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八つ世の守護者達!  作者: 鹿米 夕ヰ
第一章  〜有能と無能〜
12/14

【10】人生の分岐点

すみませんでしたァァァァァ!

気が付けば早二十数日が経過しておりました。

しかし最近体育祭やテストで忙しいのです、どうかご勘弁を!


ではでは本編をどうぞ〜


瑛士は漂《たゆと》うていた。周りは只暗く、一切の刺激が存在しない、そんな空間に。


・・・・・・ここは・・・・・・何時《いつ》だったか、一度来たことがあるな・・・・・・。


ぼんやりとした思考の隅で考える、が、不思議とそれが何時の出来事だったのか、思い出そうとは思わなかった。

脳が思考を放棄している、どういう経緯で今に至ったか、それすらも思い出せなかった。


「・・・・・・んっ! ・・・・・・さんっ!」


不意に、微かに響いてきた雑音に意識を向ける。

雑音? いや違う、これは・・・・・・


「声、か?」


そう、それは声だった。それも聞いたことのある声。"澄んだ"という形容詞がこれ程までに似合う声。この声は・・・・・・・・・・・・。


「天城さんっ!!」


ドンッ! と、瑛士の胸に衝撃が走る。その衝撃で、一時忘却していた情報が雪崩の様に戻って来た。

姫川《ひかわ》を追ってここまで来たこと、空を飛び戦う、姫川と襲撃者を見たこと、襲撃者の少年に怒りの矛先を向けられたこと、そしてーーーー


「っ!?」


瑛士はがばりと上体を起こし、両手で自らの腹を探る。瑛士に向かってきた巨大な礫は、確かにここに突き刺さった。だが、本来なら良くて陥没、悪くて穴が空いている筈のその場所には、


「何も、ない・・・・・・」


「傷は、私が治癒しましたから」


「っ、姫川・・・・・・」


声をかけられて初めて気付く。瑛士の傍らに姫川が座り込んでいた。


「ごめん、なさい・・・・・・天城さん」


その目は赤く充血していて、声も儚く震えていた。

治癒したとはどういう意味か? 何故翼が生えていたのか? 聞きたい事は幾つもあった。だがまず確かめておかなければならないことを、瑛士は姫川に問う。


「彼奴《あいつ》は?」


彼奴とは無論襲撃者のことである。瑛士のその問いに、姫川はゆっくりとその指先をある一点に向けた。そこには大量の土塊が堆積している。


「あれ、です」


「あれ? あの砂の山か?」


意味が分からず、頭の上に大量のはてなマークを乗っけて居る瑛士に、姫川は「はい」と首肯し、溜まっていた涙を拭った。

暫く無言で心を落ち着けている姫川を待つ。すると彼女はおもむろに顔を上げ、潤んだ瞳をそのままに、瑛士を、正確には瑛士の胸の辺りを見つめ、ぽつりと言った。


「・・・・・・心臓」


「心臓?」


「天城さんの心臓、止まってたんです・・・・・・」


「止まってたって・・・・・・」


俺は普通に生きてるぞ、言おうとして、思い出す。先の真っ黒な空間に、胸に響いた大きな衝撃を。

まさか、そう思い、瑛士は姫川のその小柄な両手を見やった。彼女の両手は固く握られ、所々赤く熱を持っている様だった。


「まさか、本当に・・・・・・俺死んでたのか」


彼女の手の赤みと、心臓が止まっていたという発言から導き出される答えを、瑛士は一つしか知らなかった。すなわち、心臓マッサージだろう。


「本当に、巻き込んでしまってすいませんでした」


再び頭を垂れようとする姫川を制しながら、瑛士は彼女が言った言葉を反芻していた。"巻き込んで"、その言葉は言外に、姫川があの出来事の中心にいたことを表している。


「・・・・・・・・・・・・説明してくれ」


長い沈黙の末に瑛士はそう口にした。何をかは言わない、いや、言えないというべきか。彼自身、自分が何を説明して欲しいのか、それが分かっていなかった。





姫川は思案する。瑛士が説明を求めて来たことは、本来ならば意地でも隠し通さなければならない機密事項だ、説明など出来ようはずもない。だが巻き込んでしまって以上、ある程度の情報を開示しておくのは当然といえよう。


