夏・空腹で戦はできない!
「うわぁ…疲れた…」
「お疲れ様です」
フィラはベターッと机に倒れる。サクリとレオは既に帰宅した。レオは暑すぎて面倒になったらしい。それに、女の子とご予定がいっっぱい詰まっているとの事。一体どれだけの子と遊んでいるのだろうとフィラが心配してしまうレベルだ。一方、サクリは真面目に紙と向き合っていたがすぐに飽きてしまい、鞄から細い木の棒を取り出し投げて遊んでいた。それを教師に見つかり帰れと怒られたのだ。
結局、残ったのはフィラとマリノだけになってしまった。
他の生徒も来ることは無く、三時間ほど二人で勉強していたのだ。
「…お腹空いたな」
「何も持ってきていないのですか?」
「うん。夏だし」
「それは味が落ちるという意味で?それとも腐敗するから?」
「うーん。なんでだろ」
フィラは風を求めて窓を開ける。入ってくるのは生ぬるい風だ。
「ぬるい…お腹空いた…」
フィラは窓枠にもたれ掛かり髪を結ぶ。暑くて仕方ないのだ。
(露店やってるかなぁ…)
フィラは鞄の中から丸く紐で縛られた袋を取り出す。お金が入っているのだ。
「むっ、意外とある」
独り言として呟き、鞄に直ぐに戻す。
「マリノくんはお昼どうするの?」
「…抜くつもりでしたよ」
「なんで!?」
「一食くらい食べなくても死にはしませんし…」
「食べようよ!」
フィラはバンッと机に手を当てる。ジーンと痛みうぐっとなっている。
「痛い…ね、露店行こ!」
「え?」
「露店なら串焼きとか売ってるよ!いい経験になるし!!」
「えっと…そうですか」
「ほら行こ!お昼時逃すとなーんにも残ってないの!」
♧♧♧
「うーん。やっぱりあっついね」
「夏ですから」
二人は制服の状態で鞄を持ち外に出てきた。やはりどこも長期休み。制服で彷徨いている人はいない。
「何食べる?」
「お好きなものを」
「じゃあ、サンドウィッチとかどう?」
「お好きなように」
マリノはあまり食にこだわりは無さそうだ。だが、舌は肥えていそうだ。貴族で噂では中々名があるところの令息らしい。
そんな人を平民の露店に連れ出すのは良くない事なのだがフィラはあまり分かっていないようだ。腕を引いて露店の方に歩き出す。
マリノはあまり露店を見ないのか興味深そうに周りを見ている。フィラからしてみれば当たり前なものだ。だが、街に出ないであろうマリノには馴染みの無いものばかりらしい。
「店主さんっ。サンドウィッチ二つお願いしまーす」
「まいど!ねーちゃんは可愛いからなおまけだ」
「むむっ、いいの?」
「家内には黙ってくれよ?」
「はーい。ありがとう!」
フィラはしれっと二人分の料金を払った。マリノがそれに気がついて止めようとしていたが時すでに遅し。フィラはにこっと勝ち誇ったようた笑みを向けた。
サンドウィッチを受け取ったフィラは適当な場所に腰掛けてサンドウィッチを頬張る。
「美味しい!やっぱりお野菜も大事だよねぇ」
「一体おいくらだったんですか?女性に払わせるのはどうかと思うのですが」
「えぇ?そうかな。あんまり気にしてないよー」
「ですが、私が気にします」
フィラはむむっと少し不満そうな顔をしてマリノの方を見る。それはマリノも同じようだ。貴族の中では外食する際、男性が女性に何かを奢るらしい。よくそれでレオが破産しそうと嘆いているからフィラはこれを知っている。
だが、フィラはいつもお世話になっているマリノに何かお礼がしたかったのだ。あいにく、男性が、それも貴族の男性が喜ぶ物を思いつく訳がない。そのため、フィラは露店で奢ることにしたのだ。
そのことにマリノは不満なようだ。
「…ね、誕生日いつ」
「は?」
「いつ?」
「…快晴の三日です」
「わっ、先月!白雨の時期だね」
フィラはモグっとサンドウィッチにかぶりつく。夏こそ輝く野菜がふんだんに使われているためとても美味しい。
「…私の生まれの日など知ってどうするのですか」
「それ、誕生日のお祝いって事で。奢らせて」
フィラはサクリの見よう見まねで覚えたウィンクをしてみる。サクリほど上手くはないがマジマジと見なければ分からない程の違和感まで抑えたのだ。
「いえ、それは少々…」
「この話はこれで終わり!食べないと!お腹すいちゃうよ」
フィラは美味しそうにサンドウィッチを食べる。
マリノは何か言いたそうだったがフィラが取り合ってくれない雰囲気を頑張って醸し出していたので諦めたようだ。ため息をついてサンドウィッチを食べた。
「…美味しいですね」
「でしょ!」




