第三十話 寓話
”むかしむかし、はるか昔のお話です。
世界のまんなかには、天にも届くほどの大きな一本の木がありました。
その大きさは、森よりも大きく、陸よりも大きく、海も飲み込むほどの大きさがありました。
その高さは、山よりも高く、雲よりも高く、お日さまにあと少しの高さまでありました。
その木は、すべてのいのちを生み出している、世界をささえる大きな木でした。
あるとき、その大きな木の根っこの上に、三人の王があらわれました。
人間の誰より勇敢な人間の王。
ドワーフの誰より強いドワーフの王。
エルフの誰より賢いエルフの王。
三人の王は、三人とも、この大きな木を欲しがりました。
人間の王は、こう言いました。
「この大きな木を僕が手に入れたのなら、もっといっぱい、いのちを生み出せる」
ドワーフの王は、負けじとこう言いました。
「この大きな木をワシが手に入れたのなら、もっといっぱい、みずを生み出せる」
最後に、エルフの王は、こう言いました。
「この大きな木を私が手に入れたのなら、もっといっぱい、かぜを生み出せる」
三人の王は、三人とも、自分が一番だといって、ゆずりませんでした。
そこで、三人の王は、三人で話し合って、こう約束しました。
「地上は人間のもの」
「地下はドワーフのもの」
「枝の上はエルフのもの」
こうして、三人の王は、大きな木を三つに分けて、それぞれの場所で平和にくらしはじめました。
大きな木はなにも言わず、三人を、ただ静かに見守っていました。
けれど、その平和は長くは続きませんでした。
あるとき、大きな木のどこかから、悪魔がいっぴき、あらわれたのです。
いっぴきの悪魔は、三人の王にこう言いました。
「この大きな木は、俺のもの。いのちも、みずも、かぜも、ぜんぶ俺のもの」
しかし、そう言われても、三人の王は、大きな木を三つに分けて、それぞれの場所で平和にくらしていました。
だから、悪魔の言うことに、三人の王は、耳をかしませんでした。
怒った悪魔は、まず地下に行き、ドワーフたちの、みずをからしました。
ドワーフたちは、悪魔に文句を言いましたが、悪魔はみずをかえしません。
困ったドワーフの王は、人間の王に助けを求めます。
話を聞いた人間の王は、悪魔と戦うことを決めました。
怒った悪魔は、地上に出てくると、人間たちから、いのちをうばいました。
人間たちは、それでも悪魔と戦いつづけ、悪魔はさらに多くのいのちをうばいました。
こうして、大きな木のふもとで、大きな戦いがはじまりました。
剣がぶつかり、炎があがり、戦いのたびに、大きな木はきずついていきました。
枝は折れ、葉はしおれ、ついに、大きな木から、かぜがふかなくなりました。
エルフの王は、ひとり深く悲しみました。
エルフの王は、戦いを止めようと、人間にも、ドワーフにも、そして悪魔にも呼びかけました。
けれど、怒りに燃える者たちの耳には、その声はとどきませんでした。
そして、戦いが続いた、ある日のことです。
大きな木に、大きな音が、鳴りひびきました。
それは、大きな木に、大きなひびが入った音でした。
みずがかれた大きな木は、いのちを生かすことができません。
かぜが止まった大きな木は、いのちを成長させることができません。
大きな木は、ゆっくりとたおれてしまいました。
大きな木は、生み出したすべてのいのちを使い果たし、世界をささえることができなくなりました。
そのときになって、ようやく戦いは、おわりました。
悪魔は、欲しいものがなくなって、またどこかに、消えてしまいました。
三人の王は、三人とも、大切なものを失って、大きな声で泣きました。
しかし、どれほど悲しんでも、大きな木は、もう二度と育つことはありませんでした。
おしまい。”
王国に伝わる寓話 『三つの王と大きな木』