『どうしましょうカテリナ?』


レイは、心の中で彼女の相方たるカテリナに呼びかける。実は先程の戦闘から今までの間、ずっとレイの横に浮かんでいたのだ。


『あなたはどうしたいの?』


質問を質問で返されたことに少なからずの不満を感じながらも、


『話したいです』


『じゃあ、決まりね』


レイの心は既に決まっていた。






「・・・・・・・・・・・・天城さん」


空白が場を支配し、瑛士が説明を諦めかけた頃、唐突に姫川が口を開いた。


「これから話すことは、信じられないかもしれませんが全て真実です。

信じる信じないは天城さんの自由ですが、どうか他言無用でお願いします」


「ああ、分かった」


教えてもらえるという実事に密かに安堵しながら、瑛士は心を落ち着ける。

姫川は"信じるか信じないか"と言っていたが、実際瑛士は全部信じる気でいた。何たって空中戦やら虚空から現れる礫やらを見せつけられたのだ、これ以上何が来てもそうは驚かない、そう思った。

では、と言い、姫川は話を始めた。


「初めに、この世界、いえ、世界を括るカテゴリー、時空とでも言いましょうか。この時空には地球を含むこの世界を含め、実に八つの世界、通称八つ世があります」


「ホー、何かあるとは思ってたけどまさか異世界とは、しかも八つ・・・・・・」


「はい、第一世界の『エナ』から始め、第八世界の『オクト』までで八つです」


そして、と姫川は続ける。


「八つ世の秩序や治安を守護するために、各世界の監視や、場合によっては制裁を加える組織があります。それが、私が所属する『蜘蛛の仔』です」


「何で"蜘蛛"の仔なんだ?」


「それは、メトリー様に会えば分かります」


「メトリー様? 組織のトップか?」


姫川はぶんぶんと首を上下させ「はい!」と目を輝かした。


「メトリー様はとても美しい方なんですよ、聡明で、温厚で、さらに神様なんです」


「ふーん、それは是非とも一度・・・・・・・・・・・・か、神様?」


「はいっ、神様です!

私達蜘蛛の仔は、八つ世を見守るメトリー様の手足として働くのが仕事なんです」


「か、神様の手足って、それってもう天使じゃないか? 翼生えてたし・・・・・・・・・・・・あれ・・・・・・翼は?」


瑛士が気が付かない内に、いつの間にか姫川の背中に生えていた翼は、影も形も無くなっていた。


「天使、確かにそういう言い方も出来るかもしれません。ですが、翼は私が空を飛ぶために付けていたものですよ?」


「・・・・・・え、翼って着脱式なのか?」


天から降りてきた天使が自分の翼を取り外している光景は、なかなかにシュールだ。

しかし瑛士の言葉を受けて、姫川はいえいえと首を振った。


「あれは『エルピダ』の力です」


「エルピダ?」


どことなく聞き覚えのある言葉に、瑛士は思わず鸚鵡返しに応えていた。


「はい、蜘蛛の仔に入った際にメトリー様から授かる、意思発現の力、それがエルピダです」


「意思発現って、どういう意味だ?」


「それは、実際に見てもらった方が早いですね 」


そう言うと、姫川はやおら立ち上がり、右手を前に出した。

思えば先の上体を起こした体制のまま、ずっと話を聞いていたのだ。

瑛士もずっと座りっぱなしで凝っていた体をほぐす為に、立ち上がり大きく伸びをする。


「見ていて下さい」


姫川の声で、瑛士は視線を彼女の手に移した。

姫川が目を閉じる。ゆっくりと呼吸を繰り返し始めた。集中しだす彼女周りにピリピリとした緊張感が漂い始めた。

そのまま数秒が経過した頃、彼女はそっと目を見開いた。


「ーーなっ!?」


瑛士は驚きの声を上げていた。彼女の手に、数瞬前まで影も無かった一振りの剣が握られていたからだ。剣の刀身に彫刻された澄んだ川の流れが、日を浴びて美しい銀色に光っていた。

瑛士が驚いているのを見ると、姫川は少し得意気に微笑んだ。


「これが、エルピダです。この力は、使用者の意思を現実に起こす、文字通り"意思発現"の力なんです」


「意思発現の力・・・・・・。

なるほど、これで空飛んでたり礫作ってたりしたのか・・・・・・」


納得だ、この力が意思、というよりイメージを具現化させる力だとしたら、空を飛ぶのだって朝飯前だろう。

ところがそれを姫川に話すと、彼女はそんなに簡単なことじゃありません! と瑛士の言葉を否定した。


「この力を使うには、やろうとしている事を確実に実行出来るという、確信がいるんです。

現に私が翼を生やさなければ空を飛べないのは、人間は生身では飛べないと云う固定観念が、私の中に根着いているからなんです」


その他にも、多大な精神力を必要とするために、使用しすぎると倒れてしまったり、少しでも意識が阻害されると一瞬で消えてしまったりするらしい。実際に見せてもらったが、消えていく剣は発現した時と違い、朧げに宙に溶け込む様だった。

