん。
「昨日新人くんが入ったばっかりなんだよねぇ……てことで、ごめんね」
不採用だった。
どこもかしこも不採用。フィラはベンチに腰掛けて肩を落としていた。
「うーん……簡単にはいかないとは思ってたけど……けど!」
正直なところ、名門校の肩書きがあれば通るのではと期待していたのだ。だが、現実は冷たく落とされ続けている。
「あとは……お貴族様と会う店ばっかりなんだよねぇ」
先程の三件は貴族はあまり来ず、ちょっといい暮らしをしている平民が多く来る店だった。言葉使いに自信が無いフィラが、どうにかして働けそうなお店だったのだ。
(諦めてお貴族様と会う店にするか)
ため息をついてとりあえず、働けそうなお店を探しに行く。
歩いていると同じ制服を着た、同じリボンのついた人がいた。学年はリボンとネクタイの色でわかるようになっている。
「お貴族様だ……うぅ怖い」
なるべく貴族に合わないように迂回しているといつの間にか、路地に入り込んでいた。
「……どこ、ここ」
慌ててフィラは地図を確認する。だが、路地までは書かれていない。せいぜい細い道くらいしか書かれていなかった。
「どうしよう…。ここどこだろう…。暗いし、人いないし」
周りを見渡しても猫くらいしかいない。
猫は話せないので道案内もして貰えない。
「ね、ねこさーん。明るいところに連れてってぇ」
フィラはどうしようと無いので猫に泣きついた。猫はシュパッとフィラから離れ、駆け出していく。
「連れてってくれるの?まって!」
フィラは猫の後ろを追いかけていく。猫はあるところ目掛けて走っている様だ。
突然右に曲がった猫。フィラも、それについて行くと猫がいなくなっていた。
「なんで……?ここどこ!」
猫が案内してくれた先は開けたよく分からない場所。
フィラが少し散策をしていると猫の鳴き声が聞こえた。その声のする方へ向かうと人がいた。
(助かった……)
ホッとして胸を撫で下ろしているとギョロっと人に見られた。
怖そうな、ガタイが良いお姉さんだ。高級品のタバコを咥えて、ピアスを開けている。
(ふふ、不良だぁぁ!?)
アワアワしてフィラは逃げ出そうとする。不良に関わるといいことなんて何も無い。お金は必要だが、そのためによく分からない集団に入るつもりはない。
「待ってよお嬢ちゃん」
「い、いや、そのわたしは……真っ当に稼ぎたいんです!」
「は?」
「暴力とか、スリとかしたくないんです!なので、ごめんなさい!」
「待て待て、お嬢ちゃん不良と何か勘違いしてない?」
「え、不良じゃないんですか……?」
「違うから……落ち着いて」
不良っぽいお姉さんは猫を抱えてフィラの方に来る。フィラは警戒しています、というのを示すためかノートを丸めてお姉さんの方へ向けた。
「お、ノートじゃん。いい所のお貴族様かぁ?」
「むっ、真っ当に生きている平民ですっ」
「こっれは失礼」
フィラは警戒心を解かない。よく分からない人以前に不良っぽいからだ。煙草を吸って、ピアスも開けているからかなり外れた人だろう。どちらも男性しか好まない。
むしろ、ピアスに至っては男性も好きではないらしい。
「さっきさ、真っ当に稼ぎたいって言ったよね」
「そうです。悪い事したくないです。真っ当に稼ぐんです」
「今は難しいかもよ。どこもかしこも冬で締め切ってるし」
フィラのアルバイト探しが難航しているのは理由があった。フィラの性格は基本的にアルバイト先では万人受けするだろう。だが、どこも冬が締切なのだ。
冬は全ての始まり。アルバイト募集も学園も、仕事も、全て冬から始まるのだ。そのため、春から働こうとするフィラは変であるのだ。
「てか、お嬢ちゃんいくつ」
「……もうすぐ十一」
「うーん微妙!」
「そんなのわかってますよ!」
もう一つの理由として年齢があった。十五歳、高等部からならどこも雑用係として受け入れてくれたかもしれない。だが、フィラはまだ十歳なのだ。働くには若すぎる。
「へぇ、働く理由は?」
「そんなの話して意味ありますか。よく分かんない人にいてくなって言われてます」
「ついてこいって言ってないけどな」
「むっ」
お姉さんは猫を撫でてフィラを上から下へ下から上へ眺めている。フィラは少したじろぐ。そんなにジロジロ見られるのは二度目なのだ。あまりいい気分ではない。
「で、働く理由は?」
「……真っ当に生活するため」
「真っ当って言葉好きだねぇ。いいね」
お姉さんは猫を地面に置く。そして、フィラの横を通り細道を抜ける。フィラには疑問符しか浮かばなかった。
「なぁーにしてるの。置いてくよ」
「え、あ、え?」
「どーせ迷子でしょ」
図星をつかれ見えない矢が刺さった。グサッと効果音が付きそうだ。
「いい所案内してあげる。それこそ、真っ当な生活、できるよ」
「……裏切ったらノートで叩きます」
「いい度胸じゃん」
フィラは距離を置いてお姉さんについて行った。




