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真っ当に生きるしかない!  作者: 星宮 しずく
四年目・中等部四年生
29/59

春・弟といちご

 女性はトランクケースを閉めると立ち上がる。フィラは見送るため立ち上がろうとするが女性に宥められ、ベッドに逆戻りする。

「熱があるのにダメよ」

「で、でも…」

「ふふ、このくらいで怒ったりしないわ」

 女性は、フィラの肩に布団をかけて部屋の扉を開けようとする。ふわりと少し舞い上がったコートの下には魔術師のローブが。それも、桃色の刺繍入りだ。

「筆頭だ…」

 フィラが呟くと女性は鮮やかに。だが、どこか大人の色気を感じる笑みをフィラに向けた。

「あら、バレちゃったわ」

 この王国にある八つの魔術のうちの一つ治癒術。これをこの王国で最も優れて、繊細に扱えるのがこの女性なのだ。天八座にはそれぞれの筆頭ごとに持ち色がある。この治癒術は、桃色と決まっている。

 そして、治癒術筆頭はこの数年その席を誰にも奪われていないとの事。圧倒的な才能と魔術で君臨し続ける魔術師だ。

「あぅ…そ、その、ご、ご迷惑をおかけしました…」

 フィラは小さくなり謝罪する。現在の天八座は全て貴族で構成されている。つまり、この女性も貴族に当たるのだ。貴族の人が平民の家に足を踏み入れ、そして治療するなんて聞いたことがない。

「ふふ、お礼が聞きたいわ」

「そ、そのっ。ありがと、ございました…」

「はい。よくできました」

 女性は、フィラに近寄り頭に手を乗せる。母がしてくれるような温かみがあった。

「…元気でね」

「…あ、はい」

 フィラはペコリとし女性を見送った。


♧♧♧


「ねーちゃん。ねーちゃん!」

「…うるさい」

 フィラは聞き覚えしかない声に起こされ、目を覚ました。いつの間にか夕暮れになっていたようだ。扉の先が赤くなっている。

「ねーちゃん飯食べてないだろ。父さんからさっき、イチゴもらったから食えよ」

 テイルが差し出してきたのはイチゴだ。今の話し方的に、父の農場から持ってきたものだ。父の作る食材はおいしいと評判だ。何故、美味しいのかは不明だが、この辺の人になら結構売れると聞く。

「…甘い」

「だろ!!俺が選んだからな!」

 エッヘン!という音がつきそうな顔をするテイル。それをフィラはイチゴをちまちま食べながら見ていた。

「……テイル、中学どう?」

「楽しい!!でも、勉強は難しい…」

 テイルは今年の冬に中等学校に入学した。初等学校のメンバーとほとんど同じなので特に心配はしていなかったが、やはり本人の口から楽しいと聞くと安心するものである。

「難しい勉強があったら聞いてね。教えられるかも」

「えぇ?ねーちゃん俺より頭悪いじゃん…ほんとに教えてくれるの?」

「うるさいな…人に教えるのにも頭は使うからいいんです!」

 イチゴをあむっと食べながらフィラは少し不貞腐れる。確かにフィラの方がテイルより成績は悪い。だが、フィラはほぼ毎日のように勉強を教えてもらっているのだ。負けていられないのだろう。

「聞いてよねーちゃん。俺、テストで一位取ったんだぜ!!」

「わっ、すごいじゃん」

「へっへーん。すごいだろ!!」

「うんっ。えらいえらい」

 フィラはテイルの頭に手を伸ばし撫でる。うぐぐとテイルは照れてしまったが弾かれないのでそのまま続ける。

 テイルの制服は、フィラが半分出したのだ。再来年はフィラの制服の出費も来る。いくら母が貯金をしていたって減るものは減るのだ。少しでも負担を減らすため、フィラは給金でためてきていた分を使ったのだった。

「ねーちゃん。体どう?気持ち悪いか?」

「大丈夫!なんか元気かも!」

「それ、幻覚だろ」

 テイルの容赦ないツッコミにフィラのメンタルは削れたが、知らないふりをする。いつの間にかイチゴは無くなってしまった。テイルは、持っていた鞄を机の上に置き、あさり始める。最近は鞄を床にほったらかしにしなくなった。成長しているなぁとフィラが涙ぐんでいたことは秘密だ。

「ねーちゃん。今日何してたの」

「寝て…寝た」

「寝てるだけじゃんか」

 テイルはボールをバンバンバウンドさせて遊んでいる。テイルはボールが好きなのか最近は自らルールを作って友達と遊んでいるらしい。

「あ……マスターさんに言ってない…どうしよ。クビかも」

 フィラは絶対に大事なことを今、思い出してしまった。マスターからは、休む時はご家族が来るなりしてと言われていたのだ。すっかりそれを忘れ、フィラは過ごしてしまった。どうしよう…とフィラが嘆いていると、テイルが疑問に満ちた声で聞いてきた。

「なにしたねーちゃん」

「ば、バイトに休むって言ってない…」

「??学園は言わなくていいんだろ?」

「そーだけど…バイトは言わないとなの…」

 うげっとしたテイルだったが、ため息をついて、部屋から出ようとする。

「どこか行くの?」

「ねーちゃんのバ先。休むって言ってくる」

「え!?いいよ行かなくて…」

 フィラは止めようとするがテイルは、フィラにぬいぐるみを投げつけてベッド送りにさせた。

「ねーちゃんは自宅警備しといて」

 テイルはさっさと出て行ってしまった。

 フィラはまた、一人にされてしまった。


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