しかし、やはりと言うべきか、何処の世界でも強力な力には弊害があるものだ。

そんな事を思っていると、急に姫川の顔に影が差した。彼女は何処かか言い辛そうに、それに、と口にした。


「あの礫は、エルピダではありません。エルピダは蜘蛛の仔に入った際にメトリー様から授けられるものであって、組織外の者には使えないんです。ですからあの礫は、恐らく魔法によるものでしょう」


「魔法!? 異世界には魔法があるのか?」


礫の話を投げ出して、これでもかと食いつく瑛士の勢いに若干圧されつつ、姫川は肯定する。


「やっぱ異世界には魔法が普及してるのか?」


「そうですね、地球《ここ》を除いた七つの世界には、程度はありますが何処も普及しています。

あ、でも、別に普及していないだけで、地球でも魔法は使えますよ」


瞬間、瑛士の瞳がこれまでに無い程輝いて見えたのは、姫川の幻想では無い筈だ。


「姫川っ、俺に魔法を教えてくれ!」


「出来ません」


即答だった。姫川は露骨に落ち込む瑛士を見て苦笑した。


「天城さん、私がここまで情報を開示したのは、何も巻き込んでしまった罪滅ぼしだけが理由では無いんです。

今、この学園、正確には学園に居る筈のある存在を狙って、各方面から次々と刺客が送り込まれています。

私の任務はその刺客の撃退と、原因となっているその存在の保護、もしくは解放なんです」


その為に単身姫川をこの学園に送り込んで来たのだろうか? だとすると、彼女の居る蜘蛛の仔なる組織は、案外人員不足なのかもしれない。

どうでもいい推測を巡らせている間に、姫川はでも、と話を続ける。


「何時私を上回る敵が現れるのか分かりません。ですから、天城さんには私が対処しきれない事態陥った際の、皆さんの避難誘導を行ってほしいんです」


「避難誘導? と言うと?」


「文字通りです。今までの戦闘は、私が周りの被害になりそうな攻撃をできる限り打ち消してきましたが、これから先の戦闘でも同じ事が出来るとは限りません。そこでもし、私が敵の攻撃を捌ききれずに、校舎の倒壊などが起こった場合、天城さんが率先して避難を呼びかけてくれませんか?」


それは即ち、周りの人間を巻き込まないように人払いをしてほしいという事だろう。別段苦にはならないので、軽く了承する。



そして、瑛士は先程から心に溜まっているある疑問を姫川にぶつけようとしていた。命の恩人に訊ねるには失礼極まる内容だが、これを解消しない限り、自分は夜も眠れないだろうと、彼は思っていた。

その質問とは、即ち、


「姫川、蜘蛛の仔ってのは・・・・・・人を殺せる組織なのか?」


瑛士が気に掛かっていたこと、それは蜘蛛の仔が殺人を容認する組織かどうかだ。容認する組織だった場合、例え神に率いられる組織といえど、瑛士はおいそれと彼等を肯定することは出来そうにない。世界の秩序を守るという仕事には感服する。だが、世界の秩序を乱す者を討伐するという行為は、見方を変えれば神に敵対する者の始末であり、あくまで神一人の利己的な行動でしかない。

果たして、瑛士のこの問いに対する姫川の答えは、


「肉体的には殺していると言うべきでしょうが、精神的には殺していません。

・・・・・・・・・・・・って、こんなこと言っても分かりませんよね」


姫川は申し訳なさそうに苦笑した後、何を思ったか背中に手を回した。彼女の手が瑛士の視界に戻って来た時、その手には人の二の腕程の長さの短剣が握られていた。


「これを見て下さい」


そう言って姫川が指す刀身には細い溝があり、そこには何やら複雑な刻印が施されていた。

これは? と、目線で問いかける瑛士に、姫川は刻印をゆっくりと指でなぞりながら答えた。


「これは神印、神の印と書いて、文字通り神メトリー様から施された、こちらの言葉で言うペイント弾みたいなものです」


「ペイント弾?」


「はい。天城さん、天城さんが意識を失う前、私が敵の背を切り裂いたのを覚えていますか?」


首肯する。

あの光景が原因で、瑛士は今の疑問を持ったのだ、忘れるわけが無かった。


「あの時私は、殆ど躊躇も無しに、あの少年を切り裂きました。

結果として彼は人形《ククラ》、本体の分身でしたが、私が躊躇無く切り裂いたのもまた事実です」


人形や分身という、耳慣れてはいるが現実ではあまり聞かない単語が出てきたが、話を止めない為に一時流す。

この話は彼が最も知りたかった内容なのだ。一字一句聞き漏らすまいと、瑛士は紡がれる言葉を脳裏に焼き付ける。


「そして、私がそれを、いとも容易く出来たのは、偏に《ひとえ》この剣の神印の力なんです」


「・・・・・・それはつまり、持ち主の罪悪感や恐怖心を打ち消すってことか?」


だとしたらそれはもう一種の洗脳ではないか!

