表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
elf:1000 ─千年戦記─  作者: 世葉
第三章 聖地防衛作戦
PR
67/72

第六十六話 旅の終わり

 ──そして、夜が明けた。

 俺たちは、何事もなく朝を迎えていた。

 そびえ立つ“巨人の骨”も、結局ただそこにそびえ立っているだけだった。ピクリとも動くことはなかった、当然のように。


 ……なんだろうな。馬鹿げた想像をしていたのが、馬鹿らしくなる。

 その不気味さにも、一晩ともに過ごすと、慣れてくるんだから不思議なもんだ。


 とはいえ、安心してばかりもいられない。

 俺たちには、まずここから出るって問題が残っていた。さて、どうするか。


 天井を見上げれば、俺たちが落ちてきた穴はまだ見えている。あそこまで辿り着ければ、外へ出られるはずだ。

 ──まあ、届けば、の話だが。

 手段はいくつか頭に浮かぶ。だが、こういうのは素人考えで動くより、詳しい奴に聞いたほうがいい。


「エゲプロン。ここから出るには、どうしたらいい?」

 俺が尋ねると、エゲプロンは少し顎髭を撫で、ゆっくり口を開いた。

「ふむ。これだけの空洞がある、ということは、じゃ」

 そう言いながら、つるはしの先で地面を軽く叩く。


「もし完全に塞がっとるなら、地下水が溜まるはずじゃ。じゃがの、地面はよく乾いておる」

 確かに、言われてみればそうだった。地下だというのに湿っぽくない。水たまりひとつ見当たらない。

「つまり、水の抜け道がどこかにあるのじゃ。人間が通れるほどの大きさであればいいがの」

 エゲプロンは空洞の暗闇へ視線を向けた。


 なるほど。天井まで登るより、横穴を探したほうが現実的ってことか。

 ──流石ドワーフだ。山ってもんをよく分かってる。


 エゲプロンは、しばらく空洞全体を見渡していた。

 どこから水が流れ込み、どう抜けていくのか。頭の中で組み立てているようだ。やがて、考えがまとまったのか、今度は視線を地面へ落としたまま歩き始める。俺たちは、その背中についていった。

