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白の女王  作者: 翠月三月
始まりは
7/17

女王の悪戯

「なんっですってぇ!!!」


水菜が運ばれた次の日。

水菜の安否をリビングで案じていたが、朝になり漸く訪れた医療班からの報告に時津が叫んだ。


「時津さん、どうしたんですか?まさかミィになにか…」

「あ、の…」


秋の問いに時津はわなわなと震える。

首を傾げていると再び時津は叫んだ。


「病棟から水菜さんが脱走…あのじゃじゃ馬娘がー!!」

「………はぁ!?」


そうして時津、秋、そしてあのまま連れてこられた二人の男の子達によって水菜捜索が始まった。


「皆さんはくれぐれも、くれぐれも!画面から目を離さない様に!!」

「はい!」


時津の部下達も内部の監視カメラの映像を張り付いて見ていた。


「けど探すったってどこをどう…」

「とりあえず行きそうな所…散歩で行った所を探してみる。」

「それってどこ?」

「えっと…第三研究棟と第一研究棟…」

「範囲ひろっ」

「それから外の河辺と湖のある林に第六研究棟と…」

「「…」」

「あとは…」

「と、とりあえず…探しに行こう?」

「う、うん…」


そうして三人はバラける。



◇◇◇


数時間後。


「いない…」

「こっちもいなかった。」

「ミィ…どこに…」


と、男の子達が顔を見合わせる。


「まだ見てないとことかない?」

「って言われても…」


その時、ふっと思い出した。


「そう言えば…屋上…第三研究棟の屋上展望室は行ってない。」


すっかり失念していた。

急ぎエレベーターに乗り屋上へのボタンを押す。


「へぇ、ここはガラス張りなんだな。」


それはあの日の水菜と同じ言葉。


「(考えたらまだ一年も経ってないんだよね、出逢ってから。)」


その思考に秋はあの日を思い出した。


「(思えば本当の最初はあの日だ。)」


あの日、勝手に話しかけてきたどこかのクラスの女の子。

適当に相槌を打っていた秋に突如掛けられた声。


『じゃあお姉さんはどんな人だと思う?』


愉しそうな、からかっているような声だった。

見れば見慣れない子供で。


答えればいつの間にか消えたその子は数日後ひょこっとまた現れた。

テストが嫌で嫌で堪らなかったあの日。

誰にも見付からないと、窓の外にいた自分をわざわざ探して見付けたのは他の誰でもなくただ数分会っただけの子供だった。


やる気の無さそうな声で。

いとも簡単に自分の力を見抜いた子供。

結局クラス異動を命じられ、再び出会ったのは実は子供ではなく本来は自分と同じくらいの年齢の水菜。


一緒に色々と行動し、水菜に付けられた二つ名が心無い研究者達の侮蔑だと知りなんだかとても悲しかったのを今でも覚えている。


『辛くないの?』

『他人が何言おうが関係無いね。大事なのは自分がどう在りたいか、だと思うよ。それに、あんなのは昔っから慣れてる。』

「その昔って…」


その時、チーンと音がして秋は扉に向き直る。

ここがダメなら次はあの場所に行ってみよう、と思いながら。


◇◇◇


時間は少々戻り、時津が叫ぶ数十分ほど前。


「…ん?」


病棟の一つに横たわっていた水菜はなんの前触れもなく目を覚ました。


「…」


自分の身に起きた事を思い出し眉を寄せる。


「何なのあの二人の力…」


と、不意に感じた能力の使用の感触と自らに取り付けられた医療機器の不調を知らせるブザー。

能力を使った訳では無かったのに使用感がある。


「…とりあえず逃げよ。」


ぺりぺりと胸部に付けられたセンサーを剥がしてまずは自室に飛んで着替える。

と、聞こえた時津の叫び。


「…連絡速すぎ。」


と、不意に脳裏に浮かぶ映像。

それは全く設定をしていない状態での透視の映像。


「さっきから…おかしいな…」


そして四人が出ていった後、着替え終わった水菜は自らの手を見詰めた。


「…」


そうして消えた。

いや瞬間移動テレポートで移動したのだ。

場所はあの展望室。


「…制御無しだから、にしてはちょっと飛びすぎだよねぇ。」


眉を寄せる水菜。

そして先程から感じる違和感にここに来て間もない頃を思い出す。

この違和感は新しく能力を発現する直前のもの。

そこまで思い出し水菜は眉を寄せたままその力を放った。

それは予想すらしていなかった物で。


「あー…うん、とりあえず色々と持ち運ぶ必要が無くなった訳だ。」


