夏・補習
長期休暇に入った。
中等部三年生にもなると貴族達は婚約者候補を絞り、共にいる時間を長くしていくらしい。一方、平民のフィラは婚約者など全く興味が無く仕事と勉強に打ち込んでいた。
そんなフィラは今日は学園に来ている。
補習に来るためだ。
模試で八十位未満の人は補習を受けるように言われているのだ。フィラは約二年ほどマリノに勉強を教えて貰っているが八十位の壁は高く中々越えられないのだ。そのため、毎日のように補習に来ている。ちなみに、八十位未満の生徒はいるはずなのだが、真面目に来ているのは半分以下だ。
教師は頭を抱えたのか、勉強したい人は来てくださいと言っていた。
「今日は地学か…」
フィラは学園につくと紙の山を見る。
補習と言っても教師が教えてくれる訳ではない。自身の名前と問題が書かれている紙を全て書くと終わりなのだ。始める時間も終わる時間も決まっていない。
フィラが来るのは朝早く。お昼からはアルバイトに行きたいからだ。
「地学…うぅ、天体は出来るのに…」
うわぁとフィラは誰もいない教室で頭を抱える。フィラは紙の山を抱えて教室を出る。目的地は一つだけだ。
(おっも…)
フィラはうぅと呻きながら隣の教室の扉を開ける。
「お、フィラちゃんだ」
扉を開けるといたのはレオだ。机に腰掛けて美味しそうな飲み物を飲んでいる。レオは不動の二位だ。自分から来ているのだろう
そして、もう一人。レオの目の前で真面目に机に向かっているのはマリノだ。こちらも不動の一位なので自分から来たのだろう。
「マリノくん。お勉強教えて貰ってもいいかな…?」
「ん、構いませんよ」
マリノはペンを回しながら答えた。疲れているのかいつもは聞かない返事を聞いた。
フィラはちょこんと空いている席に座る。
「ねぇ、フィラちゃん聞いてよぉぉ。また振られた」
「えぇ…なんで…」
「しかも、今回は五分!五分で振られた!」
「五分…」
フィラは何故かレオの恋愛相談を受けている。貴族は恋愛しないと思っていたが、意外と楽しんでいるらしい。
「やっほーい。お、天才一人にポンコツちゃん一人」
「おい、俺はどこに消えた」
「えー見えないなー」
「聞こえてんじゃないか!?」
三人しかいなかった教室に四人目が入ってきた。元気よく入ってきたのはサクリだ。片手に美味しそうな牛乳とパンを持っている。
サクリが言った言葉に自分がいないとカウントしたのかレオは早速サクリに突っかかる。
「聞こえてるんなら見えてるよな?おい?」
「えー、元彼の声なんて知らなーい」
「え!?」
フィラは元彼という言葉に反応してしまった。絶対に反応しない方が良かったのにしてしまったのだ。サクリのニヤッとする笑みが見えた。
「そう!こいつ、五分間の彼氏だった」
「そんな本のタイトルみたいに言わないでよ…」
つまり、レオが昨日くらいに振られたという相手はサクリだったのだ。振ったのはサクリだろう。清々している。反対に振られたであろうレオはケロッとしている。フィラに縋ってきたのは本気でないと思う。
「まぁ、こいつは置いていて…。天才くんは何してるのかなぁ?」
サクリはレオを押し退けてマリノの方に向かう。レオがどうでも良いことをフィラに話している間も一人で黙々と本を捲ってたのだ。
「えーなになに?……心理学…は?お前なに…何する気なの!?黒魔術!?」
「何故禁忌に触れないとなんですか…」
魔術の中でも黒魔術は禁忌とされている。人や植物、動物を呪ったり、生態系、気象を破壊する等、人に外害を与える魔術だからだ。
「え、じゃあ何すんの。人の考え覗くのは犯罪じゃないけどキモイよ」
「少々必要なので」
「何に使うの…おい、レオ。こいつどうした」
「俺も知らん」
フィラだけが置いてけぼりなっているがレオとサクリはマリノをつついて遊んでいる。よっぽど集中力を切らして欲しいのだろう。二人は意外と構って欲しいのだ。
フィラも目の前にある紙の山から一枚取ってマリノの目の前に行く。
「…ね、これ教えてほしいなっ」
フィラも二人に便乗しマリノに声をかける。構って欲しい、というよりも本当に分からないから教えて欲しいのが正しい。
マリノは意外にも顔を上げてくれ、紙をひょいと取った。
「…これですか」
「そう」
「おい、こいつフィラちゃんにだけ優しい」
「うわぁぁ男女差別じゃん」
「サクリちゃん男の子だったの…?」
フィラはサクリの方を一瞬見てからすぐに目線を紙に落とす。沢山の文字と記号が書かれている。地学はまだ良いが化学になった瞬間フィラはパタリと倒れたくなってしまう。
「フィラちゃんマリノの事頼りすぎじゃない?たまには俺とか…」
「レオくんは忙しそうじゃん」
「マリノは忙しくなさそうなんだ…だってよぉ?マリノくんっ?」
「その口、縫い付けましょうか?」
「うわ…それは勘弁して欲しいわ」
真面目なトーンの声に怖気付いたのかレオはフィラの後ろに隠れる。フィラは疑問符が沢山浮かび思わずサクリの方を見る。サクリは呑気にパンを食べている。ここ最近は平民も簡単に買うことができるようになったチョコレートだ。甘い匂いがする。
「美味しそう…」
「食べる?」
サクリに差し出されたパンをパクリと一口貰う。もぐもぐと食べているフィラを見て三人は小動物をイメージしたのは言うまでもない。
「…!ご馳走様!美味しかった!」
「ほんと?ならよしっ!」
サクリはグッとガッツポーズをする。そして、そのまま流れるようにレオの頭をパンチする。レオは何か言っているようだ。
「…教えても良いですか?」
「あっ!うん大丈夫!ごめんね。ありがとう!」




