【9】日常の裏で
間に合わなかった、だと。
はい、間に合いませんでした。
もしかしてもしかしたらもしかすると、連日投稿いけるんじゃない!?
と、夢抱いていた鹿米夕ヰです。
視界の端で、姫川が教室を飛び出すのが見えた。実に一日ぶりの光景だ。昨日は特にそういう行動がなかったので気を抜いていたが、今日再びあったということは、彼女が言う"時差ぼけ"の可能性が完全に消えた事を意味していた。
昼休みが始まったばかりなので、先生に許可を取る必要は無い。人を尾行する事に対しての罪悪感は募るが、あくまで変な事態に巻き込まれているとも限らない姫川の為と、これを霧散させる。
「よしっ」
瑛士は軽く意気込むと、姫川を追うべく急いで教室を出た。
廊下へ出て、左右へ視線を投げる。すると、三階へと続く階段に、僅かに白銀の残り香が見て取れた。見失わはない様に速度を上げて追跡する。
速い、姫川を追っていて先ず思ったことはそれだった。【万能】なのである程度の速度は予想していたが、彼女はそれを軽く凌駕するほどの圧倒的な走力を見せていた。
「っ、見失った!」
三階に到達するも、既に辺りに姫川の姿はなかった。だが脇目も振らず三階に来るあたり、御手洗という可能性も消えた。彼女は一体何をしに三階まで来たのか?
仕方が無いので、一教室毎に中を見て回ることにした。三階は三年生の教室がある階なので歩き辛いが、この際仕方ないだろう。
しかし幾ら回ろうが、一向に姫川は見つからなかった。
「くそっ、何で何処にもいないんだ!
もう探してないところなんて何処にもーー」
「ーーおい、最近転入して来たっていう美人の銀髪っ子いるだろ」
「ああ、知ってる知ってる。何、お前狙ってんの?」
「ちげぇよ! さっきその子が屋上へ上がっていくのを見たんだ。
「それ本当ですか!!」
瑛士は思わず、相手が先輩という事も忘れて食いついていた。
「あ、ああ、本当だが・・・・・・」
話題を持ちかけていた先輩は、思わず気圧されたように肯定した。
「ありがとう御座います! すいませんでしたっ」
謝礼もそこそこに、瑛士はその場を後にする。目的地は勿論、先の会話に出てきた屋上だ。
だが、屋上には確か鍵がかかっていた筈だ。
「どうやって開けたんだ? いや、そもそも開けれたのか?」
疑問を抱えながら、瑛士は屋上の扉の前まで到達した。案の定というか、扉に鍵はかかっていなかった。というよりは開けられていた。扉を開けるのに使われたと思われる鍵は、鍵穴に差し込んだままになっている。
別に姫川に何の問題も無く、只一人で空を眺めていたりしているだけならば、見つからない様にして帰ろう。そう決意し、瑛士は扉を押し開けた。
その行為が、これからの自分の未来を百八十度変貌させてしまうとも知らずに・・・・・・。
最初に感じたのは、頬を撫でる暖かい風、次いで、目を刺す日の光だった。しかしそんなものは気にならない程に、目の前の風景は日常を破壊していた。
先ず目に着くのは剥げた屋上の床。その他にも、置かれていた植物は薙ぎ倒され、屋上の四方に建てられている筈の避雷針の内、少なくとも瑛士から視認出来る二本はその原型を止めていなかった。
「なんだよ・・・・・・これ・・・・・」
思わず溢れる呟き、だがその呟き応える者はその場には居なかった。
その時、瑛士の真上を二つの影が交差した。その影の片方は、大きな翼が付いている。
「鳥?」
言ってみるも直ぐに違うと分かる。何故なら上空で離れては交差し合う二つの影は、両方人の形をしていたのだから。それに気付き弾かれる様に顔を上げる。
そこで瑛士は、更にありえないものを見た。
翼を生やした人間、その顔を、瑛士は知っていた。
知っていたどころか、その顔は今まさに探していた人の顔。
