夏・さぁさぁ、今から自由時間!
夏が始まる雲が見え始めてきた。もくもくとしていてたまに美味しそうに見える雲だ。そんな雲がまだ見える午後、フィラはいつもの三人サクリ、マリノ、レオと同じ空間にいた。
レオは食堂で買ってきたのかアイスクリームを食べている。サクリは学園に持ってきてはいけない雑誌を読みながらレオの食べていたアイスクリームを横取りしていた。レオが今食べているのは二代目のアイスクリームだ。
マリノはフィラの目の前で本を読んでいる。珍しく物語のようだ。
フィラはぽけーっとしながらペンを回している。
「レオ、アイスくれ」
「渡すわけねぇだろバーカ。てか、お前が食ってたの俺のだし」
「お前がさっさと食べないのが悪い」
「は?意味わかんねぇ」
暑さでやられているのか、二人の会話はそこで止まった。いつもなら、あと十分程度口論が始まるため相当お疲れのようだ。
「…暑いねぇ。溶けちゃいそう」
「フィラが溶けたら水替わりにするから安心しろ」
「お花にあげる水にして…」
「任せろ」
「お前ら何してんだよ…狂ってるか?」
フィラとサクリの会話が相当変だったのかレオはいやいや、とバンッとサクリの肩を叩く。それが痛かったのか殴り返している。
「フィラさ、あんたいいの?さっきも誰か追い返してたけど」
「追い返したのはサクリちゃんじゃん…ただわたしは断っただけだもんっ」
「お、フィラちゃんデートのお誘いとか来るようになったんだ。婚約はすぐそこ…いだ!?!?いだ…誰だよ!?」
「あらあらあらぁぁ?かっわいそうなレ・オ・く・ん?」
「ぜってぇぇお前が蹴っただろ!!」
フィラははぇーと二人の様子を眺めているだけだ。
今日は模試の最終日。模試は午前中で終わり午後は自由だ。そのため、恋人ごっこを楽しむ人は共にお昼を食べに行っているらしい。フィラも所謂デートというものに誘われた。だが、フィラは暑い中外で歩き回りたくなかったので断ったのだ。ただ、その相手が悪かったのか全く引き下がらなかった。フィラが困っているとサクリがちょっと汚い言葉で追い返していた。
最近は、月に一度にあるかないか微妙なラインで適当に誰かと外に出ては見ている。この三ヶ月でこれをしたのは一度だけだ。それも、相手はサクリだ。
春に結婚相手候補を探そうと決意はしたが未だにやる気は起きない。フィラの優先順位も対して変わらない。成績上げる、お金を貯める、真っ当な生き方をするがフィラの三つの大切な事だ。恋愛を入れるならトップ二十に入るか入らないかくらいだろう。
それくらい、フィラに恋愛という言葉は存在していない。
「…うぅ、暑い…涼しいものが欲しい」
「あーそれな。なぁ、マリノ。最近どっかから涼しいもんとか輸入してないか?」
「してませんよ。最近は氷しか入ってきません。あとは食料くらいでしょうか」
「こいつの家が入ってないってことは…大体は入ってないな…。てか、氷って何するんだよ。投げるのか?」
「詳しくは分かりませんが、どうやら何かをするらしいです」
「何もわかんねぇじゃないか」
レオは不貞腐れて最後の一口のアイスを雑に口に放り込む。ゴミはゴミ箱へ投げた。綺麗な曲線を描いてゴミ箱に入っていた。
「ねぇ、フィラ?なんかアイスとか奢って」
「むっ。ダメですっ。奢りません!」
「ケチ」
「ケチでいいんですっ。秋までは貯めておかないと」
「なんでよ…あー、リピルか」
「そーそー。今年は噂によると甘くなるらしいよ。お父さんが言ってた」
「現役農家が言うならそうだな…今年は買うかぁ」
サクリは適当に紙を取り出し、リピル今年、と書いている。フィラはそれを眺めてぽけーっとしているとふと思い出したかのように外を見る。
いい感じの貴族探しをしているのだ。サクリの言う条件は難しいのでフィラはとりあえず、優しそうな人を探す。
「サクリちゃん。あの人優しそう」
「ダメ。あれは成績不良で良くない」
「えぇ…あ、女の子と手繋いでた…ごめんね。邪魔しないよ…」
「あれは恋愛ごっこだって言ってるでしょ…あー、でもあの二人って子爵か…本気だったら結婚いけるかも」
「はぇ…お貴族様にも何かあるんだね」
フィラは頑張れっ、と仲良さそうに話している二人を応援する。それを不思議そうにサクリ達は眺めていた。
そして、フィラはふとしたようにバッと机を叩く。その音に驚いたのかえ、という顔をマリノはした。フィラは気にせずにズイっと近づく。
「ねぇ!わたしのこと好きか嫌いかで言ったらどっち?」
「…は?」
「おぉ、フィラちゃん大胆」
「大胆だねぇ」
サクリとレオの野次が飛んでくるがフィラは気にしない。特に深い意味を持たないからだ。マリノは困った顔をしている。
「…好きですよ」
「ほんと!どこ、どこがいい!?」
「…性格、でしょうか。貴女の明るい性格はとても好ましいかと」
「なるほどなるほど…つまりもっと明るくなればいいんだ…」
フィラはふんふんと頷き頭の中にメモをとる。そして、次はレオの方にズイっと近づいた。
「レオくんは?」
フィラが聞くとレオはふっと謎の笑みを浮かべサッと髪をかき上げた。
「フィラちゃんのように美しい人を嫌いになる人なんていないよ」
「伸ばせるところってあると思う?」
「君なら全てが美点さっ」
「なるほどなるほど!」
フィラはうんうんと頷いている。この場で唯一まともなのはサクリだけになった。




