第八章「チェイス・ジェイル・ボックス」#2
剣を手に、一足飛びで間合いを詰めるジャンヌ。
「覚悟!」
「霊体である彼女はこのラ=ピュセルの結界内においてのみ、再び受肉する!」
「面白いネ。でモ、私は十眷王。これで終ワレば、名バかre」
地面の剥き出しの土が隆起する。突き上げる所々に傷んだ腕。押し上げて地表に姿を現したのは、ジョンの能力によって球体関節を有するドールに変えられた信者たちだった。
ボロボロのドレスから覗かせるその肌には裂傷が見受けられ、目や鼻や耳に至っては抉り取られていた。
人形劇と言わんばかりの独特のぎこちない動きで、片手に縫い付けられた短剣を振り回しながら、ジョンの前に庇い立つ。
「これもまたペリーナと同じ人形にされた人。でも生気を感じないのはなぜ?」
距離を取るジャンヌを取り囲むように、数百の人形が躙り寄る。
「死体、人形にシたら、そンな風にナッた」
「それは救われるはずだった霊魂までもを棄損するどこまでも非道なる所業……ならば、わたしが全て救いあげる!」
ひらりひらりと蝶のように舞い、剣を振り抜く。軽やかなる剣戟を披露し、牽制。刹那に道を切り開き、ジョンへと攻め込む。
「はああぁぁっ!」
「雑魚デは、ダメか。ナラ、とッテおき」
今度は太陽をも遮るほど巨大なる金属の質感を持つ2本の腕が空を割って現れる。片腕は直刀状。片腕は骨組が全て鉄心で出来た五指になっており、ジャンヌを捕えようと黒鉄色の関節を伸ばす。
「純然な力で押し潰サレて死ne」
「貴方が相手にしているのが誰かよくよく考えることですね」
「ナに?」
手の中のペリーナ人形が語りかける。
「彼女こそ神の啓示を受けし祖国フランスを解放救った、かの英雄」
ジャンヌは突き出される右腕に飛び乗り、疾走しながらも絶えず斬り続ける。しかしながら、金属のため微細な傷がつくだけで動きは止まらない。
そこへ、左腕が埃でも払うように、右腕の肩から指先にかけて剣を滑らせていく。
火花を散らしながらジャンヌに迫り来る巨大な刃。
「英雄ハ過去の話。これヨリ先、語リ継がレる救世主は、砂夜様タダお一人」
「それは違う。いつの世も残り続けるのは、力なき者のために先頭に立ち、誰よりも遠くで背中を見せて戦ってきた者です!」
ペリーナがあるだけの魔力をジャンヌに受け渡す。
「これで終わりです!!」
剣は軍旗に変わり、ジャンヌが突き立てる。
「ラ・ピュセル・デ・オルレアン!」
光が地表から湧き出で、天弓から降り注ぐ。それら全てがジャンヌの旗に収束すると、一気に解き放った。
聖なる光の前に、禍々しい二対の巨腕は消滅し、操られていた人形もただの死体へと戻り、ジョンの支配から逃れた魂が天に昇る。
「な、ナにが起きtell?」
「ジャンヌの特筆すべき能力は、結界内にある生きとし生きた万物をあらゆる支配から解放することにあります」
「なゼ、オ前が……」
ジョンの身体に差し込まれる聖剣。柄頭には封殺鍵が装填されている。
「私もまたジャンヌの光によって解放された一人」
聖剣を90度回転させ、ジョンの時間は止まる。と同時に世界は到着ロビーへと戻り始める。
「また助けて頂きましたね」
「構わないわ。あなたの心に共振した時、終わりがくるまでその隣を歩こうと誓ったのだから」
別れ際、ペリーナとジャンヌはハイタッチを交わした。
「何だったんだ今の、転化攻撃か!」
どんな戦闘があったか知らない真中らの元にペリーナが素知らぬ顔で合流する。
「一仕事終えるのに時間がかかり遅れてしまいました。私が同行するペリーナ。第七騎士団騎士団長を務めさせて頂いています、ペリーナ・ペチパンナです」




