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elf:1000 ─千年戦記─  作者: 世葉
第三章 聖地防衛作戦
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第三十六話 処刑の作法

「――貴殿は、そのエルフの計画に、いかなる手を講ずるおつもりか」

 沈黙を破り、クローペルはヒューベルに問う。

 それは議論のためではなく、考えを曝け出させるためのものだ。


 数瞬の思索。ヒューベルは、わずかに目を伏せる。

「……手、と呼べるほどのものはございません」 その声音は揺らぐことなく、軽い。

「ただ──彼らの目的も分からぬままでは、折角講じた手も無駄になりかねません。であれば──」

 視線はクローペルから円卓に滑る。 「まずは話し合いをしてみては?」


 その瞬間、空気が鋭く裂けた。 「……話し合い、だと?」

 それに応じたのは、クローペルではなく、ショルテだった。


 彼女の視線が、まっすぐにヒューベルを射抜く。

「貴様は、我らが流した血を穢すつもりか……」

 低く押し殺した声。だが、その奥にあるものは隠しきれない。


「同胞の血は、仇敵の血によってのみ(あがな)える」

 まるで敵を前にしたような、剥き出しの敵意が向けられる。

「どうしても話し合いを望むというのなら、我らが首級(しるし)を奪ってこよう。それとでも語らうがいい」

 一言一言が、断罪するかのように重く落ちる。ショルテは信仰にかけ、一切退く気はない。


 彼女から殺意の刃を喉元に突き付けられながらも、ヒューベルは一切動じなかった。

 むしろその言葉は、ますます羽のように軽くなる。肩をすくめ、軽く頷き、口元を緩める。

「どうせ奪って来られるのなら、首級ではなく、ぜひ生け捕りにして欲しいものです。エルフの女性は皆、見目麗しいと聞き及びますので──」


 そして、最後に一言添える。 「まあ……。貴女ほどでは、ないかもしれませんが」


 最後の余計な一言は、明らかに一線を超えていた。

 空気が軋む。騎士の誇りを皮肉で返され、場は一瞬で凍りつく。


「勇者殺しは、周到な準備によって為されたものである──」

 その緊迫した二人の間を、意にも介さぬように、ゆるりと低い声が通り過ぎる。

「であるなら、その後の展開も計画された内にある」


 テュッテバルの視線が、ヒューベルへと向けられた。

「ふん……その演繹(えんえき)は、確かに筋が通っておるようにもみえる」

 顎に手を置き、思案するように目を細め、声がほんの僅かに沈む。


「だが──未来とは常に不確定である。この真理に立つならば、その理屈は強弁に過ぎるのではないか?」


 横から入った彼の探求の一手に、結果的に救われたヒューベルは、その問いに真摯に応える。

「……ええ、その通りでございます」

 姿勢を正し、素直に認める。だが、退かない。

「ですからこそ――その“不確定”を埋めるために、話し合いという手段を提案しているのです」

 先ほどまでの軽口とは違い、声音は落ち着いている。


 だが、テュッテバルの探求は、そこで止まらない。

「ふむ……」 息をつくと、視線がわずかに鋭さを帯びる。

「であれば、何も“話し合い”に(こだわ)る必要はあるまい。むしろ、軍を差し向けた方が、証明はよほど容易であろう」

「――そうは思わんかね?」

 その言葉は、感情を必要としていない。ただ、手段の合理性のみが置かれている、静かな問いかけだった。


 ヒューベルは、初めてわずかに言葉を詰まらせた。

「……そう、言えるかもしれません」

 認めつつ、しかし、そのまま飲み込まれることはない。


「ですが――私は御三方と違い、“軍隊”と呼べるものを持ち合わせておりませんので、その場合は、事が済んでからお声かけください」

 小さく肩をすくめる仕草には、口元にいつもの軽い笑みが戻ってきていた。


 このような暴挙に出たエルフの運命は、すでに定まっている。その点において、この場の四名に意見の相違はない。

 故に、この円卓会議の論点は、ただ一つ──話し合いをしてから殺すか、殺してから話し合うか。

 いかなる手順で遂行するか、その作法を協議をしているに過ぎない。


 やがて、場の落ち着きを見計らい、クローペルが口を開いた。

諸卿(しょきょう)の見解は分かった」 短い言明。に対し、一拍挟む。


「……だが依然として、エルフの軍の所在は掴めておらぬ。とはいえ、手当たり次第に森を焼き払うわけにもいかぬ」

 声音は淡々と、しかしそこにある懸念は、払拭し難い。

「諸卿に、打開の策はあるか――?」


 その問いに、間を置かず応じたのはテュッテバルである。

「勇者一行の生き残りが、興味深い証言を残しておる」

 指を組み、わずかに視線を落とし、低い声をより低くして語り出す。


「襲撃を受ける前に、自分たちはプルサチラの住居へと招かれた、と」

「無論、それが真に住居であったかは、今となれば疑わしい。だが、その地は濃密な神秘に溢れた森であったらしい」

「エルフが危険を冒し接触を図ったのは、勇者の弱点を探るためであろう。であるならば、用意したその場は、勇者から信頼を得るものでなければならん」


 ゆるやかに顔を上げる。

「──それを合わせて考えれば、その森はエルフにとって、特別な意味を持つ聖地であると推察できよう」


 クローペルは、その進言を受け、一度静かに目を伏せる。

 思案のためのしばらくの沈黙。そして、ゆるやかに目を開いた。

「――よろしい。では、ここに王名をもって、諸卿に告げる」

 そのたった一言は、場の空気を変える。


「王国は、此度のエルフの蛮行を決して赦さぬ」 声音は硬く引き締まる。

「よって国軍、並びに神殿騎士団、魔法評議会師団の軍勢をもって、エルフの森への進軍を命ずる」

 ここに、王の代理人として、秩序の番人として、クローペルは執行権を行使する。

 誰一人、これを拒否する道理も、権利も有していない。


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