春・知らないよ!
「よ、フィラお疲れぇ」
「お疲れぇ……」
「うわ、液体になってる」
フィラが机の上で突っ伏しているとサクリが教室に入って来た。鞄は持っていない。
「サクリちゃん…数字がグルグルしてる…」
「何言ってんの」
サクリはフィラの突っ伏している席の隣の机に座る。椅子に座る気は無いようだ。
「私は帰りますね」
「はーい。ありがとう!」
「いいえ」
マリノは鞄を手に取りそのまま扉の方に向かい、閉めた。閉めるあたりやっぱり良い所の人だなと感じる。
一方サクリは開けっ放しだった。これは育ちと言うより本人の癖だろう。
「でー、あいつとは順調?」
「うーん、数字が巡ってる」
「狂ってる」
えいっとサクリはフィラの頭にチョップを入れる。痛かったのでフィラはうぅと頭を押さえて半泣き状態になった。
うぐうぐ言っているフィラを気にせずにサクリは窓を開ける。
「でー、どうよあの無愛想な奴と」
「やっぱり頭いいと思う」
「それだけ?」
「うーん。サクリちゃんとレオくんは無愛想って言うけどそこまでじゃないと思うよ」
フィラから見れば無愛想とかけ離れていると思っている。対応が素っ気ない訳では無いし、誰かが来れば真面目に対応している。笑顔かと言われたら微妙だが、そこそこ愛想は良い方というのがフィラからの評価だ。
「え、ほんとに成績上げたいだけ?」
「そうだよ。アルバイトクビにされたくないし、退学も嫌だ」
「え、マジ?マジで言ってんの」
「?そうだよ」
サクリは何かをブツブツ言いながら頭をかいている。フィラは疑問に思いながらも椅子に座ったままだ。今日はアルバイトが休みだから良いが、普通にあったらサクリの事はほっといて急いで向かう。
「さっきから裏を聞くようなこと聞いてどうするの?わたしは、勉強して成績上げたいだけなのっ!」
「……いやー、初めて見たなぁ。そんなやつ」
「むっ、なんか失礼」
「ホントなんだってアイツ、一年の時から知ってるけど…まぁなんというかねぇ」
「歯切れ悪いよ」
「簡単に言えば女にモテてた」
「……はぁ」
サクリが堂々と言う内容は見ていれば分かるものだった。フィラが勉強していると良く貴族ご令嬢が入ってくる。そして、フィラは見えない物のようにずっとマリノに話しかけている。そんな時、フィラは今日の様に教壇に隠れてやり過ごす。
つまりこういうことだろう。サクリはてっきりフィラが成績を上げるという口実の元会っているのではと考えていたのだ。
たが、フィラはただ単に成績を上げたいという白すぎる目的で三ヶ月過ごしていたのだ。
「うわー、面白くなーい」
「面白さを求めないでよ… 」
「女嫌いのアイツが勉強教えてるんだよ!?絶対に面白いじゃん!」
「よくわかんない…」
フィラは鞄の中身を整理する。中からは必要なものしか出てこない。あと、アルバイトで使う制服が入っている。洗濯したばかりだ。
「ちなみに、あんたさ上位三つの大事な事は何?」
「退学しない、お金稼ぐ、成績上げる」
「面白くない!!年頃の女なら恋愛とか男を落とすとかあるでしょ」
フィラが鞄を持ったのを見てサクリは教室から出る。サクリも帰るつもりなのだろう。校舎を出るとレオが校門で女の子たちに囲まれていた。
「お、ナンパ男だ」
「されてるんじゃない……?」
「いいんだよ。アイツいっっつも女を『可愛い妖精さん』って言ってるから」
レオは相変わらず女子生徒の名前を覚えておらず妖精さんで乗り切っているらしい。サクリとフィラは堂々とレオの隣を通り過ぎる。
「あ、ちょ、サクリ!!!フィラちゃん!!!助けて!」
その声を聞くとサクリはフィラの手を引いて走り出す。
「さ、サクリちゃん!?」
「逃げたもん勝ち!」
フィラはただサクリについて行くだけになる。少しするとサクリは止まった。フィラは急には止まれずサクリにビャンとぶつかった。
「よっし!逃げれた!」
「い、いたい…」
学園からだいぶ離れたところについた。そこでサクリの迎えの馬車を待っていると、すごい足音が聞こえてきた。
「サクリ!!!!お前絶対に許さん!!!」
レオが怒りながら追いかけてきたのだ。後ろに見えるはずの無い炎が見える。
「えー、あたしだけ?フィラは?」
「フィラちゃんは可愛いから許す。お前はダメだ末代まで呪う」
「きっも…執着激しいとか女に嫌われるよ」
「は?女の子はみーんな俺に惚れ込んでるが?」
「惚れてねぇ女二名ここにいるが?」
サクリとレオの言い合いが始まった。こうなると手が付けられない。暴力的な喧嘩だったらフィラが止めに入れば自然と収まる。だが、言葉の言い合いになるとヒートアップしていくばかり。どうにも手が付けられない。
実際、勉強を教えて貰っいる時に隣で言い合いが始まったことがあった。その時、フィラが止めに入ろうとするも、やめておきなさい、とマリノに言われたのだ。
(…バイト行こうかなぁ)
フィラはこの二人をほっといてバイトに行く事にした。休みでも気が済まないのだ。
サクリの迎えはレオに任せてフィラはお店に向かった。




