春・不思議な出会い
時期は巡り春がやってきた。
陽気な太陽が学園を照らしているお昼時。フィラは一人でパンを食べていた。
「うん。クロワッサン美味しい……」
入学して三ヶ月がたった。
一度目の模試はひっどい点を叩き出したフィラ。もちろん、担当教師達からはこっぴどく叱られ、平民だからとバカにされた日々を過ごした。
三ヶ月も経つと女の子にはグループというものが出来た。
貴族だけの和にフィラが入れるはずもなくあっという間に孤立化が進んだのだ。
「学食って高いよなぁ…。銅貨五枚って……。クロワッサン五日分じゃん」
貴族達の多くは学食を食べているらしい。安くていいわ!とマリアンネが言っていた。ご丁寧にフィラの方を見て。
だが、それに噛み付く勇気と心がフィラには無かったのだ。なぜなら、フィラの家はかなりピンチだからだ。
父の育てている野菜と果物が先日の雨でダメになったのだ。果物の中には少し高めで売れるものがあったのだ。それは、去年の秋から育てていたリピルと言うオレンジに似たものを育てていた。どうやら、根が腐ってしまったらしい。
母は露店で働いているため暫くは大丈夫そうだが、正直貯金を切り崩すしかないようだ。
「むむっ……アルバイトやるべきかなぁ?」
フィラを悩ませているのは次の模試でも友人関係でもない。金銭だ。
王国にある店は二つある。一つは露店だ。屋台とも言うらしい。二つ目は建物のお店だ。大きな違いとしては、建物のお店の方が物の値段が高いのだ。そのため、お給金も弾む。だが、平民は露店の経営で手がいっぱいなのだ。
お店で働く条件としては身なりが整っているのかが一番大事だ。貴族を相手にする事もある。身なりだけで貶されるのはお店としても痛いらしい。
「……この辺だと、商店に八百屋さん、布売っているお店もあるな」
悩んでいると鐘の音がした。授業の合図だ。
「な、え、もうそんな時間⁉サボりになっちゃうじゃん!」
フィラは慌てて飛び出し学園の中に入っていった。
♧♧♧
「うぅ、化学って難しいな」
フィラは教本を持ちながら廊下を歩いていた。今日も化学を教えてくれている先生に怒られたのだ。基礎がなってない!と怒鳴り散らかされた。
(はぁ……とりあえずアルバイト……)
シュンと肩を落としながら廊下を歩いていると隅の方に布が落ちていた。フィラはそれを拾い上げる。
「……?ハンカチ……」
広げてみると正方形のハンカチだ。謎の草と花が刺繍されている。決して安くは無い品物だ。
「落し物かなぁ。届ける……ってどこに」
フィラはしゃがんだまま首を傾げていると隅に他の刺繍もされている事に気がついた。名前かなと思い期待しながら見るも、小さな花だった。
またフィラはシュンと肩を落とした。
立ち上がり周りを見てみる。
女子生徒達の可能性を考えたが、男子生徒も同じ様なハンカチを皆持っている。刺繍を沢山施した一流品らしい。フィラにはよく分からない世界だ。
(窓の所に置いておく……?)
フィラは窓の所にハンカチを立てかけようとするが、ぺシャッとなり、中々綺麗な状態で立っててくれない。
それに困っていると遠くから声が聞こえた。
「なぁお前。本当に落としたのかよ?」
「確かに落としたはずなのですが」
「お前視力は?」
「0.3です」
「眼鏡つけろよ」
「コンタクトをしていますので」
男子生徒二人の声だ。それも、まだ声変わり前の幼い声。声変わりをしていないのは中等部の一年生から三年生まで。四、五年生は半分はしているのだ。
フィラは窓に立てかけられなかったハンカチを持って柱から様子を眺める。もし、不機嫌なところに持っていったら大変だ。グサッと刺されるかもしれない。
平民の扱いは酷いのだから。
「てか、なんでそんなに探してる訳?お前ん家ならいくらでもあるだろ」
「妹に返せと言われているのですよ」
「は?妹の?」
「刺繍しろと言われたのです」
「それを持ってきたのかよ…妹ちゃんドンマイ…」
聞いたところ、不機嫌では無さそうだ。むしろ、ハンカチは大事な人からの物らしい。
(チャンス!)
フィラはチョコチョコと怪しまれないように、さりげなく近づく。一人の足音に二人の男子生徒は気がついたようだ。
「おや、妖精さん。どうしたんだい?」
フィラに気づいたのはマリアンネに絡まれていた時に話しかけていたあの人。
(……口調違う……こわ)
フィラは少しの寒気に怖気付いてハンカチの落とし主であろう人の方をむく。こちらは真面目そうだ。
「あ、あの、これ……どうぞ」
「……ありがとうございます」
会話は三十秒もせずに終わった。フィラは貴族の人に自ら話しかけたのが恐ろしすぎてパパっと逃げようとした。
「少し良いですか」
フィラは落とし主の言葉にビクッと跳ね上がり転ぶ。その拍子に教本とノートが転がり落ちた。
「お、ドジっ子ちゃんだ」
「何を言っているのですか……ほら、大丈夫ですか?」
手を差し出されたが、フィラは自らさっさと立ち上がり慌てて落とした物を拾う。貴族に手を貸してもらうなど、これを他の令嬢に知られたら窓から落とされるかもしれないからだ。
「す、すみませんっ」
フィラは、ペコペコし逃げようとするが声を掛けられて転んだ事を思い出した。そのため、ガチガチに緊張した状態で貴族の生徒に向かい合うことになった。
落とし主はフィラの手に銀貨一枚を乗せてきた。
「……ぎ⁉」
「これで、借りは返しました。いいですね」
「でで、いや、ぎ、銀貨⁉」
「これでは満足できませんか。ではもう一枚」
「いや!いいです……でもなんで……」
「借りは絶対に作りたくないのですよ」
落とし主はとても、とても、怖い顔でフィラにそう告げて来た。
(貴族って……やっぱり怖い!!)




