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elf:1000 ─千年戦記─  作者: 世葉
第二章 勇者暗殺作戦
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第二十七話 人間の魔法

 人間の目には、精霊は映らない。

 人間は、精霊が起こす現象を通して、その存在を知ることしかできない。

 かつてプルサチラは、人間に精霊魔法を教えた。だが今日に至るまで、精霊が見えた人間は、一人としていない。


 だから──人間は、魔法を進化させた。


 まず、理解できる形へと、魔法を一つの論理体系にまとめ上げようとした。

 例えば、火の魔法一つに対して、発生、持続、熱量、空気との相互作用、魔力効率──それらすべての要素を切り分け、一つずつ分析し、再定義する。

 その試みはあらゆる魔法系統に及び、これまでの術は再構築され、やがて術理として体系化されていった。


 さらに、エルテから受け継がれた血の魔力──これにも、人間は手を加えた。

 強い魔力を持つ者同士を掛け合わせ、より優れた資質を次代へと繋ぐ。それを何世代にもわたって繰り返し、特に優れた優良種を磨き上げた。

 その果てに生まれた現在の魔法使いは、すでに魔族に比肩する魔力を宿している。

 これは短命種の人間だからこそ、できたことだった。


 人間はなおも問い続け、精霊が見えないことへの解決策も模索した。

 精霊とは、気まぐれな自然そのものである。だが、人間の魔法行使に限って言えば、魔力を杖の魔法石へと循環させる仲介者でしかない。

 見えぬものを見ようとするのではなく、その姿が見えないままでも、その働きさえ捉えられればよいのだ。


 その過程を定量化し、再現すれば、同じ結果を得られるはずだ──ある研究者がそう考えた。

 詠唱を定型文とし、消費する魔力を固定化し、発現の条件を厳密に定める。誰が扱っても同じ結果に至るよう、魔法を型へと落とし込む。

 この研究は実を結び、精霊を意識することなく、同じ魔法効果を高い再現性で生み出すことに成功した。


 この概念は、人間社会の魔法の在り方そのものを変えた。

 かつては限られた者だけが扱えた魔法は、血の広がりとともに、その担い手は飛躍的に増えていく。

 もとは戦場のための力であった魔法は、人々の暮らしを支える基盤としても、広く普及していった。


 数多の研究者たちの積み重ねの果てに、人間の魔法は、より効率的に、より便利に、そしてより強く、進化を遂げた。

 それは、精霊と共に在ることを選んだエルフとは、決して交わることのない、もう一つの到達点だった。


 魔法使いリラは、間違いなく歴代最強の人間の魔法使いである。

 だからこそ、その実力を買われ、彼女は勇者の仲間として選ばれていた──。


 怒りに震えるリラは、目の前の敵へ構える杖に、力を込める。

 確実に獲物を殺すため、本能は理性を従え、思考を巡らせた。


 ──あの精霊魔法はまずい、使わせる訳にはいかない。上級魔法で勝負しては、勝ち目はない。

 ──なら手数で……。大丈夫、詠唱速度も、再詠唱も私の方が速い。それに、私には多重詠唱もある。

 ──絶対に、仕留めてみせる。


 次の瞬間、リラは動いた。

Sphaera(スファエラ) ignea(イグネア)(火球)”

 詠唱を、同時に走らせる。術式が、素早く組み上がる。

 杖の先に宿す炎は、一つではない。二つ、三つ、四つ──同時に編まれた炎は、まったく別の軌道を描いて放たれた。


 その火弾が着弾するより早く、間髪入れず、次の詠唱に入る。

Lancea(ランケア) telluris(テルリス)(土槍)”

 杖が地を指すと、地面から土槍が突き出す。それは次々と飛び出し、地を這う波となってプルサチラに突き進んだ。


 全方位から襲いかかる攻撃に、プルサチラは囲まれる。

 逃げ場はない──しかし、彼女には迷い一つなかった。


ᚢᛁᚾᛏᛦ(ヴィンドル)(風よ)──”

 プルサチラは跳躍し土槍を躱す。そしてその勢いのまま、迫り来る火球の一つに身を投げた。

 彼女は炎に包まれる。だが──彼女は燃えなかった。風は彼女の身を守り、小さな炎など寄せ付けなかった。


 その光景に、リラは歯噛みした。

 魔法障壁によって弾かれたのではない。これは、魔法現象そのものへの介入──有り得ない。

 長い祈りと多くの魔力を捧げ行使する上級魔法でもないのに、それがこんなに容易く実現できて良い道理は無い。

 とんでもないインチキ、イカサマ。こんなデタラメは許されない──何か、秘密があるはずだった。

 そして、その答えに至るのに、それほど長い時間は掛からなかった。


 ──あの杖を、どうにかしないといけない。


 リラは考える時間が欲しかった。

 プルサチラの魔法に、ではない。この理不尽を可能とする、あの杖──あれさえ奪えれば、この精霊の力も消える。

 そのために、彼女は杖を構えたまま、口を開いた。


「どうして……」 怒りを押し殺し、こちらの狙いを読ませず、逆に相手に考えさせる言葉。

 今さら敵に対し問うても仕方ない言葉を、あえて投げかけた。


 プルサチラには、答える義務など無かった。だが、彼女は応じた。

「それは、貴女が杖を構える理由と同じよ」

 それは確かに、問うても仕方ないことだった。


 リラの思考は走る──

”Lancea telluris(土槍)” ”Cataracta(カタラクタ) glacialis(グラキアリス)(氷瀑)”

 ──二つの呪文の同時詠唱。

 地にかざした杖に大地が応える。地面が隆起し、土槍が突き出す。同時に、冷気が走り、隆起した土塊ごと一瞬で凍結させた。

 二人の間に突如出現した巨大な氷塊は、互いの視界を遮った。


 間を置かず──

”Sphaera ignea(火球)” ”Catena(カテナ) fulguris(フルグリス)(雷光)”

 ──さらに続ける同時詠唱。


 天に掲げた杖からは、炎を纏った稲妻が迸る。だが、その矛先は、プルサチラに向かわなかった。

 その狙いは、敵ではなく凍てついた土槍──その中心を狙いすましたように、雷撃が直撃した。


 その瞬間、密閉された凍土に、超高温が叩き込まれる。内部の空気は灼熱と化し、熱は行き場を奪われたまま、圧力を一気に臨界まで押し上げる。

 そして逃げ場を求めるかのように、瞬時に膨張すると、限界を超えた土塊は内発破裂を引き起こした。

 轟音と共に、凍結した土槍が粉砕される。爆風と共に、無数の破片となって砕け散る。鋭利な氷と土が弾丸となって、四方八方へと炸裂した。


 それは、避けようのない全方位物理攻撃。もはや、魔法ではなく、純然たる物理現象。

 人間の魔法は、逃れようのない暴威と転じ、プルサチラに襲いかかった。


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