夏・知りたい名前
「どーぞ召し上がれ」
「ねーちゃんありがとう!!いっただっきまーす」
フィラがお昼としてテイルに作ったのはパンとポトフだ。簡単に作れるし、尚且つ温めれば美味しいポトフ。フィラの得意料理だ。
適当に色々な野菜を入れているだけだが、テイルと父には好評だ。母はニコニコで味が薄いと言ってくる。
「ねーちゃんこれからどうすんの。バイト?」
「うーん、まだ時間あるからなぁ」
「おれ、川遊びしてくる」
「えー、昨日雨降ったのに?」
夏だからという事もありそうだが、恵みの雨がよく降っている。春は全く降らなかったので父は大喜びしているがテイル含め、初等学校に通う子は不満そうだ。
「やめときなよ。この間もお貴族様のご令息…?が溺れたらしいじゃん」
「でも助かったじゃん」
「あれは、メイドさんとかがいるから助かったんだよ」
テイルはちぇっと舌打ちしてパンを詰め込む。喉に詰まらせる!とフィラが注意するも中々辞めない。思春期だからかなぁ、とフィラが考えているとポタポタと雨が降ってきた。
「雨だね」
「……川行けないじゃん」
テイルがむすっとしていると父が帰ってきた。お昼の休憩なのだろう。
「おかえり」
「お!フィラのポトフか!!美味いもんな」
父はドカッと椅子に座りテイルがポトフを持ってくるのを待つ。
「…自分で行けよ」
「テイルー頼む!お腹空いた」
「行けよ自分で!!」
テイルはブツブツ文句を言いながらポトフを皿に注ぐ。ん、と不機嫌そうに父に差し出した。父は歓喜に浸っているようにダバダバ涙を流している。
「さすがテイル……自慢の息子!!そしてフィラのポトフも美味い!!流石俺の娘!!」
父は泣いたまま右にテイル、左にフィラを抱える。テイルは嫌そうに頬を押す。フィラはふへ、と少し照れくさそうに笑っている。
「少し早いけどわたし、バイト行ってくるね」
「フィラー!?父を置いていくのか!?」
「稼がないと!」
フィラはそれを言うと鞄を持って外に出て行った。それを男二人はなんとも形容しがたい表情を見てみていた。
「父さん、ねーちゃん変わった」
「なんでだ…恋か!?」
「は!?ぜっっっったいに!許さない!!」
♧♧♧
「こんにちはー」
「お、フィラちゃんやっほー」
「こんにちはシルクさん」
フィラがお店の準備をしているとシルクが入ってきた。今日はマスターの休みの日だ。どうやら、恋人探しをするらしい。この間の春にあった紡の祭りで相当心を痛めたようだ。恋人いない相手にあの祭りは酷い。消滅してもいいと思う。ということをマスターはシルクにずっと言っていたらしい。
「今年は花冠はないんですねっ」
「もーやめてよー。今年はマスターに『やるなよ?やったら給料下げるからな?』ってさぁ、脅されてるの」
「そうなんですね」
フィラはふふっと笑いながらお皿を並べる。夏は青いお皿がよく売れるのだ。食事の失せる色なのに、とフィラは思ったがそんなの関係ないらしい。世の中は不思議だ。
「こんにちは」
お店を開ける前に声がしてフィラは慌てて裏に入る。この間、お店の制服を着てゴミを捨てに行っていたら色々難癖を知らない人につけられたのだ。マスターの姪ということにしておいて良かったと心から思った瞬間だった。
「あ、あ、こんにちは…きょ、今日はお日柄もよく……」
シルクはたどたどしく緊張しているようだ。
それもそうだ。マスターもシルクも平民だが、マスターは貴族相手にもよく話をしている。シルクもお客さんには話せるが貴族と一体一で話すことは無い。
(経営している人かな…わたしと同い年のお貴族様)
フィラはチョコンと顔を出す。シルクに隠れて見えないが背丈はあまり無さそうだ。十二歳なのだから当たり前といえば当たり前だが。それにシルクは女性の割に身長がある。フィラと十センチの差は確実にある。
(まぁいっか。お皿の品出しと…花瓶あるかな)
フィラは裏にある在庫を確認しに向かった。
「フィラちゃん!フィラちゃん!!助けて!」
シルクは大慌てでフィラに駆け寄る。持っていた花瓶を危なく割りそうになったがギリギリセーフだった。
「どうしたんですかっ」
「やばいやばい…マスターにバレたら殺される…」
「どうしたんですか!」
フィラは泣きついてくるシルクを心配する。よっぽど酷いことがあったのだろうか。
「お貴族様に叩かれたんですか!?わたし、叩き返してきます!」
「そんな事しないで…違うよ…店のオーナーが来たんだよ」
「あ、やっぱり」
「でさぁ…あの男の子やばい。下手したらこっちより商売見据えてる」
簡潔に言えばシルクは年下の貴族に怖気付いたのだ。
「…見てきていいですか」
「やめておきなよ。まじでやばいあの人…あの子の父親とか絶対ロクな奴じゃないから」
「むぅ」
フィラは疑問に思いながらも花瓶を棚に元に戻した。