目に見えて戦慄する瑛士を見て、姫川は自らの説明が言葉足らずであったことに気付き、慌てて言葉を付け足す。


「ち、違います! すいません、言い方が不味かったですね」


簡単に言うと、と彼女は息を吐いて続けた。


「この印が施された武器で刺されたり殴られたりして流血した者は、その魂に一種の目印の様なものが刻まれます。

そしてその者が命を落とし、肉体から魂が抜け、俗に言うあの世に流されて行く途中で、その目印が付いた魂をメトリー様が拾われるのです」


「八つ世のどれかにあの世が含まれるのか?」


「いいえ、あの世と八つ世は存在している時空からして違います。

あの世にはあの世の神様がおられるそうですよ」


何処か人から聞いた様な口調だったのは、実際に彼女が神様辺りから聞いた話をそのまま口に出しているからだろう。


「じゃあ、その拾われた魂は何処に行くんだ?」


「第八世界《オクト》です。

そういえば、言ってませんでしたね、八つ世の内の最後の一つたる第八世界は、言わば蜘蛛の仔の拠点となっている場所なんです。

ですから、他の世界と比べると規模は極端に小さく、住んでいるのも神様と一部の蜘蛛の仔の構成員しかいません」


小さいとはいえ世界の一つを丸々拠点としているとは、やはり世界を守護する組織はスケールからして格別だ。

しかしそうすると蜘蛛の仔の仕事内容は、神様が異常を発見し構成員に通達、通達を受けた構成員が姫川の様に任務として現地に赴くという、こういう言い方は悪いが、デリバリー的なものなのだろうか?

瑛士がその疑問を口にすると、姫川は「で、でりばりー・・・・・・」と絶句した後、瑛士のねじ曲がった見解を正す為、懇説丁寧に説明してくれた。


曰く、一般の蜘蛛の仔の構成員達は、基本自分の故郷であるそれぞれの世界で暮らしており、有事にのみその力をもって舞台を鎮圧化させるらしい。因みにに姫川の場合は先の特殊な一部に入り、任務が完了次第第八世界に帰るのだとか。


そして拾われた魂の在り方だが、第八世界へと運ばれた魂はそこで幾つかの選択肢を与えられるらしい。

一つ目は、悪事に加担していた記憶を消して自分の居場所へと戻るという選択肢だ。因みに体の方は神様が作り直してくれるらしい。

自分から第八世界以外の世界に干渉するのは極力避けている様だが、些細な問題の解決には一役買っているそうだ。

そして二つ目の選択肢は、更正して蜘蛛の仔に入る事。一見組織を破滅に導く軽率な行動に見えるが、そこはまたもや神様、本当に更正しているかどうかは魂を見れば分かるとの事。

そして三つ目、帰る場所も生きる意味も見出せなくなった人間は、今度こそのあの世へと旅立つ事も出来るそうだ。

だが、相手がこれらの選択肢のどれを選んだ場合も、相手を殺めた構成員には伏せられるらしい。もし相手が死ぬことを選んでしまった場合、それは相手を殺した構成員が本当の意味で敵を葬ったのと大差なく、余計な罪悪感を募らせてしまうからだ。


「ーーーーーーーーと言う訳で、非常時は宜しくお願いしますっ」


長い長い説明を終え、喋り疲れたのか顔に若干の疲労を滲ませながらも、姫川《ひかわ》は瑛士に向かい真っ直ぐに手を伸ばした。




この時瑛士は、事態を余り大きく考えていなかったのかもしれない。なんだかんだ言っても、数日したら全てが片付き、姫川は拠点たる第八世界《オクト》へ帰り、いつも通りの日常が継続すると思っていたのかもしれない。




瑛士もそれに応える様に、自らの右手を彼女のその華奢な手へと伸ばしーーーー優しく握り込んだ。




思えばこれが全ての始まりだった。屋上での戦闘を見ただけで、まだ幾らでも引き返すことが出来た少年が、自らの人生に明確な分岐を付けた瞬間。

今この時から、彼は十数年馴れ親しんだ日常と決別したのだった。

後書き「か、完全な説明回だとぅ!?」


説明が抜け落ちてる部分があった場合、教えて頂けると幸いです!

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