魔法使いと王子と騎士団長
戦争が決着し、一段落着いた王宮。
大掛かりな戦いでありながら、無血戦場であったため、それを防いだ王族や騎士団に称賛の嵐でした。
勿論、アレクシスやレオも絶賛されましたが、やはりそれ以上に称されたのは黒幕と直接対峙したヴィオルです。
それと同時にアナスタシアやロゼリアも絶賛されましたが、やはりそれ以上に称されたのは今回の戦いの1番の貢献者であるエラでした。
2人の関係はアッサリと知れ渡り、お互いに身分差があるものの、誰1人として反対する者はおらず、まだ結婚どころか婚約すらしていないのにも関わらず、祝福が寄せられていました。
しかし、この状況に対してヴィオルは不安に感じてしまい、アレクシスとレオに弱音を吐いてしまいます。
「ここまで騒がれるなんて夢にも思わなかったなよ」
実はヴィオルは、元々エラとの婚約や結婚にはよく思わない人達がいるのは想定済みでしたが、当時王太子候補であった父の前公爵が母のマリエッタと婚約そして結婚する時ですら、そこまで大事にならなかったと聞いていたので、王太子候補でなく単なる第2王位継承者である自分がここまで大事になるとは想像だにしないことだったのです。
また、今後王になるアレクシスとの婚約よりも自分の婚約の方が盛り上がっていることも理解しがたいことでした。
「相手から求婚を受け入れてもらって、皆から祝福されるならこれ以上のことはないじゃないか? 何でそこまで嫌がる?」
「いや、ここまで期待されたらエラにとって重荷な気がするんだよ。実際に俺だって気が重い」
「そりゃ絶対に不安はあると思うけど、あんな戦場で堂々と戦える人だからそこまで心配しなくても良いんじゃない? それに受け入れたってことは覚悟を決めたってことでしょう」
「確かに俺のせいで求婚早まったけど、戦場に付いてきた彼女ならそれぐらい比じゃないと思うけど」
ヴィオルの心配事は2人にとってはあまり大したことではないようで、意表を突かれました。
「俺なんかまだ相手から返事すらもらってないのに」
「こっちはそもそも好意すら受け取ってもらってないけど」
今度は2人がヴィオルに弱音を吐く形で事情を聞かされました。
その言葉でそう言えば今まで2人の恋愛事情について詳しく聞いたことがないことに、ようやくヴィオルは気づいたのでした。
「そう言えば2人は誰に好意寄せているの?」
「「え? 気づいてないの?」」
ここでも再び2人の発言に意表を突かれてしまいました。
この言い草だとどうやら自分が知っている人達であると分かりましたが、正直すぐには見当がつきませんでした。
何故なら他の国では公務上様々な女の人と関わりますが、この国では最近そこまで長く滞在していない上に、元々この国での公務は王やアレクシスが行うため、ヴィオルはあまり関わることがなく、必然的に女の人と関わることもありませんでした。
また、ヴィオルは自身が女好きという言うわけではないで、個人的に関わることはまずありません。
そんな事情は勿論2人の知っているはずですが、その上でこの反応。
そのため、少し時間をかけて過去の会話を思い出すとその答えに自ずと辿り着きました。
「2人とも想い人は侍女だって言っていた気がするけど間違いないか?」
「ああ」「合ってる」
「その侍女って2人とも比較的最近入って来たりする?」
「ああ」「合ってる」
「どちらの侍女も俺と会ったことあるよな」
「ああ」「合ってる」
「はいはい、もう嫌でも分かったよ。2人ともエラのお義姉さん達に好意寄せているのだろ」
「「正解!!」」
ヴィオルは正直信じたくない事実でしたが、やはりその予想は合っていて肩の力が一気に抜けて行きます。
まさか昔から一緒にいる2人が同じ姉妹のそれぞれに好意を寄せているなんて、何処まで似たもの同士なんだと呆れ半分、そして戸惑い半分と動揺せざるにはいられませんでした。
また、そんな中で自分が1番乗りというのも驚きが隠せません。
そんなヴィオルの様子を見て、2人はしてやったりという感じで笑っていました。
「そう言えば、彼女の前では自我出せてる? 俺も彼女といる間は素のままで接するけど」
「常に女の人には淑女として丁寧に接するアレクシスが?少し意外だな。 確かにけっこう自は出せているかな。まあ、翻弄はされているけど……」
「そんな感じするわ。彼女と一緒にいる時、けっこう自が出ているのが見て取れたしな」
このような会話は暫く続くことになるのですが、その間にヴィオルの硬い緊張が自然と解れていくのが分かりました。
戦争とエラとの騒ぎでの完全に疲れは取れておりませんが、それでも心身ともに軽くなっていく感じがしました。
もう事が片付いたので、明日エラに会いに行こうと考えているヴィオルですが、2人の後押しで多少不安は消えたものの、少しの不安を抱えたままエラに会いに行くことになるのでした。




