第十章「エルタニア決戦」#7
円形の噴水前広場。向こう側が見えるほどの穴を胸に開けられたジャックが倒れ、参戦したであろう日護リツカも焼け焦げた状態で息はなく。
唯一生命活動絶やさぬ比嘉辻銀音もまた、血反吐を吐きながら、満身創痍で立っているのがやっとの始末。
そんな瀕死の騎士団長三人を前に立ちはだかるは部分転化したアンシェルだった。
「劣勢のようだな。間に合うか」
再生に時間を有しているマービンを置いて、シルバートが駆け出す。今、視た未来を〝既に起きたこと〟にする前に。
同時刻。銀音は信徒を一掃し、結界を張り終えるのを待っていた。
「これで、首都ハランから信徒は逃げられず、魔術師だけが往来可能になった。負傷者を運び出すよう連絡を……」
ジャックが携帯を取り出す最中、握り拳ほどの魔鉱石がはめられた杖を持ったアンシェルが白壁の向こうから現れた。
「ここでの勝手は私が許さん」
「アンシェル……!!」
嬉々として殴りかかる銀音の鼻先を魔力の矢が掠めていく。
咄嗟に距離を取る銀音が駆けつけたシルバートを睨みつけた。
「何のマネ?」
「見て分からないのか? やつはこちらが仕掛けてくるのを待っている」
「だから?」
「脳筋め。少しは出方を待つことを覚えろ。これだから魔術師擬きを加入させるのには反対だったんだ」
「詠唱誓約特許掟項・原初の火」
言い争う二人目掛け、アンシェルは魔術杖から剣状の焔を発現して振り下ろした。
燃え広がる焔は一向に消える気配もなく、ただ延々と範囲を広げていった。
「目に見えるはだたの火。しかし本質は触れただけで塵に還る烈火と知れ。私から言わせるにシルバート。お前も魔術師の本質に迫れてはいない」
「また挑発か。狙いは何だ?」
「後手に回るから追い詰められるのよ。反撃しないと始まらないでしょ」
再び銀音が飛び掛かろうとした時分、日護リツカの声が飛んで来た。
「攻撃を中止して! やつは十眷王ディオサン・ジルグレイの転化能力を上乗せした状態でいる!」
「だからなに。再生不能の一撃で屠ればいいだけ」
「来るか、冠数魔法・8番」
「その名前で呼ぶんじゃねぇ!」
その名で呼ばれた瞬間、口調が一変。銀音はエネルギー波を拳に纏い、アンシェルの腹部へと叩き込んだ。瞬時のことで、シルバートもリツカも止めに入る隙などなかった
そしてそれは全く同じタイミングで起きた。
「がはっ……」
突然ジャックの上半身に穴が開き、膝を折って沈黙した。
「急いで治療に取り掛かるんだ!」
シルバートとリツカが時間回帰術式を試みる。
「てめぇの能力じゃねぇ。ディオサンとかいうやつのだな?」
「汚い言葉遣いがあの頃に戻っているぞ。施設にいた頃の殺戮兵装魔道具としての、人の形をした〝魔法〟としてのお前に」
鋭い目つきに切り替わった銀音がアンシェルに問う。
「教えてやる。彼の転化能力は自分に起きた不幸を範囲内の別の人間に肩代わりさせるものだ。そしてこれは……」
アンシェルが杖を地面に突くとジャックの結界はガラスのように崩れ落ち、新たに赤黒いドーム状の結界が張られていった。
「エルタニア首都ハラン全域を覆った。滞在する魔術師はもれなく逃げ場を失ったわけだが、ここで明かそう。私はディオサンの肉体を喰らい、能力を譲り受けた。そして事前に砂夜様の第5頸椎を喰らっている。意味は分かるな」
シルバートをもってしてもここでようやく理解が及んだ。
「お前は血術も使えれば、感応も使える……」
「名答」
ハランに滞在する全ての騎士団長を除く団員、副団長を殺すべく、アンシェルは感応の発動に入った。
「さぁ、戦おうか。騎士団長諸君。命運は君らに託された」




