冬・お話
(貴族と結婚…気が早い気がするけど)
フィラはペンを回しながら困っていた。サクリに言われた次の日。フィラは何も集中出来ていなかった。
上手く飲み込めていないとも言える。
(うーん。困る。貴族社会教えてくれるって言ってたけど…わたしの生きる世界と全然違うのに)
フィラは教えてくれなくて良いと言ったが、サクリが引かなかった。元平民だからと言い子を産む道具にされるのは嫌だという事らしい。
「……、フィラさん」
「ふぇ!?あ、えっと、なぁに?」
「手が止まってますよ。分からないところでもありましたか?」
「え、違う…と思う」
フィラは歯切れが悪そうにしている。目が泳ぎすぎているのだ。嘘をつけない…と言うよりも思ったことが直ぐに顔に出る癖が出ているのだ。
「では、何か悩みでも?」
「なんで!?……あー、ど、どうだろうねぇ。わた、わたし分かんないなぁ」
「顔に書いてますよ」
「うそ!?」
フィラは頬を両手で隠す。言葉の意味を理解していないようだ。マリノはペンを置きフィラの方を見る。奥底の真意を探っているようだ。
それを察したフィラは手でガードする。
「女の子は秘密が多いんだよ」
「秘密というよりも悩みでは?」
「あぅっ」
フィラはグサッと見えない矢で刺された感覚に陥る。確信を突かれるのは苦手だ。隠すことが出来ないから。
「…話せるなら話して頂きたいですが…無理そうですね」
「ちがっ、無理とかじゃない!」
「無理ない範囲で話して貰えますか?何か力になりますよ」
「あぅ…その、あの…ね」
フィラは結局マリノの言葉に乗せられて話す事にした。身振り手振りがあり、少し幼い話し方になっていたがフィラ的には真面目に話しているつもりだった。
「──えへへ、サクリちゃんってば気が早いよねぇ。いくらなんでもまだ十二歳だし…」
「少し、遅いくらいかもしれません」
「え?」
マリノは椅子に寄り掛かりフィラの方を見る。いつもの真面目な視線だった。思わず姿勢が伸びる。
「確か昨年くらいに百五十の測定器を壊しましたよね」
「こ、壊してない…けど壊した…」
「大体二百ほどあったということですね。それをこちらが認識したのはその時です。この時点で貴女に目をつけていた人はいると思いますよ」
「うぐっ…そ、それよりなんで覚えてるの…壊したこと」
「魔力推薦で入ってきた子に興味があったからですよ」
「興味持ってたんだ…えへ、なんか照れちゃう…」
フィラはえへへと照れてしまい頬を抑える。赤くなっている気がしたのだ。マリノはペンに触れながら続ける。
「むしろ、あの時点で声を掛けてこなかったのは皆半信半疑だったからでしょうね。ですが、今年ので貴女の存在価値が公に出てしまった。それでこぞって貴女を婚約者にしようとしているのではないですかね」
「むっ、でも平民だよわたし。これが婚約届け!書け!!っていえばわたし、断れないじゃん」
「それは貴方の姓が」
「姓?」
「…なんでもありません。あまり気にしないでください」
「そう言われると気になっちゃうなぁ」
フィラはむむっと顎に指を当ててコテンとしている。
「まぁ、そうですね。貴族になれるポジティブに考えてみてはどうでしょうか。結婚相手にもよりますが」
「そうだよねぇ。サクリちゃんにはわたしに恋してる相手にしておけって言われた」
「…恋」
「そう!わたしが好きじゃなくても家族愛?的なものは芽生えるだろうしどうにかなるけど、わたしを大事にしてくれる人じゃないとダメだからだって。恋してくれている人なら、大事にしてくれるでしょってサクリちゃんに言われた」
「そう、なんですね」
サクリに言われたのだ。『あんたは自分に恋愛感情を向けている人を見つけるか、男子生徒誰かを落とすしかない』と真面目に言われたのだ。当初フィラはないない、と流していたがサクリがあまりにも真面目だったので聞いたのだ。意外と納得出来る理由だったのでフィラはとりあえず、頑張ろうと考えたのだった。
「…ほかに、サクリさんは何か言っていましたか」
「ほか?」
「…どういう貴族階級が良いとか、そんなのです」
「うーん。分かんないけどお貴族様ならなんでもいいんじゃない?」
「没落寸前の貴族はやめた方が良いかと…」
「確かに」
フィラは没落寸前の貴族はダメと頭のノートに書いておく。没落寸前の貴族の特徴はよく分からないが、きっと身なりとかでわかるだろう。
(にしても難しい…お貴族様がわたしに恋心を抱いてくれるのかなぁ?…ないな)
フィラはうわっと頭を抱える。貴族は恋愛結婚がとても少ないのだ。恋愛感情を抱こうとする人も少ないだろう。特に男性はそうだろう。後継や将来など考える事は沢山ありそうだ。
「…最悪先生かな」
「何故」
「うーん。先生独身だったし…あと、先生だから?」
「卒業してからなら良いと思いますが…在学中は辞めておいた方が…」
「わかってるよ!」
フィラはむっとしながら答える。これは最終手段なので使いたくないのだ。教師と一生とかフィラは絶対に無理なのだ。
「…何かあればまた言ってくださいね。力になれるかもしれませんから」
「ふへ、ありがとう!」
フィラは時計を見る。もうすぐバイトの時間だ。それに気がついたフィラは慌てて荷物を詰め始める。マリノはただそれを眺めているだけだ。
「…そういえばマリノ君は貴族階級?ってどれなの?」
「男爵ですよ」
「男爵…ってどこだ…?一番上?真ん中?」
「一番下ですよ」
フィラはそのことに驚き手を止める。マリノくらいの礼儀ならもっと上の方かと思っていたのだ。
フィラはマリノがサクリに『成り上がり男爵』と呼ばれていたのを覚えていないようだ。むしろ、覚えていても勘違いしたまま過ごしていただろう、
「へぇー、なんか意外だな。もっと上のやつ…はくしゃく?とかだと思ってた」
フィラは荷物を詰める手を再開する。マリノはまだフィラを眺めているだけだ。
「そうですかね。私は一番下ですよ」
「お貴族様って難しいなぁ…」




