第七章「神の島」#7
緊急外来に搬送されたヒロの元に、ステージを終えた二人を含む全員が集まった。
酸素マスクを付けた昏睡状態のヒロの姿を見て、真中がリツカを問い詰める。
「何で、ヒロばっかりがこんな目にあわなくちゃならないんですか……! 狙いは俺とルビアのはずでしょ!」
「時間回帰術式で首の傷と出血は抑えたけど、長時間、藤澤砂夜に意識を奪われていたせいか、異常は認められないものの本人の意識はまだ……」
「そんなことを訊いてるんじゃない!!」
わなわなと震えながら叫ぶ様子は慟哭にも似て。
「ごめんね。ただ、これから相手をしようとしてるのはこんな連中だってこと。自分の死も、他人の死も勘定に入れる覚悟がいる」
リツカの両腕を掴む真中の力が一気に抜けていく。
「奴らが勝てばこの惨状が当たり前になる。だから私たちは命懸けで止める。真中君はどうする?」
どう答えるかは分かっていた。分かった上で決意を問うリツカ。
「そんなの……」
今の自分を肯定出来るようになった恩人の、他愛もない表情がふっと浮かぶ。真中の目は鋭く研ぎ澄まされ、眼光は確かに藤澤砂夜を射した。
ーー*ーー
「正直、こんなことで呼び出すのは気が引けましたが、わたしの忌避する争いは既に他人事ではない状況なのです」
リツカより連絡を受けた総騎士長は、エリア51に保管されている黄金櫃の守護の任に、第七騎士団長であるペリーナ・ペチパンナを指名した。
当の本人は胸のうちを唯一曝け出せる友人を、結界内にある教会の長椅子にて待った。
「気を遣い過ぎよペリーナ。わたしはあなたの召喚にならいつでも応じるし、どこにいても駆けつける」
現れた彼女は金色の髪に蒼眼。凛々しくも柔和な顔立ちをしており、高潔なる品格を以てペリーナを見た。
「どうぞ私の隣に」
ペリーナと並ぶ彼女の居ずまいもまた礼儀正しく、美しい姿勢を保っていた。
「ハルモニアシィアの信者と戦うことに生理的な拒否感があって、それが拭えないのね」
「それもあります。戦争になればどんな正義が互いにあれ、犠牲になるのは無関係な市民や子供たちです。それは歴史が証明している」
「〝も〟ってことは他に主だった理由がある?」
「ええ。最も恐れているのは私自身、他の騎士団長ほど藤澤砂夜を憎めないところです」
「ペリーナの信仰は奪うことではなく、赦すこと、だものね」
「藤澤砂夜に姉は殺されました。それでも私は殺意に至るまでの復讐心はもうありません。その憎めない心が皆の足を引っ張ってしまう。それが怖いのです」
自身の甘さを嘆きつつペリーナの訴えは続く。
「総騎士長さんは娘さんを、リツカさんは母親を殺され。シルバートさんは師匠を、ジャックさんは同志を、比嘉辻さんは自身の出生を。藤澤砂夜に対する憎悪は皆同じ。私だけが赦してしまっている。この戦いにおいてそれは致命的なのです」
「これはわたし個人の意見だけど、ペリーナの持つ優しさに看過されて、魔術省はあなたを騎士団長に任命したのではないかと思うの」
「優しさは時と場合によって他人に責任を強いることがあります」
「そうだったとしても、騎士団長の輪の中に一人、悪を善の道に糺そうとする者が必要よ。怨恨が原動力となって振るう力は時に凶器。なら、わたしたちは第一に護るために戦いましょう」
彼女の発したその科白にはっとさせられ、顔を上げるペリーナ。
「導けるでしょうか」
「信仰心が誰よりも強いのがペリーナの長所。だからわたしと繋がれた。この世を地獄に変える者を止める。その意思がわたしにはある。ペリーナはどう?」
手の震えが止まる。考え抜いた先の答えにペリーナはアメリカ、ハリー・リード国際空港行きのチケットを強く握りしめた。
「皆を護って、この虚しい争いに終止符を打ちます」




