第九章「イヴ・オブ・バトル」#1
有人のチケットカウンターで客とCAが揉めていた。何とかして自身の意思を伝えようと、携帯の翻訳アプリを駆使しても、返答は依然としてNOだった。
「このまま日本に帰れるか」
頭をくしゃくしゃにし、小刻みに足を踏み鳴らす。落ち着きはまるでなく、平常とは言い難かった。
「乗らないのか? この機を逃すと、また手続きのし直しだろう」
隣に座る男に話しかけられるも真中は下を向いたまま、いらついていた。
「金ならあるんす。でもどうしてもエルタニア近郊のフライトはないって……」
「飛行禁止空域に指定されたらしい。まぁ、藤澤砂夜の感応を考えれば仕方あるまい」
「っ!?」
ようやくそこで声の主がアルであると気づく。
「なんで、ここに……」
「シルフィムは解散。晴れて自由の身だ。なら、誰につくかも僕の自由意思だ」
「分かってるのか? 俺は一人でエルタニアに行くんだぞ?」
「今さっき、断られたばかりだったと記憶しているが? 足はどうするんだ?」
その質問に対する適当な返答を、真中は持ち合わせてはいなかった。
「お前が今、必要なのはエルタニアまでの航空券じゃない。いかに敵地に乗り込むか、そしてルビア・アンヌマリーの身柄を奪還するかの作戦を練る冷静な時間だ」
アルがおもむろに取り出して見せたのは東京行きの片道券だった。
「まずは原点に戻る。お前の始まりの人に逢うんだ。奴なら知りたいことを知っている」
「それじゃ間に合わない。ルビアは無抵抗に一度斬られてる」
「お前が僕たちと戦う直前、代々木新宿方面が文字通り血の海になった。やったのが誰か、覚えていないわけではないだろう」
「ルビアダーク……」
「あの精神体はルビア・アンヌマリーの元へと戻った。今は藤澤砂夜の中に居る。簡単に支配を受け入れる性格なら、死闘にはならない」
「蒼生には頼めないかな。作戦には騎士団員全員が従事する話だった」
「京蒼生に連絡を取るのは作戦が開始されてからだ。途中で作戦の露見が発覚して前線から外されるリスクを鑑みて、情報源の切り札として今は取っておきたい」
立ち上がるアル。荷物はない。
「東京までの15時間。シルフィムの連絡網を駆使して、この間に詳細な所在を突き止めたい奴がいる」
「さっきから言ってるその奴ってのは誰なんだ?」
「元第六騎士団騎士団長、天動梗吾。お前を不死の身体にした張本人だ」