そして透視の力で秋達の、と言うより秋の行動を見ながら力を使う。

どうやら今までの能力も強化された様で。


「うん、とりあえずは分かった。さてと。」


秋達がエレベーターに乗り、ここへ向かってくるのを見て。

そして水菜はニヤリと笑った。


「どうせならもう少し逃げてやろ。」


そう言ってまた瞬間移動テレポートする。

何となく秋の考えた事を考えたから。


◇◇◇


扉が開けばそこは展望室がある。

筈だった。


「…前見たここってなんにもないガラス張りの展望室だったよな?」

「入った事無いけど確かそうだったよね?」


三人の目の前には、ジャングル…と言うより森が広がっていた。

踏み出せば土の感触。

何故か聞こえる水の音。

しかし秋は直感する。


「脱走したと思えば…何してんだか。」


少し呆れ気味に溜め息を溢す。

一通り見て回り、水菜が居ないことを確認すると秋は無言のままエレベーターに戻る。

二人が乗ったのを確認しボタンを押そうとして止まる。


「どした?」

「…ったく。本当に人をからかうのが好きだねぇ。」


呆れ顔の秋の視線を追った二人が見たのは既に押されたボタン。


「「?」」


訳が解らず二人は顔を見合わせる。

秋は少し笑った。


「はいはい、今行きますよ女王様。」


どこに居るか分かった秋は呆れながら楽しそうに呟いた。


◇◇◇


『はいはい、今行きますよ女王様。』


その様子を見ていた水菜は。


「言ってくれるねぇ。」


とある場所に座り愉しげに呟いた。


「しかし、あんまり驚かなかったなぁ。あっちゃんめ…」


水菜も思う。

そう言えばあの日からそんなに時間が経っていないなと。


「トッキーは未だに愉しい反応なのに…」


だがその表情は愉しげで。

始めは驚いて止められた悪戯も最近は止められなかったなと思い出す。


「…ふふっ」


何だかんだで今が楽しい。

そう思って水菜はふと昔を思い出す。


「…全く、世界には似た人が三人は居るって言うけど。ここまで似てると疑いたくなるねぇ。」


少し切ない表情で、そして失ったものを思い出す。

と、足音が響いて。

目を開けると水菜はまた消えた。


◇◇◇


「多目的ルームじゃん。」

「って言うかいないけど。」


そんな二人の会話を聞き流し、秋は部屋の真ん中の椅子に腰掛ける。


「はぁ、疲れた…」

「あ、ごめんね。色々と連れ回して。」

「全くだ。」

「コラコラ。でもあんまり外とか行ったこと無かったから結構楽しかったよ。」

「オレは疲れただけなんだけど。」


その言葉に秋ともう一人の男の子は笑う。

だが笑う傍ら、頭の中ではどうしたら水菜が来るか分かっている自分に驚いていた。


「(さて、どう切り出したものか…)」


元来男の子と話すのは得意ではない秋。

だが、それは向こうから振られた。


「そう言やさ、あの噂知ってっか?」

「噂?」


意図せず振られた話に驚くと同時に苦笑する。

何せあの時と会話の始まりが同じだったからだ。


「昨日、あのちっこい子の力見て思い出したんだけど。なんでも女王って呼ばれるヤツがいるんだと。」

「あぁ、それ。でも誰も見たこと無いんだろ?」

「(あー、皆おんなじなんだ。)」


心の中で笑う。

秋はあの言葉が来るのを目を閉じて待った。


「けどいるならどんな人なんだろうね?」

「じゃあどんな人だと思う?」

「「あ。」」


来た。

秋は口角が上がるのを押さえられ無かった。


「どんなって…」

「言われてもな。」


顔を見合わせる二人。

秋はまだ目を閉じたまま。

そんな彼女も分かっている訳で。


「じゃあお姉さんはどんな人だと思う?」


それに漸く目を開ける秋。

真っ直ぐ彼女を見て秋は愉しげに言った。


「ひねくれてて、悪戯好きで甘党で獅子唐が嫌いなウサギちゃん、だよねぇ。」

「「は…」」

「うーん、そう来るとは思って無かったけど。…言ってくれるねぇ。」


だが嫌な気はしないのだろう。

フードから見える口元は笑っている。


「そりゃあ心配かけさせられた上に走り回されればね。」

「そりゃゴメンにゃ。」

「大体何よあの展望室。」

「確認、結果。」

「そう。とりあえず時津さんに連絡して…説教タイム、だね。」

「うへ…」


そしてこの後、秋の言った通り説教タイムが始まる。

ただし今回はたっぷり三時間はあったとか。



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