日を受け光る白銀の髪は見間違い様も無くーーーー
「姫川っ!?」
クラスメイト、姫川玲のものに他ならなかった。
思わず声を上げると、上空からも戸惑いの声が聞こえ、
「あ、天城さん!?」
姫川がその宝石のアメジストの如き双眸を限界まで見開き、叫び返していた。間違い無く、姫川だ。
「お前、空、飛んで・・・・・・」
瑛士は今の状況を説明して貰おうと口を開くが、上手く言葉を紡げない。姫川も上空からこちらを見下げて呆然としている。
ようやく少しだけ落ち着き、とりあえず降りて話そうと声をかけようとした時、瑛士は姫川より更に上空から、彼女に突撃せんとする人間を捉えた。
姫川のことで忘れていた・・・・・・屋上の上空に、人は二人いたのだ。姫川本人と、恐らく彼女と戦闘していたであろう、もう一人。
「姫川避けろっ!! 上から来る!!」
咄嗟の瑛士の忠告に、姫川は軽く目を開きながらも確実にその場を離脱した。直後、一瞬前まで彼女の首があった場所を、襲撃者の持っていた剣が通過する。
そう、剣。襲撃者は剣を持っていた。
よく見ると、襲撃者の正体は瑛士達と同程度らしい、まだ幼い顔つきの少年だった。しかしその手に持つ黒き一振りの剣が、彼の顔から本来の未熟さを奪い去っている。
しかもよく見ると、剣を持っているのは襲撃者だけではない。
考えてみれば当然だが、襲撃者と戦闘していたらしい姫川もまた、人の二の腕程の長さの短剣をその右手に握っていた。
「チィッ!」
奇襲を躱された襲撃者は、悠長に二人を観察している瑛士を睨みつけた。ぞわりと、瑛士の肌が一斉に粟立つ。
そして何のつもりか、襲撃者はその右の手の平を片手間に瑛士へと向けた。
「だ、ダメッ!!」
姫川が叫んで襲撃者へと飛んでいく。だがその様子を受けて、襲撃者の億劫そうな顔が一転、楽しそうに緩んだことに、彼女は気付かない。
そして襲撃者は呟く。
獰猛で嗜虐的な微笑みを浮かべながら・・・・・・「もう遅い」、と。
「〈ソル・サクル・ラサース〉」
襲撃者が唱えた途端、それは奴の目の前にあった。それは直径30cm程の、無骨な土の塊。
「逝け・・・・・・」
襲撃者は無造作にその土塊を手で払う。
それと一瞬遅れて、姫川が襲撃者の背を切りつける。 勢いづいたその一閃は確実に彼を絶命たらしめただろう。
だが、遅い。土塊はまるで弾丸の様な速度で瑛士へと迫っていた。
「何だ、どうなってんだ・・・・・・」
瑛士は呆然と、只呆然と呟いた。迫る礫との距離はせいぜい10m程、礫の速度を考えれば、もう五秒もかからないだろう。
それでも、瑛士は動けずにいた。頭の中で情報を処理しきれない。
何で、二人は飛んでいる? 何で、二人は戦っている? どうやって、あの礫はいきなりあの場に成った? 何故、その礫がこちらに向かって来ている? 何でーーーー
「ーーーー天城さん避けてぇ!!」
姫川の悲鳴の様な一声で、目を覚ます。そうだ、まずは避けないと。
だが・・・・・・遅い、遅い、圧倒的に、遅い・・・・・・。
瑛士が再びその礫を捉えようとした時、その礫は既に、彼の視界の何処にも無かったのだから。
何故か・・・・・・・・・・・・
刹那の後、瑛士は全身に杭が打ち込まれたかの様な衝撃を感じた。彼の軽い体はいとも容易く浮き上がり、背後の扉に人形の歪みを残して地に落ちた。
何故なら礫は、既に彼の元に到達していたのだから。
「天城さんっ! 天城さんっ!!」
急降下してくる姫川の姿は白に染められ、瑛士を呼ぶ声は、耳に響く波の音に消えていった。
前回の"のほほ〜ん"とした雰囲気から一転、天城さん生命の危機です。
やっとこさ"ふぁんたじぃ"っぽくなって、きた?
誤字脱字感想等待ってます!b




