冬・魔術の舞
「お疲れ様でーす」
「はーい。お疲れ様。明日はお休みね」
「はーい」
フィラはお店の扉を閉めて雪を踏みしめる。ランプの灯りが雪に反射し、明るく見えている。フィラは仕事が終わり帰宅する所なのだ。
(せっかくの新年祭だし…ちょっと見に行こうかなぁ)
毎年白雪の一日には新年祭という祭りがある。この王国で一番盛り上がるお祭りである。この一年守って頂いた神々にお礼をし、今年もよろしくお願いしますという意味を込めて盛大にお祝いするらしい。
新年祭は王都の中心部。王宮付近で開かれている。
「…しゃらら?」
どこからか鈴の音がした。シャラン、シャラランといつも聞く金のと音とは違う。どちらかと言えば紬の日に鳴らされる鐘の音に聞こえる。
フィラは興味を持ちパタパタと向かう。
「…あ、この人か…」
フィラがついた先は大きなステージ。そこには優雅に美しく舞を踊る男性がいた。空色のローブを身にまとい跳ねて手を伸ばし舞を舞う。
「…きれい」
フィラを魅了してしまうくらいに、とても美しいものだった。
毎年、新年祭は三時間に一度その年担当の天八座が舞を奉納するらしい。魔術の神に代表としてお礼をするためらしい。
今の時間は舞を始めたばかりだろう。
日付が変わって新年が始まったばかりだ。フィラも今日は新年のため、遅くまで仕事をしていたのだ。
「…天八座って人達か…すごいなぁ」
フィラは心の底から尊敬する。
噂によれば天八座は魔力が多く、それを上手く使い魔術を操っているらしい。フィラは、魔力は大量にあるが魔術の勉強をしていない。魔術を上手く操れるようになればある程度は魔力を減らせるので普通の人と同じように過ごせるらしいが、フィラにはできないのだ。
「へぇ、おねぇちゃんこんな時間に何してるのかい?」
ビクッとフィラは振り向く。
よく知らない男性がいた。顔だけで人を判断するのも良くないが大分怖そうな人だ。左頬に傷が入っている。
「…あ、あの…その。わたし、帰るので…」
「危ないよ?こーんな遅い時間に…ね。オレの家に泊まった方がいいよ」
「か、帰るので」
フィラは慌てて離れようとするがグッと左手を掴まれた。振りほどこうと右手で相手の手を掴み離そうとするが、ビクともしない。
むしろ、両手を束ねられてしまった。
「ひっっ」
「オレの家はあっちなんだ…な、行こうか」
「…むり、無理です…帰ります…帰らせて…」
フィラはブンブンと頑張って離れそうとするがビクともしない。
(このバカ力!?)
フィラは左足を下げて右足を振りあげようとするが足元が不安定でできない。
「…何をしているのですか」
「あぁ?」
フィラがうぐうぐとしていると後ろから声がかけられた。制服姿とはまた雰囲気が違うマリノが立っていたのだ。
「あ?なんだテメェ」
「女性を誘拐ですか。騎士団に通報しても文句は言いませんよね」
「は?何言ってんだガキ。貴族なめんなよ?俺は男爵のローナライエン家の息子だ」
男はドヤっとしたように胸を逸らす。よっぽどローナライエンと言う家は良いところなのだろう。フィラは全く知らないが。
「ほぅ、そうですか。ローナライエン家…といえば靴の家ですね。革製の」
「ふーん?よく知ってるな。お前がどこの平民か知らないがなめんなよ?」
「舐めておりませんよ。ですが…来月以降の革は来ないと思った方が良いかと」
「は?」
フィラを残してマリノとローナライエンという姓を持つ人は話している。革製の製品は高価だ。それを作っているとは相当良いところだろう。
「それと、彼女をさっさと離して貰えませんかね。知り合いなのですよ」
「あ?こいつは魔力多いって学園で言われてんだよ」
フィラはゾワっとし逃げ出そうとバタバタする。
マリノははぁとため息をつき、男に近づく。
「貴方はご自身の家を潰したいらしいですね」
にこっとマリノは珍しく微笑んだ。基本的にマリノは口を結んでどこかむすっとしている。愛想が悪いとサクリに言われるのも無理はない。頭も少し固いということもありそうだ。
「は?何言ってんだお前。平民の癖に」
どうやら、男はマリノを平民と勘違いしているようだ。
それもそうだ。貴族は外に出る時、誰かと共に出ている。この男は適当にナンパするために一人でいるだけだろう。いつもは誰かつけていそうだ。一方、マリノは誰もつけていない。一人でいるようだ。
(どこを見たら平民なの…)
フィラはうぐっと何故かダメージを受けながらマリノの方を見る。
着ているコートは高価には見えないが上等なものだとわかる。身なりも整っており、どこからどう見ても良いところの人だ。この人を平民と言うからフィラはどういう扱いになるのか分からない。
(わたし、もしかして奴隷だと思われてる?)
フィラの思う平民の下のくらいの人は奴隷だと思っている。
少しは抵抗しながらフィラはグググと逃げようとする。相変わらずの馬鹿力で全く腕が抜けない。
「私は商家の息子でして。ご存知ですか?プラターヌ家と」
「…は?」
「はぇ…」
フィラはどこかで聞いたことある気がし、頭をフル回転させる。
(…あ、マスターさんが言ってたんだった)
フィラがアルバイトを始めたばかりだった頃、有名な商家の名前を覚えさせられたのだ。その一つであり、フィラの働くお店の経営家はプラターヌという名だった。




