夏・弟怖っ!?
フィラが目を開けると一番最初に目が入ったのは母の顔だった。泣いたと分かってしまう目をしていた。母はフィラに気づくと詰め寄ってきた。
「大丈夫?水飲む?体は…?」
「…!今何時!」
「今日はアルバイト無いでしょ…お願い。今日は休んで頂戴」
「…そもそも、なんでわたし家にいるの」
「帰ってきたら向かいで倒れていたからよ…声をかけても返事しないし、顔も真っ青だし…心配かけないで頂戴…」
「あぅ…ごめんなさい」
フィラは肩を落とす。机にはちゃんと本が置いてあった。本をなくしたら弁償物だ。いくらなのか知らないがきっと高価だろう。
「とにかく、休んでなさい。それに、お父さんには言うからね」
「!?テイルには言わないで!!」
「ちゃんと休んでいたら言わないわ」
フィラはホッとする。テイルは確かにやさしいが、過度に心配をかけている気がするのだ。それに、フィラが前触れもなく倒れたと聞いたら間違いなく一週間近くずっと近くにいられると思う。
母が扉を閉めると、静寂が訪れた。フィラは机に手を伸ばし本を取る。
「えっと、倒れることについて…さすがに書いてないかぁ」
パタリとフィラはベッドに倒れる。ボフッと音がするが知らないふりをする。
「…なんで倒れたんだろ」
フィラは自身の頬に手を当てる。手は熱い気がするが頬はそこまででも無い。手が熱いのは夏のせいでもあるだろう。これは仕方がないことだ。
(倒れる直前何かしたっけ)
フィラが思い返すも本当に直前にやっていたことは魔術だ。それも本の初めに書いているような簡単な魔術。魔術を使いすぎると魔力不足になり倒れることはあるらしいが、フィラの魔力は常人を超えてしまっている。簡単には魔力不足に陥ることはないはずだ。
(使った魔術が悪かった?)
基本的に一人の人間に与えられている属性は一つ。だが、魔術をうまく使える人ならすべて使える人もいるらしい。フィラはこの部類ではないだろう。
「お父さんが風で…お母さんが…なんだろ」
フィラは、母が魔術を使っているところをあまり見たことがない。フィラはベッドから降り水を飲みに来たという体にして、母に話しかける。
「お母さんさ、魔術とか使わないの?」
「お母さん?使わないわよ。そもそも魔術使えないのよ。魔力が二桁も無いわ」
「はぇ…」
フィラは水を飲むと母に戻れと言われたので部屋に戻る。
(魔術って遺伝だけど…わたしって、多分炎)
フィラがそう思うのには理由があった。初めて学園で魔力測定をしたときフィラの魔力量で測りは壊れた。それと同時にフィラの周りに炎の和が出来たのだ。
「…ここでもかぁ」
フィラは不貞腐れ寝返りを打つ。
フィラの持つものは欲しい人にとっては喉から手が出る程に必要とされる。だが、フィラはそれを必要としていない。宝の持ち腐れというやつだ。
「…どこまで知ってるんだろ」
フィラの魔力の事はほぼ確実に生徒は知っている。そして、教師もだ。さらに、魔術師の最高峰天八座も知っていると言って良いだろう。
「はぁ、とりあえず読もうかな」
フィラはムクっと起き上がり本を開き始める。
数回しか読んでいないが、内容は頭に半分程入っている。
「…えっと、適性が八つの魔術の向いているもの……向いているだから、使えない訳ではないんだ…はぇー、奥深い」
フィラはパラパラと捲っていく。紙がふんだんに使われた本を読む機会はほぼないと等しい。この機会のうちに覚えるものは覚えてしまいたいのだ。
「たっだいまー。あれ、ねーちゃん気分悪いの?」
「へ!?」
「布団にいる…風邪?また風邪ひいたの!?」
「ひいてないから!安心して…ね?」
泥だらけになってる帰ってきたテイルはフィラを見るなり顔面蒼白になる。テイルは真面目で理性的だが、フィラの事になると適正な判断力がガタ落ちし、すぐに思考が良くない方に回る。
「そ、そう…かーさん!!ねーちゃん風邪ひいた!?」
「ひいてないから!!テイル止まって!!」
テイルの声に反応したのか母がエプロンをした状態で入ってきた。かき混ぜる道具も持っている。
「ねーちゃん風邪ひいた?」
「ひいてはないわよ。でも倒れてた」
「倒れてた!?!?!?ねーちゃん言えよ!!」
「裏切られたぁぁ…」
フィラは母に裏切られあわわと布団を被りテイルの視界から逃げる。だが、テイルが布団を剥いできたので身を隠す方法は無くなった。
テイルの顔は青いものから赤くなっている。相当怒っているのがわかりやすい。
「あ、あぁ…そ、そういえば今日は予定が……」
「ねーちゃん???」
「……て、テイル…お父さんが呼んでたかもぉ…」
「目を見て話せぇぇ!」
テイルの怒号にフィラはひゃっと跳ね上がり壁に追い詰められる。テイルは怒っている。すごく、すごくだ。これから一週間、毎日のように付きまとわれることが確定した瞬間だ。
「……ねーちゃん」
「は、はぃ…なんでしょうかテイルさん…」
「倒れるとか聞いてねぇよ俺??そこまで頑張るとか意味わかんねぇし」
「口悪いよ…」
「悪くさせたねーちゃんが悪いだろ??」
「そ、その通りでございます…」
フィラは弟に半泣きにされてしまった。




