開戦日の早朝
ヴィオルや騎士団長は、王子の言った通り、今日の早朝に敵がやってくるのかどうかは、不安に思っていましたが、それは杞憂に終わりました。
王子の言う通り、今日の早朝に敵は現れたのです。
そこの読みが完全に当たっていたことに対しては、2人は少し安堵したのでした。
もし、あの言葉が無ければ、心構えも準備も不十分で、かなり不利な状況であったのは間違いないでしょう。
しかし、嫌なこともそのまま当たってしまいました。
やはり、軍備や軍隊が増加しているらしいと言う情報がその通りで、こちらのオルガ国は約5千人ですが、向こうのリンネ国は小国であるのにも関わらず、5千人ほどと、こちらとだいたい同じ人数を用意してきたのです。
また、剣は勿論のこと、大変高価で滅多に手が入らない珍しい大砲までしっかりと軍備も備えられておりました。
大国のオルガ国ですら、そこまで大砲を手に入れておらず、このために更に追加したのにも関わらず、小国であるリンネ国がこちらよりも多くの、そして立派の大砲を所持していることには大変驚きました。
一体どんな手を使って手に入れたのだろうと疑問に思います。
人数では五分五分、魔力が強い魔法使いや魔女か計3名いるものの、武器では向こうの方が断然有利と、オルガ国の方が不利な状況。
これは大変な戦いになると言うは、目に見えておりました。
ヴィオルは、これはいつまで体力が持つのかと不安に駆られますが、ここまで来たからにはやり切るしかありません。
魔法陣に手を当てて、自身の魔力を一気に流し込み、あっという間にシーモア領全体を覆う、ヴィオルが今までで1番大きな結界を張りました。
あとは、結界が切れないように維持するばかり。
自分では、戦うことは出来ないため、ただしっかりと他の領地や民に被害を出さないように、また医師や薬師が待機している館に敵が侵入しないように、そして自分自身が襲われないように守りながら、最後まで体力が持つことと、味方が勝つことを祈るのみでした。
軍隊達も同様に相手の人数や装備の凄さに圧倒されます。
しかしその分、彼らは必ず勝たなければと言う使命感が募ります。
騎士団長は、彼らのやる気をしっかりと見て、一斉に戦うよう指示しました。
軍隊達は、騎士団長の指示に従い、こうして戦いが始まったのです。
その一方で、前公爵夫人とエラも彼らと同様に、リンネ国の状況に圧倒されておりましたが、まだ戦いを始めてはおりませんでした。
「エラちゃん、やっぱり怖いわよね。顔が強張っているわ」
「え?」
エラは、前公爵夫人に心配されたことに驚いていしまいました。
自分ではそのように感じているつもりは全くありませんでしたが、どうやら無意識に怖さを感じていたのかもしれないと思いました。
また、前公爵夫人に指摘されたことにより、自分の両手共に大変多くの汗をかいていました。
やはり、恐怖を感じていたことは間違いないようです。
今までは、恐怖心を抱いたことはあまり無かったので、そのように感じていることに少し自分でも戸惑ってしまいます。
「すみません。こんなところを見せて申し訳ないです」
あれだけ強気で来たのに、今更怖気付いていることに対して、エラは情けなくなってしまいました。
また、前公爵夫人を不安にさせて、迷惑をかけてしまったと後悔します。
「大丈夫よ。私だって怖いわ」
「え? そんな風には見えませんが……」
前公爵夫人の態度は堂々としているので、怖がっている気配は微塵も感じず、エラは不思議に思いました。
「当たり前よ。だって国の勝負がかかっているし、何より私達の生死にも関わってくるわ。怖くないなんて思うはずないでしょう」
先程と違って前公爵夫人の声は少しだけですが、声が掠れて震えておりました。
やはり、自分と同じく怖さを感じているようです。
「でも、もうやるしかないのよ。私は、それが使命だからやるしかないの」
その言葉には全く偽りはなく、態度も声も勢いのあるもので、強い意思を感じました。
その真っすぐとした前公爵夫人の姿は、エラにはとても格好良く思えました。
「今のエラちゃんは民側だから、守られるべき存在だわ。だから無理に行かなくても大丈夫なのよ。今ならまだ引き返せる。本当に嫌ならやめて欲しいわ」
前公爵夫人は、本当にエラのことを心配しているようでした。
しかし、エラは横に首を振ります。
「いいえ、勿論行きます。ここまで来て引き返すことなんて出来ません。前公爵夫人から教えてもらったことを、決して無駄にはしません」
エラは、前公爵夫人を真っすぐ見つめて、今の想いを伝えました。
その姿は先程と違って、覚悟を決めた態度でした。
「それに、ヴィオルとも約束したので…………守ると。約束は破れません」
前公爵夫人は、そのエラの硬い決意に少し安心しました。
「なら、行きましょう」
「はい!」
こうして、エラ達全員は戦いに幕を開けたのでした。




