春・え、お父さん二人……!?弟消えた!?
「はぁ……」
「うるさいねーちゃん」
「あぅ…ごめん」
フィラは制服のままベッドに飛び込んだ。鞄は珍しく床に落としたままだ。テイルがはぁとため息をついて鞄をフィラの上にボスンと置く。うぐっという何かが潰れたような音がした。
「で?父さん達怒ってた?」
「…怒ってないけど……結婚そろそろ真面目に見てだって…」
「は?ねーちゃんはずっと家にいればいいでしょ。何言ってんの父さん」
「落ち着いて…」
テイルは今すぐに父を殴りに行きそうな恐ろしい顔をしている。
テイルはここ数年で大分大人びた。身長が伸びると共にシスコン度合いも加速して行った。貴族と結婚することになる、と言った時のテイルは手のつけようがなかった。大暴れで家の家具三つは壊しそうな勢いであった。
フィラが宥めたからどうにか収まったが、あの勢いで外に出られたら確実に何かは壊していただろう。
「…ねーちゃん貴族好きなの?」
「うーん。好きっていうか…頼りになる?」
「は?どういうこと」
「…サクリちゃんは貴族のこと知らないわたしに沢山いっっぱい教えてくれるの。それに、話しやすいし、一緒にいて楽しい」
「へぇ、男?」
「彼氏面してどうするの…それにちゃん付けてるの聞いてないの…」
フィラはうつ伏せ状態から仰向けに転がる。テイルはフィラの椅子の上に座って足を組んだ。足を組む状態が一番座りやすいらしい。
「あとは?誰いんの」
「…マリノくんとレオくん」
「男じゃん!?ねーちゃんどっちと付き合ってんの!?俺、今すぐ殴りに行くから!!」
「付き合ってないし、殴っちゃダメ!!!」
フィラは頭に血が上っていそうなテイルを必死に止める。テイルは姉には逆らえないのか段々と落ち着きまた椅子に座った。
「…はぁ。で?ねーちゃんあとは?」
「いない」
「友達少な…」
テイルに事実のパンチを喰らいうぐっとフィラはなる。何故かその事実に今更悲しくなり、ぬいぐるみを抱きしめる。ぬいぐるみは何も言わないのでただ、抱き止められている状態になる。
「ねーちゃんの結婚相手候補は?」
「いないよ。三人とも大事な友達」
フィラにとって三人は友達以上である。親友と呼べるのかは分からないが、信頼は置いている。サクリはともかく、マリノとレオに恋愛感情を向けられる未来がイマイチフィラには想像できないのだ。
二人は確かに、優しいし面倒見もある。それだけだ。どことなく妹のように扱われる事もあるがそれは気のせいだと割り切っている。
「うーん。最悪先生にする予定」
「は?ねーちゃん馬鹿なの?子供に手を出す教師なんてカスだから」
「うちの弟が良くない方に進んでいる…」
「ねーちゃんが悪いだろ!!!」
えぇ?とフィラは不貞腐れている。テイルは絶ッ対に教師なんて許さない!と切れている。フィラ自身も最悪の手段は取りたくない。
フィラの担任は愛想も悪く、口数も少ない。貴族の割に独身なのも頷ける。担任が教師をしていられるのは次男だからという事もありそうだ。だが、貴族社会で独身とはかなり良くない状態らしい。家の教育が悪かったと言われるからだ。担任も相手探しをやっているのかもしれない。イメージは出来ないが。
「だって…先生なら知ってるし、性格も分かる、あと、優しそう」
「裏では賄賂とかやってるやつかもよ」
「先生はそんな事しないから」
「してるかもしれないだろ!!」
フィラの中で大事な条件は優しい人だけだ。それっぽい人を探せば沢山いる。むしろ、そんな人しかフィラの周りにはいない。だが、サクリの言う通りの人を探してみるとさっぱりいなくなる。やはり、貴族にとって恋愛は遊びと思っていた方が良いのだろうか。
「ねーちゃんさ、俺、薄々感じてたけどさ」
「なぁに?」
「結婚相手真面目に選ぶ気ないだろ」
「し、失礼な!ちゃん、ちゃんと探してるよ!」
「だったら、適当にいい感じの貴族連れてこいよ…そいつ殴るから」
「今の発言で連れて来る気、無くなったんだけど!」
フィラは起き上がりテイルに反撃する。だが、テイルの方が語彙力があるのか、それともただ勢いが強いだけなのかフィラは中々勝つことができない。
「てか、なんでねーちゃんが貴族とだよ…傲慢で私欲しかない奴らの元に嫁ぐんだよ…むしろこっち来いよ…意味わかんねぇよ」
「落ち着て…」
テイルは親指の爪を噛みながらブツブツと文句を言っている。フィラは手を掴み上にあげる。爪を噛む行為はあまり好きではないし、教育にも良くないからだ。
「テイル…そのね、わたし、大丈夫だから。最悪の方法は他にもある!」
「誰?」
「……マスターさんの知り合いの知り合いの…お貴族様」
「遠!?」
テイルはバンッと布団を殴った。ボスっと言う少し鈍い音がした。
「うぅ…本当にどうしよう…わたしに好きとかいう感情向けてくれる人いるかなぁ」
「いる。絶対にいるから。ねーちゃんをほっとく男とかマジでミジンコ以下だから」
「過激的だよ…」
フィラは少し自分の弟の将来が怖くなる。この過激的な弟の心を射止める人が早く現れる人を信じておく。
「はぁ…とりあえず、ねーちゃんは大人になるまで結婚しちゃダメだから」
「誰目線…お父さん?」
「いいね?」
「………いやです」
「裏切り者!!!」
わーわーとテイルは騒ぎ出す。
フィラでもわかってしまうシスコン度合いだ。愛されているなぁでは済ませることは出来ない。
「…とりあえず、真面目に探すかぁ」
フィラの人生プランが綺麗さっぱり崩れ去った瞬間だった。
全ては真っ当な生活を送るためだ。




