秋・婚約争奪戦
フィラは真面目に困っていた。とある事情を抱え、フィラは現在物置化している空き教室に逃げ込んでいる。
ここ数週間、フィラは授業が終わると同時に走り出し誰もいない教室に閉じこもっているのだ。理由は至って単純。最近、男子生徒からのお誘いが多いのだ。ギラギラし、魔力のある娘を取り込もうとする視線と女子生徒からの嫉妬の視線が激しいのだ。
それに耐えられないフィラは空き教室に逃げて三十分後に外に出ている。
「……いやぁぁ」
フィラは半泣きの状態で蹲る。このせいで勉強時間は削れるのだ。これはフィラにとって許される出来事では無いのだ。
「よっ、フィラ。元気?」
「…サクリちゃん…全然ダメ…泣きそう…」
「もう泣いてるから大丈夫しょ」
サクリは扉にもたれ掛かり欠伸をしている。眠そうだ。
「…どう?外」
「男が探してるねぇ」
「最悪…勉強…」
フィラは頭を抱えている。声が震えてうぐっとなっている。
フィラの優先順位は変わらない。家族を養うためにバイトをし、いい職につくために勉強をする。そこに恋愛を入れ込む気は無い。だが、周りが詰め込もうとしてくるのだ。
「フィラ、あのさ、真面目に結婚とか婚約考えた方がいいよ」
「やだよ…そんなこと考えてられない」
「考えなよ」
「やだ…そんなの知らない。平民だもん」
貴族と平民では文化も価値観も礼儀も違う。生活の仕方、お金の使い方、買い物の仕方、貴族社会に入るだけで困難しかない。
それがフィラにとっては恐怖でしかないのだ。
貴族達はフィラは魔力を持つ平民として見ている。平民が貴族の元に嫁ぐのは歴史上見ても珍しくはない。平民が貴族相手に嫁ぐか婿入りすると初めに始まるのが陰湿な虐めだ。相手の家族、付き合いのある人から見れば平民は部外者だ。
そして、子を成すための道具としか見られない。子を成せば終わりだ。その後は使用人として扱われるのがほとんど。
「…あのさ、フィラ。この調子で行くと本当に丸め込まれるよ」
「…知らないもん」
「不貞腐れてないでさ、その…あー、お見合いしてみたら?」
「やだ」
「…駄々っ子?」
「ちがうから…。人生設計にそれは必要無いだけ」
フィラの言うそれ、とは結婚の事だろう。実際、平民であれば結婚は絶対と言う訳ではない。独身の人も沢山いる。
「あー、フィラ、その、うちの兄貴でも紹介する?」
「なんで…」
「兄貴なら…変人で意気地無しだけど…虐めとかするタイプじゃないし。なんならあたしが盾になれるし」
「いいかなぁ」
フィラはパタリと床に倒れる。埃っぽいが仕方ない。何か、体重をどこかに預けておかないとダメになりそうだ。
サクリの兄は噂によればかなりの悪い人らしい。犯罪とかをしている悪いでは無く、ちょっと荒れていた人らしい。今は落ち着いているらしいが、サクリの言う意気地無しは家族の目線が入っているからだろう。
「じゃあ…あー、レオとか?」
「レオくんはなぁ…お友達でいい」
「うーん、マリノは?」
「マリノくんはいい先生だよ」
「あー、後は誰だろ」
レオもマリノも結婚相手としてならかなり良い物件だろう。二人とも性格はいい方だ。ただ、レオの場合大分女癖が悪いので大変そうだ。マリノも、最近は心理学にのめり込んでいる。なにかに必要らしいが傍から見れば怖い人だろう。
「うーん、フィラの周りって男いないよね」
「…だね」
「あー、マジで誰か紹介してーーー!」
サクリが大騒ぎしているとバンッと扉が開いた。うげ!?とサクリが潰れたような声を出す。フィラもバッと起き上がる。
「あら、何をしているのかしら。平民娘と…伯爵令嬢」
「サクリだ。サ・ク・リ覚えておけ」
入ってきたのはマリアンネだ。最近は学園を休みがちだったが何かあったのだろう。
「何か、用なの?」
「埃まみれの平民に用はありませんわ」
マリアンネの片手に持っているのは、紙だ。それも退学届の。
「マリアンネさん、やめるの?」
「は?え、マジ?」
「な、なんで平民と煩い令嬢に言われないとなのですか!?」
マリアンネは紙を後ろに隠した。よっぽど見られたくないのだろう。いつもならもっと棘のある言葉を投げつけてくるのに今日は大人しい。
「で?男爵お嬢様は何処に嫁ぐのかな?」
「嫁ぐ…?」
「そんなのも知らないのですかっ。これだから平民は…」
どうやら、聞いてみると貴族の令嬢は婚約者が決まると学園をやめ、花嫁修業を始めるらしい。そして、十九歳になったら嫁ぐのが現在の貴族の結婚事情らしい。
「へぇ…」
フィラは全くイメージが出来ない。花嫁修業も、何をするのか分からない。貴族は料理をしないため、料理をうまくなるための期間ではなさそうだ。
「ふんっ。伯爵の令嬢よりも早いのは不満ですが、まぁいいわ」
マリアンネの生まれは夏。今は十三歳のはずだ。これは貴族の中でも中々早く婚約者が決まったらしい。
「ね、ねぇ。マリアンネさん。聞きたいんだけど…」
フィラは背を伸ばして真面目な様子だった。




