1石壁を越える者たち
砂鳥物語シリーズの番外編です。本編を読まなくても分かる内容となっています
これは草原の国の、外と内を分ける境界での物語。
「ずいぶん遠くまで来たねっ」
白絹の髪に大きな黒い瞳の子供が楽しげに言う。
「ここは国の端っこだ。町と町の間に建ってる文化の石壁よりも、越えるのが難しい」
腰まである紫の髪を結った、みすぼらしい旅装の男が答えた。
草原の国は石の重圧でできている。
国の外周である巨大な城壁の内側にはまず貧民街が広がり、さらに内側には拒絶の石壁という窮屈な名の壁がある。
その二つの巨大な石壁の内側には、格子状の石壁が整然と積み上げられ、文化も種族も違う者たちがそれぞれの『通常』を生きる。格子状の石壁は自分の文化や金銭を失わなければ越えることが許されず、ゆえに文化の石壁と呼ばれている。
二人は砂の塔の砂鳥と呼ばれる立場。彼らは何も失わずに、全ての石壁を自由な意思で越えるという類まれな権限を塔より与えられている。
そして二人は〝城壁〟と〝拒絶の石壁〟の間に存在する貧民街の三地区にいた。
「貧民街の地区を分ける石壁には門がないって聞いたよ。門がないって、こういうことだとは思わなかった」
だが、二人の行く手を阻むのは、石壁でも城門でもない。
「俺もこっちのほうまで来たことはないからな。でもまぁ、わりと簡単に入れるらしい」
「らしいって……。意外だなぁ。ホーカーに行ったことない場所があるなんて、考えたこともなかったや」
「さすがに俺だってあるさ。特に西はなんとなく、今までなるべく避けてきたからなぁ」
ホーカーと呼ばれた男はそれより、と強引に話を切り替える。よほど西のことを言及されたくないのかもしれない。
「ここからはお前だけが頼りだぜ、タウベ!」
彼より自分のほうが優れていることなんて一つでもあるだろうか?
にかりと笑みを向けるホーカーを見て、タウベは黒い瞳を泳がせて曖昧に苦笑した。




