シンデレラと魔法使いは愛を確かめ合う
ヴィオルはエラに魔法で手紙を送り、明日そちらの家に向かって良いかと尋ねると、すぐに勿論という返事をいただきました。
ヴィオルは安心と同時に不安も抱えながらも、その日はすぐに床に就きました。
次の日の朝、目を覚ますとヴィオルは普段あまり着ない礼服を着て、髪などもしっかりと身なりを整えます。
そして、準備が終わると箒に乗ってエラのところへ向かいました。
数時間経ち、昼近くに目的地に到着すると、ヴィオルは家の門を跨ぐこともなく、なんとエラがちょうどタイミング良く現れたのです。
エラはワンピースではなく、綺麗な青いドレスを着ており、また耳には大きなサファイアのイヤリングが反射し、可愛らしいヘアピンを付けて髪をセットし、そして顔には丁寧に化粧をしていると、ヴィオル以上に身なりを整えておりました。
そこにいるエラは、いつもの元気で明るい少女ではなく、慎ましく華麗な令嬢です。
ヴィオルはその美しさに、自分が魔法を掛けた時のエラのことを思い出しましたが、その時以上に美しくなっていると実感しました。
「ヴィオル卿、こんにちは。ご無沙汰しております」
エラは綺麗な言葉遣いで挨拶し、また美しいカーテシーで出迎えてくれました。
あの田舎っぽさは何処に行ったと思わず尋ねなくなるような激変ぶり。
何もかもが洗礼されていて、ヴィオルはただ驚愕するばかりでした。
そんな中、折角久しぶりに出会ったというのに、自分の名前を第一に呼んでくれなかったことは、正直いうと少し寂しさを感じてしまいます。
しかし、このように短期間で上品な令嬢に仕上げるには並大抵のことでなく、相当な努力をしたのは理解出来たので、戸惑いを覚えながらも、エラの挨拶に対してヴィオルは手を差し出して丁寧に挨拶を返します。
「ご無沙汰しております、エラ嬢。これから私とお話をなさいませんか」
「ええ、喜んで。あちらの森で語り合いましょう」
エラは笑顔を浮かべながらヴィオルの手を取りますが、2人の目が合うと共に声を上げて思いっきり笑い出してしまいました。
「何か可笑しい」
「こっちのセリフ何だけど。何で急に敬語で話しかけてくるんだよ」
「ヴィオルだって同じように接してきたじゃない。それにしても何でヴァーンズの方なのよ。当初のようにMissエラと呼んで欲しかったわ」
「エラが俺の名前を呼ばずに元公爵令息と呼んだからだ」
「だってさ、普段そんな格好しないじゃない。もうそんな綺麗な服装して私ドキドキしたのよ」
「そりゃね……。それよりエラだって何でそんな格好を?」
「いや、今日ヴィオルに会うから折角だからどうすれば良いかリリアーヌ様に相談したらこうなったのよ」
ヴィオルはその話を聞いて今回のことが腑に落ちました。
エラが美しい身なりをしていたのも、所作が洗礼されていたのも彼女が関わっていたのだと納得が出来ます。
それと同時にこんな風に接してきたのも彼女によるものだと思うとヴィオルは肩をすくめてしまいました。
それにしても、やはり言い合うスタイルがしっくりと来ている2人には、この空気は堪えることが出来ず、アッサリと普段の会話に戻ってしまいました。
お互いにこちらの方が性に合うようで、一気に気が抜けます。
「改めてお久しぶり、エラ。さっき森って言っていたけど、本当に森で良いの? 元々レストランとか連れて行こうかなと思っていたのだけど」
「そんなところまだ早いかな。まあマナーは大丈夫だと思うけど。それよりも落ち着いた森で2人きりで話し合いたいわ」
「了解、なら行こうか。ポムに連れて行ってもらうのか?」
「2人きりって言ったでしょ。箒で行こう」
ドレスを着たエラと礼服を着たヴィオルがとそれぞれ箒に乗るには相応しくない服装であるものの、そんなことを気にせず2人は楽しく森まで飛んで移動していきます。
森に到着すると、エラは勿論のこと、ヴィオルも懐かしさを覚えました。
あの時と同じく、それぞれの葉が太陽の光を反射させてキラキラと輝いており、そして暖かな優しい風が葉をゆらゆらと揺らしているのです。
ただあの時とは違い、緊迫感は全くなく、寧ろ安らぎを感じます。
ただ、ヴィオルはこのままエラと話が盛り上がって本題に入れなかったら不味いと感じ、着いたばかりだというのにも関わらず早速話を切り出しました。
「エラ、ずっと伝えたかったことを今もう言っても良い?」
「………………良いよ」
エラはヴィオルの真剣になった顔に一気に鼓動が高まるものの、少し間を置いて承諾しました。
ヴィオルはエラの言葉を聞くと、1回深呼吸してから告白を始めました。
「前にプロポーズした時に、エラは俺の初恋相手でそれから好きになったって言ったと思う。勿論エラを関わるとヒヤヒヤすることも多いし、驚かせることも多いけど、いつも笑顔で前向きで行動力があるところにどんどん惹かれていった。あの時はアレクシスのこともあって急なプロポーズになってしまったし、何よりエラに殆ど選択の余地を与えないままそのまま流れてしまった」
ヴィオルはあの時と同じように跪き、箱を取り出します。
「あの時は好きだったけど、今はエラを愛しています。大変なことが多くあると思うけど、常に支えるので婚約してくれませんか?」
箱の中で輝くのは、あの時と同じくピンクダイヤモンドの指環。
あの時のエラは不安を抱えており、すぐに返事を出すことが出来ませんでしたが、今では待たすこともなくすぐに返事を出します。
「はい喜んで。私もヴィオルを愛していますから」
今度こそはそれぞれ心の底からの言葉であり、それぞれの言葉を聞くと、2人は心底安心し、自然と笑みを浮かべました。
「エラ、指環を付けても良い?」
「ええ、お願い付けて」
ヴィオルはエラの左手の薬指に指環をはめると、少しだけサイズが大きかったので、魔法でエラの指のサイズに合わせてピッタリにしました。
エラはその美しい指環にため息をつきながら、幸せを噛み締めます。
「ヴィオル、私からも渡すものがあるの」
笑顔を向けていく言われた言葉に、ヴィオルは戸惑いを覚えます。
一体何だろうと思いながらもエラから渡したいものを受け取ると、それは以前エラに渡した青色の婚姻届けでした。
しかし、あの時とは違ってエラの名前と継母の名前が記載されており、すぐにでも提出することが出来る状態でした。
エラはもう覚悟を決めてくれていたのだと思うとヴィオルは嬉しくなりますが、念の為に1つだけ確認することにします。
「エラ、これ以外に赤色の婚姻届けも出さなければいけなくなるけれど大丈夫?」
「勿論よ、ヴィオル。私は赤色の婚姻届けにも同じようにサインする気満々よ」
赤色の婚姻届けとは、王を介して婚約されるもの。
そのため、ヴィオルは王族に嫁ぐとこになるけど大丈夫かという意味で聞きましたが、エラはそれを承知の上で自信満々に力強く誓います。
その言葉にヴィオルは安堵したのでした。




