秋・将来
「なにかしら。平民の娘」
フィラは、マリアンネにずいっと近づく。
「結婚相手ってどうやって決めたの」
「は?」
マリアンネは心底不思議そうにしていた。サクリも絶句している。まさか、そこから分かっていないとは思っていなかったのだろう。
「好きな人いたよね!その人と?それともまた別の人?」
「フィラ!?マナーマナーあるから!」
フィラはえ?という顔をした。疑問符で溢れかえっている顔だ。
「ふんっ、餞別として教えてあげますわ。アタクシの結婚相手はべスティン子爵の長男、アルベルス様よ」
「ベスティン…?誰…」
「あー、ファッション関係のとこ」
「へぇ」
フィラはよく分からないが、すごい人だとはわかったようだ。はぇーという顔をしている。マリアンネはキッとした表情をしている。
「貴族の中で恋愛婚なんてできませんわ。家の都合で婚約相手が決まる世界なのよ。所詮アタクシ達は駒ってところね」
「駒…」
「恋愛は一時期の楽しみとしてですの。どうせ政略結婚で婚約させられるのは分かりきっておりましたし…。恋をしても本気にならないのが貴族ですわ」
「へぇ…」
マリアンネの顔は真面目だ。本気でそう思っているように見える。
そして、マリアンネはすぐに空き教室から物を取ってどこかに向かった。きっと職員のところだろう。空き教室には生徒からの没収品もあった。マリアンネは最後にそれを取りに来たのではないかだろうか。
「…お貴族様って大変だね」
「うーん、まぁそうかも」
「本気の恋って楽しそうなのに…」
「本気なんてしちゃったらもうダメでしょ。好きでもない男と結婚して子を成して立派に育てないとなんだからさ」
サクリは扉を開ける。もう既に三十分は経ったのだろう。もう暗い。秋の終わりを告げている。
「で?これからどうすんの。先生とやらのとこに行くの?」
「行きたいけど…いるかなぁ。最近忙しそうだし」
「あいつらは最近何してんだか」
夏の終わりくらいからだろうか、学園の歴代最高記録を塗り替えた二人が何かを話しているようになった。フィラが教室に行けば大体向かい合って何かを話している。
もちろん、勉強は教えてくれる。
「レオも何してんだろ。マリノと一緒になってさぁ。まじよく分からん」
サクリは鞄を雑に持ち歩き出す。フィラもその後ろについて行く。
「あー、今年も終わりかぁ。何したっけ」
「色々やったじゃん」
「いろいろ、ねぇ」
サクリは頭の上で腕を組み蹴るような歩き方をする。
中等部三年目。来年からは折り返しの時期だ。授業はもっとキツくなり、時間も無くなっていくだろう。
「…はぁ、なんで婚約とか考えないとなんだろ…」
「生まれ持った才能を恨みなっ。ほら言うじゃん。世界は才能で出来ているんだよ」
「何それ…聞いた事ない…」
「知らない?アルデバラン作の『世界は何で出来ている?これで出来ている!?』てやつ」
「知らない…」
フィラはため息をつきノコノコと歩く。しばらくすると教室についた。
「こんにっちはー」
サクリは堂々と大きな声をかけて入る。そこにはやっぱりマリノとレオがいた。二人は今日も何かを話していたようた。
「うおっ、サクリとフィラちゃんじゃん」
「へいへい男子達?なーに話してんの!」
サクリは二人の間に置いてあった紙を取り上げてフィラの方に持ってくる。そこに書いてあったのは騎士団の名前と加入条件。
「「騎士団?」」
「こ、これには深ーい事情があってだな」
レオは気まずそうに紙をフィラから取り上げる。どうやら、レオが騎士団に入ろうとしているらしい。
騎士団の入団条件は、成績が良く、素行も良い人だ。そして、騎士団の中の魔術団に入るなら魔力も必要となる。
「あー、あんたって確か百…と少しだっけ」
「そーそー、普通の騎士団に入りたいけど最悪魔術団でもいいかなぁって。まだ決まってねぇけど」
レオはそっぽ向いて紙をマリノに投げつける。ひょいっと華麗に取った事が気に食わなかったらしい。レオはキッと威嚇するようにマリノの方を見た。
「じゃあ、マリノも騎士団?」
「いえ、私は別に」
「じやぁ、レオかぁ。レオに王国の未来を任せるの…ヤバッ面白すぎて笑えそう…」
ププとサクリは既に笑いかけている。フィラはポカンとしたままだ。
(そんなに考えているんだ…将来とか)
中等部三年。来年は四年生。将来を考えるのは早い時期だが、今考えて損はない。
「フィラちゃんはどうすんの。成績良くなれば王宮役所でも働けるでしょ」
王宮役所とは、王国の全ての情報を握っている場所だ。個人情報も企業の秘密も全て握っている。地下には王国の絶対に漏らしてはいけない情報が保管されている。さらに、二階には魔術師の頂点天八座の本部もある。
そこで働きたいという人は多いが毎年多くの人が希望している。とても狭き門だ。
「ど、どうだろ…。今アルバイトしてるところで働くのもありだと思ってる…」
「へぇ、フィラちゃんどこで働いてんの。露店?」
「商店だよっ。とっても綺麗なお店」
「へぇいいね。俺も見に行きたい…」
「いい人達がいるよ!」
フィラはキラキラさせてレオに言う。マリノも少し興味がありそうだ。一方、サクリはクスクスと笑って、肩を大きく震わせている。
「むっ、なんで笑ってるの!」
「い、いやぁ?なんでかなぁ?」
サクリはピューピューと全く吹けていない口笛で誤魔化していた。




