春・紬の日
「フィラちゃんが今日いるなんて珍しいわね」
「ほんとに。てっきり恋人といるのかと…」
「恋人なんていませんっ!」
フィラはマスターとシルクにからかわれていた。今日はアステリア王国の五大祭りの一つ紡の日だ。
愛の最高神、シモール・ニュウテがこの日に山から天に上ったからという言い伝えが残されている。言ってしまえば、愛や感謝を紡ぐ日ということだ。
フィラは毎年この日は家族で過ごしていたのだ。
だが、今年は学園の男子生徒からのお誘いが多く、断る口実としてアルバイトを入れたのだ。そのため、マスターとシルクにはとても茶化されているという訳だ。
「にしてもフィラちゃん貴族と結婚かぁ。こりゃ大変だ」
「そうねぇ。下手したらすぐに首が飛ぶ世界だから…」
「首が飛ぶ…」
フィラは想像して恐ろしくなり身震いする。
マスターとシルクには話したのだ。両親には話せていないが、頼れる大人を味方につけるべく、そして、アドバイスを貰うべく二人には話した。とても驚いていたがフィラなら大丈夫と言われたので少し前向きになっている。ちなみに、これを話したことにより断る口実を増やすべく、働く日数を増やしその分一日に働く時間を削る事になった。マスターには感謝してもしきれない。
「あ、この店舗のオーナーとかどうよ。フィラちゃんと同い年だし」
「やめてちょうだい。フィラちゃんがあんなよく分からない貴族の元になんて…」
「でもマスター。あの経営少年の父って結構偉大なんでしょう?」
「そうだけどフィラちゃんを渡すには許せない相手よ」
マスターとシルクはフィラの結婚相手についてよく話している。絶対に公爵辺りの方が良いや、学園で身なりがなってない奴は家でもロクではないとアドバイスを受けている。それをフィラは真面目に頭に記憶しているのだ。
「あ、マリアンネさん」
「え、友達!?見たい見たい!」
「友達というか…クラスの子です」
フィラはシルクに教える。シルクはマリアンネの姿を見ると、あーと渋そうな顔をした。
マリアンネは今日はいつもよりも気合いが入ったおめかしをしている。高そうなリボンにレース、宝石のブローチまでもつけている。
「デートかな」
「かもねぇ」
フィラとシルクはマリアンネを見る。キョロキョロと周りを見ているようだ。
(頑張れっ!)
フィラはガラス越しにエールを送る。
「二人ともーそろそろ店開けるわよー」
「はーい」
普段は遅めに開けているが、祭りの日等は早くから開けているのだ。
フィラはマスターの声が掛かると裏に行く。表で働くのにはまだ時間がかかりそうだ。シルクは髪を結び直している。
「ふっふふーん」
フィラは鼻歌を歌いながら荷物をシルクに渡していく。いちいち裏に戻るのが辛かったのでフィラが裏で働くと言った時には二人とも大喜びだったのだ。それは今も大して変わっていない。
「フィラちゃーん。ちょっと急いで、珈琲豆よろしく!」
「はーい」
フィラは籠の中のから珈琲豆が沢山詰められた袋を取り出しシルクに渡す。最近はシルクに品物説明が任されている。
マスターはレジ打ち担当になりつつある。レジ打ちをしながら欲しい品物を考えられるらしいので丁度いいらしい。
「そーいえばオーナーさんって誰だろ…知ってる人かなぁ」
フィラはのほほんとゴミを捨てにお店の裏の扉を開けた。すると、そこには猫がいた。
「ねーこさんっ。こんにちは。今からゴミ捨てに行ってくるね」
この辺によくいる猫だ。シルクが勝手に食事を与えた事でこの店に懐いてしまったようだ。マスターはこの事にキレてしまいシルクを叱っていた。
店で飼うことも出来ないため仕方なく外の周辺をうろつかせているのだ。
この辺は大きな馬車が通る場所が整備されているので猫が飛び出さない限り安全だ。
フィラがゴミを捨てに行くと、猫もついてくる。
「食事はごめんね。あげられないんだ…」
フィラはうぅと辛そうな表情をししゃがむ。猫は自身の可愛さを自覚しているのか首をコテンと傾げる。
フィラには盛大なダメージが与えられる。可愛い…と浸りながらお店にもどるとマスターがいた。
「お疲れ様ですっ」
「お、フィラちゃん。さっきお客さんがフィラちゃんいるか聞いてきたよ」
「…え?」
「女の子。桃色の髪の毛したくせっ毛の子」
「…サクリちゃんかな」
「今、店にいるからちょっと顔だしてみて」
マスターの言葉にフィラは頷き表の方に顔を覗かせる確かにサクリがいた。サクリもフィラに気がついたようだ。大きな声を出そうとしているのをフィラはしーっと指を立てて示す。そして、外の方を指さした。
フィラはそして、裏口から外に出てサクリを待つ。
「よっ、フィラ」
「何か用?お仕事中…」
「ごめんごめん。ほら、この可愛い可愛いサクリちゃんからの愛の品物」
「…?なにこれ」
「いい所のペン」
「これいいの?」
「友好の証として取っといて。じゃ、あたしはこれで」
サクリはそれだけを言うと街の象徴、噴水の方へかけていく。やっぱり足は速いのだ。
(…ペンだ。あと…インク?すごい立派…感謝しないと)
紡の日はプレゼントを送り合う日ではない。だが、サクリはフィラに友人としてのプレゼントをくれたのだ。
「ありがとうだねぇ。ふふ、何か返せるのかなぁ」
フィラは抱えながらお店に戻った。




