第九章「イヴ・オブ・バトル」#4
「いつもと同じ時間。同じ車掌。同じ数のコンテナ。よく偽装されてる」
吸血体は視野も広く視力も良い。ブラウニックは既に峠の林の中から機を伺っていた。
聖堂騎士団の全滅をじっと狙う。
「俺のセクトが近いのは因果か? やつらここぞという時の運がまるでないな」
ブラウニックの空間移送に対象の大きさは関係ない。八両編成の貨物車両など取るに足らず。
「異世界や別次元のような漠然として想像するしかないものに行き先を設定するのは不可能。だとしても空間の裂け目より実在する場所までは持っていける。転化ーー」
走行する列車の先頭より数メートル先の空間が歪曲を始める。
「絶海の底に沈め」
口を開く裂け目が全車両を飲み込んだ。
静けさを取り戻す国境地点。
「水圧で潰れて全員ミンチ。一人として生き残っちゃいないだろ」
「なかなかにおめでたいわね」
「っ!?」
その声を聞いた時点で後手に回るしかなかった。ブラウニックのすぐ後ろで背に手をつける比嘉辻銀音に気づけるわけもなく。
「『どうして気配がない! まるで俺の空間移動方法と同じかそれ以上……魔術師って感じじゃねぇ!』」
「貴方が今、考えていること。概ね正解」
ここで賭けに出るブラウニックは、両掌を擦り合わせるルーティンに入った。
「それは、あまり良くない手ね」
正面に回る銀音が手刀で両腕ごと斬り落とす。
「到達不能極に興味があるなら海より南極なんてどう? ここよりも涼しいわよ。氷が溶ける何十年後かにまた逢えたなら今度は相手をしてあげる」
額に人差し指を当てられたブラウニックは瞬き一つする間もなく、その場から消え去った。
「十眷王とやらはこれであと7人。一組一殺出来れば藤澤砂夜に王手がかけられる。さぁ、始めましょ」
貨物コンテナに乗り込んでいた聖堂騎士団の面々を寸前で銀音がエルタニア、首都ハラン郊外に移動させていた。
上陸した全団員はそれぞれの組みに分かれ、セクトを目指して走り出す。
「よくやった銀音。すぐにこっちに合流してジャックの護衛にまわってくれ」
門崎将子からの連絡に応答し、自分自身を移動させる。
「さすが早いな」
先回りして中心街の噴水に腰掛けていた銀音は、ジャックの到着を待ちあぐねていた。
「さっさと結界を張って、アンシェルと藤澤砂夜の首を取りに行くわよ」
「私怨で言えば前者の方だろう? 仇を取りたい気持ちは理解するが」
「何が言いたいのかしら」
「俺もそうだって話だ」
ジャックが聖剣現出のための完全詠唱に入る。
「我が骨肉よ、身を護る盾と為れ。我が血潮よ、邪悪を貫く矛と為れ。銀と鉄。真と偽。我が両儀よ、圧壊する大剣と為れーーグランベアード」
地面の魔法陣より自身の身長ほどはあるだろう2メートル級の大剣を引き抜く。
「張り終えるまでどのくらい?」
「せいぜい五分ってところだ」
「じゃあ私の方が先に終わってしまうわね」
銀音とジャックの二人をぐるりと一周取り囲む、ハルモニアシィアのシンボルマークのマスクを付けた信徒たち。その数およそ二百。全員がバチバチと放電している棒状の武器やコンバットナイフを手にしている。
「ただの一般人か、血分けされてるのか。まぁ、関係はないわよね」
数に怯む銀音ではない。
「洗脳されてようがそれが理由で庇護されるならテロなんてそもそも起きやしない。漏れなく全員、ここで殺すわ」




