冬・違和感
三年目の冬が始まった。今年も一番初めの日は魔力測定から始まった。半分以上の生徒が魔力が増えて喜んでいた。
魔力の増加する時期は二十歳までだ。二十歳をすぎればほぼ変わらないとされている。六十歳を超えれば魔力は減っていくがまだ年若い十代の生徒たちには関係がない話だ。
もちろんフィラも例外ではない。だが、異常なまでの数値を今年も叩き出した。今年は三百七。最後に測ったのが一年生の終わりだったためほぼ一年で役七十の魔力が増えたのだ。
これには生徒も教師もどよめきを隠していなかった。
(…これからどうなるんだろ)
フィラは一人でぼーっとして考えていた。夕暮れの教室で一人頬杖をついて窓を眺めている。本当は今日もマリノに教えてもらう予定だったがどうやらマリノの方が教えられなくなったらしい。貴族は忙しそうだ。
アルバイトまでも時間がある。それまでフィラは一人教室で過ごすつもりなのだ。
『君はこれからも魔力が増えそうだな』
『え、まだですか…』
『少なくても二十歳までは伸びるからな』
フィラは自身の手を見る。なんの面白みのない手だ。貴族の令嬢の手は小さく細い。守りたくなるような感じだ。フィラの手は仕事を真面目にこないしている手だ。
フィラはどうやら、歴史を変えてしまったらしい。
この王国には天八座という八つの魔術の最高峰がいる魔術機関がある。そこにいる【強化術筆頭】という人が今までの最高の魔力を持っていたらしい。その数値は二百九十五。魔術師でも中々いない二百を優に超え、三百近い魔力を持っていた。これは、覆せないと王国中が思っていたらしい。
だが、フィラは簡単に超えてしまった。まだ、十二歳なのに。これから伸びると言われる十五歳を待たず超えしまったのだ。
「魔術師になるつもりはないんだよねぇ」
フィラは椅子に寄りかかる。雪によって夕暮れが反射している。とても綺麗だ。
「あ、あの。フィラさん」
フィラは名前を呼ばれた気がし振り向く。よく知らないが顔は数回見た事ある男子生徒がいた。基本的に女子生徒はフィラを平民か小娘。男子生徒は平民かフィラ嬢と呼ぶ。男子生徒の方が丁寧なのは確かだ。
だが、フィラをさん付けするのは今のところマリノくらいだった。フィラは初めてのことに戸惑う。
「えっと…こんにちは」
「あー、こんにちは。その、今から街に行きませんか?」
「えっと、これからアルバイトなので、ごめんなさい」
「じゃ、じやあ、明日とか…」
「明日もバイトです」
「明後日は…」
「お勉強教えてもらうので」
フィラの最近の予定は固定化されてきた。今日のような日は例外だが、基本的に授業が終わるとフィラはマリノのいる一組に飛び込みみっちり二時間勉強を教えて貰っている。そこから走ってアルバイト先に行き四時間ほどアルバイトをして、帰る。すると十一時頃になる。シルクに送って貰っているので安心だ。
「わたし、帰りますね」
フィラは鞄を持ちよく分からない男子生徒の横を通り過ぎる。男子生徒は何か言いたそうにしていたがフィラには構っている時間が無いのだ。働かなければ食事も取れない。働かざる者食うべからずだ。
(出てきちゃったけど、どうしよう。まだ時間あるんだよね)
むぅ、とフィラが考えながら歩いていると角からバンッと出てき壁に腕を叩きつけフィラを塞ぐ男が現れた。
いわゆる壁ドンの状態になっている。違うところはフィラが壁ドンをしている相手と向かい合っていないことだ。
「…どちら様…?」
「君がフィラさんか」
フィラは怪しんだ目で男子生徒を見る。ネクタイの色が紫だ。ひとつ上の先輩ということを示している。
「ねぇ、今からどうかな」
「何がですか。わたし、今からアルバイトなんですっ」
「じゃあ、休日に迎えに行くよ。どこに住んでるのかい?」
「休日もアルバイトです」
「そんなに入れるかい?普通。嘘ついてるんじゃ…」
「お金を自分で稼いでみてください。その後もう一度来てください」
フィラは目の前の腕の下を潜り廊下を進む。
(さっきから何…アルバイトを軽く見て…来たら絶対に何か買わせてやる)
フィラが人知れず決意をしていると職員室からサクリが出てきた。
「サクリちゃん?」
「え、あ、フィラじゃん」
サクリは片手に大量の紙を持っている。作文用紙だ。
「サクリちゃん何したの?」
「物置ぶっ壊した」
「怒られて当然じゃん…」
フィラは窓から物置の場所を探す。確かに壁の一部が破壊されている。綺麗に丸く板がボロボロになっていた。
「フットボールのボール投げ入れた」
「あんなに綺麗に丸くなるんだ…」
すごいでしょ?とサクリはドヤっとしている。そして、持っていた反省文の用紙を窓から投げ捨てる。風によって綺麗に飛ばされた。
「いいの?」
「いいのいいのー、てか、フィラ今日も凄いこと叩き出したね」
「うーん。あんまり嬉しくない」
「あっそ」
サクリはフィラと共に校舎の入口に向かう。
校門を出てサクリが馬車に乗り込むのをフィラは眺めていた。するとサクリは馬車から降りてきた。
「どうしたの?」
「あのさ、フィラ。あんた、多分、貴族と結婚する事になるよ」
「…へ?」
フィラの口からは抜けた声が出てきた。だが、サクリは真面目そのものだ。
「貴族は魔力の高い子を宿すために政略結婚する。それは知ってるでしょ」
「えっと、うん」
「平民に魔力が高い人いないのは貴族が魔力の高い平民を貴族に上げたから」
「…なるほど…?」
「あんたはこれから、絶対に貴族の男に色々言われる。お見合いも来る」
「お見合い!?」
「そう、絶対に避けられない。だからさ、あんたは───」




