春・わー、青春だ!!
放課後。多くの学生は放課後活動に精を出すか、帰宅しゴロゴロ過ごすかの二択に絞られる。例外として真面目な生徒は勉強に勤しんでいる場合もある。
フィラの場合、どちらとも言えなかった。
「…これはどうするの」
「…先程の式です」
「これかぁ…うーん?」
フィラとマリノは向かい合って座っていた。フィラはペンを持ちとても悩んでいる。一方、マリノは教本片手にフィラのノートを指さしている。
八十位以上いかなかったら退学と言われてから三ヶ月が経った。進級後初の模試の結果は八十二位。フィラは焦って教師に退学は勘弁を…と言いに行ったところ、当の本人は覚えておらずよく分からないと言う顔をされてしまった。
フィラが珍しくプンスカ怒っていたところをサクリに目撃され、話してみると一瞬ポカンとされその後大笑いしていた。
同じことをレオとマリノにも話すと二人は呆れていた。これが教師に向けての呆れかフィラに向けての呆れかは不明だ。
ただ、一年生の時の順位から五位は上がっているので勉強の効果が現れ嬉しくなったフィラは今もマリノに教師をしてもらっているのだ。
余談だが、模試でサクリは七十八位を取ってフィラに自慢していた。レオとマリノは不動の二位と一位の様子だ。
「うーん。数学…三角…比率?比率とか知ってどうするの」
「いつか使えますよ。きっと」
「保険かけてる…」
うぅとフィラは唸りながら数字を書いていく。公式を覚えるのも使うのもフィラは苦手なのだ。あまりにも、うぐうぐ言っているフィラを見て呆れたのか休憩にしようとマリノは言った。
フィラがパァっと明るくなったのは言うまでもない。
「ね、世間話しようよ」
「お一人でどうぞ」
「えー、楽しくない」
むっ、とフィラは窓に視線をズラす。夕暮れの空が綺麗だ。
「あ、クリケットしてる。あれ楽しいよね」
「そうでしょうか」
「運動苦手?」
「そこそこ出来る程度ですよ」
「ふへ、そっか」
フィラはいいなーとでも言うように見ている。フィラが外を眺めていると扉が開いた。名前は知らないが顔はたまに見るご令嬢達だ。
「あら、マリノ様何をしているのですか」
「少々勉強を教えているのですよ」
「そうなのですね。流石ですわ!是非次は──」
令嬢は何かを楽しそうに、燃える闘志を隠すように話している。反対にマリノは困惑していようだ。
(想い人……なのかな。邪魔しない方がいいよねぇ…うーん。どうするべきだろ)
マリノの方に気がなくても令嬢は気がありそうだ。サクリに聞いたが、もう中等部に入ってから婚約者探しは始まっているらしい。
サクリは全く決まっておらず面倒すぎてお見合いは全て無かったことにさせているらしい。一体どんな事をしているのだろうか。
フィラはなるべく令嬢に見つからないようにさっと気配を消すように頑張る。そのために教壇に隠れてみた。教壇には教師の忘れ物が置かれていた。それを引っ張り出し読んでみる。全く面白くない経済の本だった。
「───いいアイディアでょう?」
「そうですね」
「嬉しですわ!やはり今度是非我が家へ…」
「申し訳ありませんがそういうのはお断りさせて頂いているのですよ」
「あら…そうなのですね…」
令嬢の声とマリノの声が教室に響く。フィラは黙々と本を読んでみる。面白くないが、紙の本は貴重だ。感覚を覚えておきたい。
(む、夜はお酒とか売った方いいんだ…。だからわたしが帰るときお酒の品出ししてるんだ。へー、流石マスターさん…)
フィラがキラキラした目で見ているとコンコンと上から響いた。
本を邪魔されてムスッとなったフィラはチョコンと顔を出す。
「なんですかっ!」
「……怒ってます?」
「怒ってない!」
「なら良いのですが…。どうしますか。勉強」
「……する。あと、十ページ待って」
フィラは立ち上がり本を読み進める。きっとマスターは読んでいるはずだ。フィラは文字を追いながら内容を頭に入れていく。数字は入らないが経営の事なら入ってくるのだ。
「そーいえば、女の子嫌いだっけ」
「は?」
「サクリちゃん言ってたじゃん。女の子嫌いって。あの子も女の子でしょ。よく話せるなぁって」
「……それ、貴女が女性では無いと言ってるものですよ」
「はっ!確かに……」
フィラは本を戻しながらうーと悩む。人の好き嫌いに突っ込むつもりは無いが女嫌いなら勉強の先生役になってもらうのは諦めるべきなのか今更悩んでいるのだ。
「あぅ……でもなぁ」
「何がでもなんですか。やっぱり今日は終わりにしますか?」
「あ、ダメっ!やる!」
フィラは本を元の場所に戻し机に戻る。近くにあったペンを持ちノートを開く。初めは勢いがあったが徐々に萎んでいく。いつの間にか初めと同じような状態になった。
「数字、わかんない…黄金比とか関数…なにこれ」
「数学は嫌いですか」
「うーん。嫌いでは無いけど…嫌い」
「どちらですか」
「中間」
売上の計算は好きだ。沢山数字を足していくのは楽しいし、何よりパチッと合うといい気分で仕事を終われるのだ。
だが、比率や本格的な計算は苦手だ。全く面白みを感じない。
「…数学って必要?」
「きっと必要ですよ」




