秋・ダメ!!ダメダメダメっ!
フィラはのんびり一人で廊下を歩いていた。移動教室の帰りだったのだ。ちょうどお昼の時間、他の生徒は学食を食べに行っているようだ。
「今日はー、クロワッサンー」
フィラはルンルンスキップをしながら歩いている。
「ごらぁぁ。テメェぇぇふざけてんじゃねぇぞ!!!」
フィラはその声にビクッと跳ね上がる。その拍子に教本が落ちてしまった。フィラはそれを回収し窓の外を見る。
ガラの悪く制服を着崩した男の人が誰かに突っかかっている。
(むっ、虐め?遊び?)
とにかくフィラは見過ごす訳にはいかないので走って校庭に向かう。
そこにはやはり野次馬が沢山いた。
そこから止めに入る人は誰一人いない。
「あれ…レオくん。何してるの」
「え、フィラちゃん…あー、いやぁ?」
レオは気まずそうに野次馬の中にいた。
「ちょっと知り合いが…ね」
「ふーん」
フィラは見ようとするが、レオの手が肩に置かれ見ることが叶わなくなる。むっ、とフィラが困ったようにレオの方を見た。
「…あの人誰。毛先紫の人」
「あの人は…先輩だよ。ヴォルガーノっていう人」
「へぇ…あの人なんだ」
フィラ達の一つ上にいる先輩、ヴォルガーノ・メディウム。性格も曲がっていて、学園史上一番問題を起こしたと言われている。
そして、ヴォルガーノの叔父が天八座の魂術筆頭らしい。つまり、かなり良いところのボンボンということだ。
「悪い事しちゃダメでしょ!止めに行こ!」
「いやぁ。ちょっと…」
「?何かあったの?」
「…確かにあの先輩が喧嘩売ってきたんだけど…それに乗っちゃってな」
「なんで!?」
ヴォルガーノと言えばフィラ達の間でもかなり有名な不良だ。素行不良で何度も親が学園に呼ばれていると聞く。そんなヴォルガーノは負けを知らないのだ。この間も中等部一年生の男の子をパシっていたと聞く。
「やっぱり良くないよ。わたし、行くから!」
「やめときなよフィラちゃん。殴られるかもよ」
「いいもんっ。傷ができても治るし!」
「いや、いやいやいや…女の子に傷が付くの耐えられないし…俺が」
「だったら!レオくんが行ってよ」
「無理。あいつらの間に入るとかゼッテェ無理。死にたいやつしか行かないから」
フィラはレオの言い方に疑問を持ったが人をかき分けて進む事にした。
やはり、喧嘩は続いている。ただ、物理的な殴り合いではなかった。
フィラの目の前で繰り出されていたのは、術式陣からなる奇跡のようなもの。
「…魔術だ」
周りはただ喧嘩を見に来た野次馬だけではなかった。たまたま通って魅了されている人もいたのだ。
そして、魔術だから誰も止めに入れないのだ。下手すれば大怪我をする。それも、使っているのは中等部生。魔術の授業を受ける高等部の生徒ではなくまだ、魔力も魔術と知らない二人が喧嘩として使っているのだ。
フィラは一瞬躊躇したが、一気に走り出して喧嘩をしている二人の間に止めに入った。
「だめっ!!」
「!?」
二人はピタリと止まった。感情が揺れたため、術式陣はサッと消えた。フィラはしばらくして目を開けた。
自ら危ない地に飛び込んだとはいえ、怖いものは怖いのだ。
「…ふぇ?」
フィラの目に飛び込んできたのは二人。一人はレオも言っていた通り年上の先輩だ。紫色のネクタイを緩く結びブレザーを開けたままだ。ガラが悪そうな目付きをしており、確かにこれに睨まれたら腰を抜かす気がする。
もう一人はフィラにとって意外な人物だった。
「何してるの…?」
「…こちらのセリフですが」
マリノだったのだ。
フィラから見て、マリノは絶対に喧嘩などの争い事に介入しないタイプだと思っていたのだ。そのため、顔を見るなりポカンとしてしまった。
「おい、女」
低く恐ろしい声が上から落ちてくる。フィラは、ビクリとしたが呼吸を整えキッとした表情をし相手をなるべく威嚇するようにする。
「なんですかっ!」
「テメェふざけてんじゃねぇ!なんなんだぁ?あぁ?女が介入とか意味わかんねぇが?女は黙って後ろに立っとけよカス」
ヴォルガーノはフィラにズイっと近づき、汚い言葉を投げ捨てる。これで怯むと思っていたのだろう。基本的に、ヴォルガーノの周りの女の人は刺々しい言葉を投げつけられると逃げ出していたのだ。
だが、フィラはそんな言葉言われ慣れていた。
「そんな人間に、それも年下に止められるとかどう思いますか!!情けないとは思わないのですか!!」
フィラは反対に押していく。口論は嫌いだが、暴力も嫌いなのだ。むしろ、暴力の方が嫌いだ。常に、話し合いで解決したいと思っている。
「というか!マリノくんもダメでしょ!!」
フィラはブンっと振り返りマリノの方を見る。まさか、自分に振られるとは思っていなかったのか驚いた顔をしていた。
「喧嘩を売るも悪いけど、買う方もダメでしょ!むしろ、大人の対応を求められるでしょ!!」
フィラはヴォルガーノにも強い言い方をしていたがマリノの方が若干強めだ。同い年で尚且つ知り合いということが多そうだ。
「てめぇ何様だ?俺より下の階級だったら許さねぇ」
「平民ですが何か!?」
フィラはキッとヴォルガーノの方を見て堂々と答えた。




