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elf:1000 ─千年戦記─  作者: 世葉
第二章 勇者暗殺作戦
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第三十三話 三分の一

 俺は、勇者なんかじゃない。……たぶん。

 でも、ここを乗り切るには、そういうことにしておいた方がいい気がした。

「けほっ。……そうだよ」 多少の罪悪感が、語尾を(かす)れさせる。


「ふーん。なるほどね」 女は、値踏みするように俺をじっと見る。

「確かに、力を感じるわ。私じゃなければ見逃がしちゃうくらい、とっても小さいけど……」


 あれ──? なんか、予想外の反応が……。言ってみるもんだな。


「それで──その勇者様たちが、ここで何をしていたの?」

 あ、やっぱり。なかったことには、してくれないのか。まあ……そうだよな。

 それとこれとは、話は別──って言わんばかりに、尋問を続ける気満々だ。


 どう答えようか俺が迷っていると、ドワーフが先に口を開いた。

「儂らは、この山に登るため、あの地下道から出てきたのじゃ。そうしたら、偶然おぬしの裸が目に入っての」

 ああ、そうそう。事の経緯を、いい感じにまとめてくれてる。

「珍しいこともあるもんじゃと、思わず二人で、じっくり凝視してしまったんじゃ」

 いや、だから。頼むから、余計なことは言わないでくれ……。


「ふーん。なるほどね……」

 女は、真偽を確かめるように俺を見る。その目は、さっきより鋭い気がする。

「あの山を登るつもりなのは、本当みたいね……」

 しばらく考えるようにしてから、女は口を開いた。


「ねぇ、私も連れてってよ。そうしたら、今回の件は不問にしてあげる」

 意外な提案。なんだか、ずいぶんと都合のいい話で、逆に怪しい。

 と、思うより早く、ドワーフが前に出た。


「おお、それは有難い。エルフのお嬢さん。この老いぼれをお赦し下さり、まことしやかにアリがたき」

 俺の返事を待たずに、話がまとまりかけている。……まあ、いいか。

 どうせ、語尾がおかしくなったドワーフには、何を言っても無駄なんだ。


 ただ―― ……ん? 今、なんて言った。エルフ?


 改めて、女の顔を見上げる。

 整いすぎた顔立ちに、やけに長く尖った耳。輝く銀色の髪は、確かに人間の物とは思えない。

 ――ああ、なるほど。そりゃ、あんなこともできるわけだ。

 さっきの水蛇は、エルフの魔法か。……恐ろしい。ここはもう、逆らわない方がいい。


「ああ、わかった。一緒に行こう」 何でもない風を装って、俺はそう言った。

「決まりね。準備するから、ちょっと待ってて」

 そう言って、エルフはくるりと背を向ける。その横顔は、心なしか笑っているみたいだった。

 ……気のせいか?


「――あ、そうそう。忘れてた」 背を向けたエルフは、ぱっ、とこっちを振り向き直す。

 振り向きざまの勢いそのまま、パンッ! パンッ! と乾いた音が、二つ鳴った。


 ……ああ。気のせいだったみたいだ。

 じん、とした痛みが広がる。俺とドワーフは、頬を赤く腫らして待つことになった。

 不問とは──? 一瞬そんな考えも浮かんだけど、まあいい。あれだけのことをしたんだ。これくらいで済むなら、むしろお釣りがくる。

 痛みがあるのはしょうがない。だって、それは今回、神には頼まなかった。


 しばらくして、エルフは身なりを整えて戻って来た。

 ああ言っておいてなんだが……正直、ちょっと意外だった。

 あのまますっぽかされて、待ちぼうけ。なんてオチの方が、しっくりくる。けど、ちゃんと戻ってきた。

 ――なんでだ。なんでこいつは、俺たちなんかと一緒に行こうとしてるんだ?

 そんな疑問が浮かんだが、戻ってきた彼女を見たら、そんな言葉は引っ込んだ。


 ……まあ、いいか。どうせ、なるようにしかならない。



 ……──あーー……やっぱり、やめときゃよかった……。

 俺は内心、そう呟きながら山を登っていた。二人の手前、口には出さないが。

 行けるとこまで行って、後は二人に助けてもらおう──最初は、そんな蜂蜜みたいな甘い考えでいた。


 ……いたんだが。山の現実は、そんなに甘いもんじゃなかった──。


「おーい。少し、待ってくれんかの」

 後ろから、何度目かの“待った”が飛んでくる。

 振り返ると、またドワーフが岩場の途中で止まっていた。

 骨格のせいか、重さのせいか、この瓦礫の足場はすごく歩きにくいらしい。

 歩きやすそうなところを選んで、迂回して、また止まる。一歩一歩やたら慎重に、時間がかかってしょうがない。


「ちょっと! 待ちなさいよ!」

 今度は前から、エルフがしゃがみ込んで、こっちを睨んでいる。

「あーもー……。ブーツの紐が切れた。ねぇ、直して」

 こっちはこっちで、何度目かの”呼び出し”だ。

 造りのしっかりしたエルフの靴は、俺のよりよっぽど上等に見えるのに、紐が見事に切れていた。仕方なく、しゃがんで、結び直す。

 さっきから、エルフはそういう細々(こまごま)とした用事を、俺に何度も吹っ掛けてくる。


 それで──俺は気付いたんだ。一人で登った方が断然早いって……。


 そりゃな、三人で登ったって、登る長さは三等分されないんだから、三倍早くなることはないよ。

 でもさ……まさか三人で登ったら、登る早さが三分の一になるなんて、思わないじゃん!


 ドワーフと、エルフか……。はぁ……。

 どうやら、この二つの種族は、登山が上手いってわけでもないようだ。いや──後世に残すなら、もっと正確に記録しよう。

 この二つの種族は、登山が壊滅的に下手糞だ。


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