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砂鳥物語-花蜜の苑  作者: 千羽鳥


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4蔓草の門番

 二人は国の南東にそびえ立つ砂塔を発ってから、西の最果ての地に辿り着いた。

 貧民街の三地区には簡単に入ることができたものの、ジエダスがいるらしい二地区との間には不気味な草と蔓の壁が行く手を阻んでいる。

「あいつの弟子が言うには、ここからしか入れないらしい。町のほうからも、一地区からも入れない。切ることはもちろん、燃やすこともできない」

 タウベは固く絡み合ってぴくりともしない蔓の強固な防壁を見つめる。

 すると蔓たちは二人を、久しぶりの客を歓迎するように見つめ返していた。

「この蔓たち、感情があるよ! なんか楽しそうというか、うきうきしてるみたい」

「ああ。穏やかで優しいやつらだ。言葉も通じるかもな」

 そこで二人は何かに気づいたように顔を見合わせた。

 意思を持つ者であれば、タウベにはその感情、ホーカーにはその性質が見える。

 思考する知能があるのなら、確かに言葉が通じるかもしれない。

「ね、ねぇ。ボクたちそっちに行きたいんだ。通してくれない、かな?」

 タウベが期待と不安を込めて蔓に頼んでみると、蔓はもぞもぞと蠢き、やがて人が通れる程度の小さな入口を作った。

「…………」

「うわー、簡単だなー……」

「あ、ありがとう!」

 通ろうとしたとたんにパクリとされることもなく、二人は蔓たちが作った入口を急いでくぐった。

 二人が通り終わると蔓たちは先ほどのように緩慢に動き、来た道を塞いでしまう。

「入るのは簡単でも出るのは難しい、とか言わないよね?」

「よく分かったな」

「ちょっと! なんで先に言ってくれないの!」

 タウベが脛を蹴り飛ばすと、ホーカーは冗談だ、と言って笑い飛ばした。

 ホーカーは、笑い飛ばした瞳の奥に微かな鋭さを宿すと、前方の花海を見据える。

「問題は来ることでも出ることでもなく、見つけることだ」

 目の前には色とりどりの花が咲き、赤や紫、青に緑といった色の洪水にタウベは危うく溺れそうになった。

 次いで周囲を囲う蔓草にも花が咲き始め、特有の甘い蜜の香りを辺りに立ち込めさせる。

「……っ!」

 胸いっぱいに嗅いでいたくなる香りに顔をしかめたホーカーに、タウベはどうしたのと問う。

「俺はちょっとばかり鼻が良すぎるんだ。時間がないからさくっと説明するぞ」

「ボクはそんなにつらくないけど……。大丈夫?」

「どんな術がかけられるか分からねぇ。俺がおかしくなったと思ったら、これで身を守れ」

 ホーカーは二刀一対の片割れ、鬼牡丹と呼ばれる小太刀を預けた。

「危険じゃないんじゃなかったの?」

「そこまで危険じゃないさ。とにかく、魔力の強い俺か、魔力が全くないタウベのどっちに術が効くか分からねぇ。でも多分、魔導士師団の連中を避けたいジエダスとしては、魔力に反応する術を使う可能性のほうが高い」

 魔族だけではなく、人間の多くが大なり小なりの魔力を持っている。

 魔力を全く持っていないタウベの体質は珍しいのだ。

「だからボクを連れてきたんだ。でも魔力がない人間なんて、いくらなんでもボクしかいないってことはなかったんじゃない?」

 気にしているというほどではないが、自分の劣っているところを利用されたと知ったタウベは、頬を膨らませた。

「魔力がなくて、ジエダスに面が割れてなくて、油断を誘えて、交渉が得意で、相手の気持ちが分かって、植物の気持ちも分かって、しかも戦えて判断力がある。そんな都合のいいやつなんてそういねぇんだよ」

 膨れっ面の頭を軽く撫でると、ホーカーは背を向けた。

「夕方になったら日が沈み切る前に、ここに集合だ。もし月が真上に来ても俺がいなかったら、蔓に頼んで出してもらえ」

「もしボクが戻って来られなかったら?」

 試しにタウベが聞くと、

「全力で探してやるさ」

 ホーカーはふり返り、にかりと笑った。

「いや、そこは逃げてよ」

 言いながらも、つい嬉しくなってしまうタウベだった。


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