 すると、彼の言った通りだった。水の通り道らしき穴は、思ったよりあっさり見つかった。


 だが、当たり前だが、その先は真っ暗だ。どこまで続いているのかも分からない。

 正直、ここを進むのは中々勇気がいる。でも、他に選択肢もなかった。


 ──まあ、なんとかなるだろ。ヒースも、エゲプロンもいる。

 俺は山を登った時と同じように、性懲りもなくまた、適当な楽観を抱いていた。


 そしてそれは、今までだったなら、ろくでもない結果になったもんだ。けど……今回は、違った。


 松明を掲げながら、俺たちは暗い道を進んでいく。水の流れる音だけが通路に響く。

 最初は身を屈めないと通れないくらい狭かった穴も、幸いなことに、奥へ行くにつれて少しずつ広くなっていった。

 どのくらい歩いたんだろう──長かった気もするし、案外短かった気もする。こんな暗闇の中じゃ、時間の感覚なんてあてにならなかった。


 ただ、歩いて、歩いて──そして、俺たちは、出口へ辿り着いた。


 道の先に繋がっていたのは、俺がエゲプロンと最初に出会ったところにあった、あの地下水路だった。

 つまり、俺たちは三人が出会った場所に戻ってきたわけだ。

 何事もなく、無事に。拍子抜けするくらい、あっさりと。


 ここまでの旅を想うと、その終わりが、こんなに静かなものだとは思いもよらなかった。

 けれど、旅の終わりなんて、そんなものなのかもしれない。


 俺は、二人に別れの言葉を言った。……たぶん。

 正直、なんて言ったのか覚えてないんだ。

 でも確か、そう。泣いて抱き合ったりは、してなかったはずだ。きっと……。


 ──それから俺は、村へ戻った。


 そこには、俺が一度は「価値がない」と決めつけて捨てた、何事もない日常が残っていた。

 なのに……なんでだろうな。もう、捨てられなくなっていた。


 山の頂上を見たせいか。それとも、あの二人と過ごした時間のせいなのか。

 飽きるほど見た人の顔とか、いつもの飯の味とか、酒場の騒がしさとか。

 そんな、どうでもよかったものが、妙に愛おしく思えたんだ。


 ……ああ、そうだ。こんなこともあった。

 つい調子に乗って、気になっていた教会のあの娘に、山の話をしたんだ。

 そしたら、とても気に入ってくれて、すっかり仲良くなっちまった。


 気づけば、毎日のように話しをするようになっていた。

 そのまま、俺たちは結婚して、子供もできた。

 そして、どこにでもあるような平穏な暮らしを送った。

 山のことなんて、少しずつ思い出さなくなっていった。



 それから時が経ち、俺の子供が、自分の足で歩き回れるようになった頃――

 村に、おかしな連中がやって来た。


 そいつらは、自分たちを『王国の調査団』だと名乗った。

 調査団──? と言われても何様だか分からなかったが、村長はそいつらを信じた。ちゃんとした証書でも見せられたんだろう。


 見たところ、兵士って感じじゃない。

 剣を下げてる奴もいたが、どっちかっていうと、学者だの職人だの、そういう連中に近かった。

 荷物は妙に多いし、本や紙束を抱えてる奴までいる。それでいて、山道を歩き慣れてる空気もあるから、不思議な集団だった。


 なんでもそいつらは、巨人にまつわる遺跡や伝承を追って、各地を回っているらしい。

 何とも酔狂な話だ。軍隊でもないこんな連中に、王様は何を期待してるんだか。

 ま、俺に人様の事をどうこう言えた義理はないんだが……。


 その調査団の目的は、“巨人の住処”。つまり、あの山を探索することだった。

 その話を聞いた瞬間、俺は嫌な予感がした。できるなら関わりたくない。そう思っていたんだが、まあ、そういうわけにもいかない。


 俺は、早々に呼び出された。縛り付けられて、無理矢理連行された。なんてことは、ないが……。

 まあ、しょうがない。因果応報ってやつだ。あの山に登った話は、結構いろんな奴に喋っちまってたからな。


 ──「これは、これは。スタインさん、どうも。お呼び立てして申し訳ありません」

 俺を見て、眼鏡をかけた男がいきなり頭を下げてきた。名乗った覚えはないが、一通り調べはついてるってことなんだろう。

「私、レンヴェールと申します。不肖ながら、この調査団の隊長を務めております。どうぞよろしく」

 頭を挙げると、握手を求められた。悪い奴じゃないみたいだ。俺はそれに応えた。


 すると、その横からまた別の男が声をかけて来た。

「僕は副隊長を務めています、トーケといいます。早速ですが、スタインさん。いくつかお話を聞かせてください」

 隊長さんより、こっちの方が仕事ができそうな感じだ。ま、話だけで済むのならいくらでも。


「──でもな。俺があの山で見たものは、多分あんたらが聞いたことで全てだよ」

 嘘はない。山の頂上に登ったことも、ドワーフに助けられたことも、エルフと出会ったことも、巨人の骨も、俺はいろんなところで誰にでも話した。そのすべてを信じる奴なんて、いなかったがな。


「それに、もう何年も昔の話だし、細かいことは忘れちまった」

 これには少し嘘があった。記憶の中に、未だに鮮明に覚えていることがある。


「ええ。それで構いません」 レンヴェールは言う。

「我々が知りたいのは、あなたが見た巨人の骨についてです」


 ──だろうな。こいつらは、俺に興味がある訳じゃない。


「貴方のような方の証言を頼りに、我々はこれまで幾つもの調査を進めてきました。ですが……そういったものが、真実であったと証明できたことは、一度もありません」

 そこに、トーケが口を挟む。中々、失礼なことを言ってくれる。

 まあでも、そりゃそうだろう。俺だって、隣の家の奴が俺と同じことを言い出したら、嘘だと思う。


 その失言を庇うように、隊長は真意を語る。

「いえいえ。決してあなたを疑っているのではありません。その真偽に関係なく、我々はあの山を探索するために来たのですから」

「ただ──我々も無駄な手間は省きたい。あなたが見た巨人の骨の場所。それを知りたいのです」


 隊長の言葉は、俺を悩ませた。

 地図かなんかを広げられて、 「はい、ここです」 と、指して示せるような場所を、覚えてなんかいない。

 それを、こいつらも多分、分かってる。つまり、こういうことだ。付いて来い、と。案内しろ、と。


 強権を使って言うことを聞かせようとしないのは、それができない理由でもあるのか、隊長の人柄なのか、知らないが、どちらにしろ俺に選択肢はないのだと、予感させる。

 それに──そうだな……あいつらとの約束もある。

 俺は、覚悟を決めた。だが、一つだけ確認しなけばならないことがあった。


「もし、山でドワーフとエルフに出会っても、危害を加えないと約束してくれ」


 隊長は、それを笑って了解してくれた。

 その笑いの意味は、本当に巨人以外の事に興味がないのか、それとも、俺の言葉に力など無いからなのか、知らないが……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