冬・ピンチピンチ大ピンチ!!
「フィラ。言いたいことはわかったな」
「……はい」
「では、戻れ」
フィラは職員の教室から出ていくと扉の前で蹲った。
(どうしよう…どうにか進級できたけど、次の模試で八十以上じゃなかったら退学……?)
フィラの成績は絶不調だった。
六教科のうち、最低ラインといわれる点を常に叩き出し、順位も下から数えた方が圧倒的に早い。
もちろん、模試の度に補習を受けてもう一度模試を受ける事をずっと繰り返しているのだ。一応、補習の後の模試は半分以上取れているので退学には至っていなかった。
だが、進級できたと言っても酷い点という事でフィラに声がかかったのだ。
「あー!どうしよう!!本当に……これまずいじゃん!」
「なーにしてるの」
その声にフィラはバッと顔をあげる。サクリが棒を咥えて立っていた。
「さ、サクリちゃーん……。次の模試で八十超えないと退学だってぇぇ」
「まじ?ウケる」
サクリは大笑いをして棒を外に捨てる。ポイ捨てをしたサクリをフィラは睨むが向こうは全く気にしていない。
「サクリちゃん……勉強教えて…」
「まっかせなさい!」
サクリはそう言うと鞄から紙を取り出した。順位が書かれたものだ。そこに書かれてあるのは、七十九という数字。
「ギリギリじゃん!?」
「フィラより頭良いでしょ」
「大して変わらないじゃん!」
フィラは更に頭を抱える。フィラが頼れるのはサクリくらいなのだ。サクリ以外の貴族とは結局仲良くなれず一年が経った。
学力推薦を貰ったもう一人の平民は名前すら知らない。よって頼ることは出来ない。
「てか、よくその頭で一年ついてきたね」
「大して変わらない頭に言われたくない!」
フィラが通っていた初等学校は普通の学校だった。基礎中の基礎しか教えて貰ってないからと言えばそうだが。
そもそも、平民と貴族の学力は天と地の差がある。これを埋めるには何百時間、何千時間の勉強が必要となる。学力推薦を貰った人なら天と屋根の差かもしれないが、魔力推薦で入学したフィラは平民の頭なのだ。
どう足掻いても貴族の上に立つことは出来ない。
「てか、それ最下位の子にきてねぇよ」
「は!?」
「平民だけってことじゃね?」
「ここにも差が……」
フィラはジメジメして床に座り込んでいる。キノコが生えていそうだ。サクリは見えないキノコをとる仕草をして遊んでいる。
(本当にどうしよう……このままじゃ退学…。学歴が無いと仕事つけないし、アルバイトも辞めることになる……?それはヤダ!)
フィラは縋る思いで廊下に張り出されている順位表を見る。
一位から百位まで丁寧に書かれているものだ。この紙が勿体ないと思うほど毎回張り替えられている。
「……一組」
「は?」
「サクリちゃん、行ってくる!」
「どこに!?」
サクリの悲鳴を聞かずにフィラは廊下を走り出した。折ったり、切ったり、伸ばしたりしていないスカートが揺れ動く。
(一組、一組……あった!)
フィラは一組の扉をバンッと思いっきり開けた。中にいた男子生徒二人が驚いたような、何とも言えないような表情をしている。
「ね、ねぇ、マリノさん?っている?」
「……私ですが何か」
その言葉にフィラはパァっと目が輝いた。
「お願いします!!わたしに勉強を教えて下さい!!」
フィラは両膝をついてペコリとお願いする。
フィラは分かっていないが、敬意やお願いをする際は片膝をついて頭を下げるのが常識だ。残念ながら、フィラはわかっていないようだが。
「おー、どうすんのマリノ」
「どうすると言われましても……」
マリノに声を掛けているのは気障な男レオだ。レオはマリノの座っている椅子の目の前の机に腰掛けていた。
「な、何でもします!えっと……あ、何か奢りますか!」
「いえ、いいです」
「うーんと……。あ、リピルとかあげます!」
「いえ、いいです」
「じゃあ何がいいんですかっ!」
「何も要りませんから…」
フィラは自分が出せる最大の物を提案したが、残念ながらマリノには必要なかったみたいだ。うーんとフィラが真面目に考えて顔をあげる。
「……あ、落し物の子だ」
フィラが順位表を見て一位のところに名があった人。それがマリノだ。そして、その人は春にフィラに無理やり銀貨を押し付けた人でもあった。
「フィラ!!あ、いた。なにしてんの」
「あ、サクリちゃん。今、お勉強教えてって頼んでる」
サクリは教室に入り、フィラの元に近づく。そして、机に腰掛けてたレオを押し落とし、代わりにサクリが机に腰掛けた。落とされたレオが何か叫んでる。
「フィラこいつはやめときなよ」
「え、なんで?」
「愛想悪いよぉ」
「そう?お勉強に愛想は必要無いじゃん」
「それに、大の女嫌い」
「そうなの!?」
フィラはそれを聞くとバッと離れた。持っていたペンで壁を作っているつもりなのだろうか。ペンを立てて顔を前に持ってきている。
「女嫌いだって……ぷぷ、ウケるわ」
大笑いしているレオをマリノは思いっきり蹴りつけた。やっぱり貴族は暴力的なのかもしれない。




