第十章「エルタニア決戦」#1
騎士団長たちは副団長を連れて、プラント有する十眷王のテリトリーであるセクトを目指すなか、ペリーナらもまた科学プラントの捜索に全力を注いでいた。
雪がちらほらと降り始めるなか、修道服の上から肩にかけて寒さ対策としてスカパラリオを羽織る二人は、道中でそれらしき建造物を視界に捉える。
「一眼見ただけでは分かりませんね。突入の準備にかかりましょう」
真白い壁と最低限の明かり取りの窓に、室外機と下水管有する無機質な外観。あくまで目的は偽血を作り出す科学プラントの破壊である以上、避けるべきは必要以上の戦闘行為。
「二手に分かれるよりもここは二人で……」
「死は未来に待ち受けているものだが、死そのものはあくまで過去の積み重ねの結果である」
背後から聞こえる声は、先ほどまでムリだと弱音を吐いていた副団長のそれではなく。
「時に人生とは、変ようもない過去の出来事によって思わぬ未来を招くことがあります。こんな風に」
振り向くペリーナに対して、副団長が黎剣を振り下ろす。
「感応……いえ、これは」
「彼女ならエルタニアに到着した時点より死んでいます。感応は死した人間には作用しない」
ペリーナが跳躍しかわすと、反撃に移るより前に副団長を観察した。
魔力も感じず、目にも色は灯っていない。
「『霊核からの魔力供給は完全に停止。しかしながら死因が判然としません。着衣の乱れもなし。裂傷も血流不全の皮膚変色もなし。一体何が起きて……』」
「背後にあるプラントは廃身の場。差し出された信者の肉を捌く工程で使用される調理場で、科学プラントではありません」
殺意のない剣戟が繰り返されるなか、敵の能力の真意を探る。
「あなたの結界術の優位性は範囲と強制力。どれも本体の詳細な位置情報が明らかになってこそでしょうがね」
目の前の副団長の形をした刺客が無表情で向かってくる。
「甘く見積もられたものです。転化能力を起点に、糸を手繰り寄せるように本体へと辿りつけばいい! ドンレミ・ラ……」
「それよりも早く、あなたはあなた自身の過去に殺される。私が操るのは対象の過去。転化ーー死地外来伏魔心象」
林の中の殺風景な景色は消し飛んだ。激しい人々の往来に、飛び交う怒号。そして長机を挟んで捲し立てるように喋る小太りの男。
「何度でも言うぞ。親族だからといって捜査資料は見せられない。そりゃあコイツを見せるのは簡単さ。でもそれをしちまったら俺はどうなる? バレたら減俸。最悪、謹慎。俺には何の徳もない」
ペリーナは思い出した。イギリス在学時代のとある事件について、警察に直談判に行った時のことを。
「姉の自殺……違う。姉は殺された。藤澤砂夜に」




