シンデレラと弓
2人共に意気込んだところで、前公爵夫人は魔法の杖を取り出し、エラは自身の弓を取り出して、それぞれ準備をし始めました。
「エラちゃんの弓は、まだ普通の弓だったわね」
「いいえ。この弓は、一般的に使われている弓とは異なって、あまり出回っていない弓ですよ」
「確かにその通りではあるけれど、私が言いたいのはそう言うことではないわ」
エラが使っている弓は確かに珍しいです。
普通の弓は、120〜180センチメートルで、この間でそれぞれの体格に合わせて長さを変えていきます。
しかし、エラの弓はなんと200センチメートルを優に超えているのです。
エラはただでさえ、150センチメートルで痩せ型と、小柄な体系であるのにも関わらず、自分の身長よりも随分長い弓を軽々と一切ブレることもなく撃つのでした。
また、普通の弓の材料は、柄が木で弦が絹なのですが、エラの弓は、柄が竹で弦が麻とこちらの方ではなかなか手に入らない素材を使っておりました。
他の違いとしては、持つ位置が真ん中ではなく下側だったり、支える指が人指・中・薬指ではなく親指だったりと様々な違いがありました。
確かにこの弓を使っている人がいないわけではありません。
この弓はエラの言う通り、確かに普通の弓よりも遠く飛ばすことは出来ます。
しかし、この弓は自分の身長よりも長いので、まず持つ時に安定せず、正確に撃つことが出来ないのは当然のこと、その上に標的から大きく外してしまうのでした。
そのため、多少下手でもそれなりに正確に打てる弓の方が一般的に浸透していると言うわけです。
その一方で、エラの腕は大変上手く、器用に使いこなせるため、珍しい方の弓を用いていたのでした。
どう考えても普通の弓を使っているわけないのに、前公爵夫人にすぐ否定されたことに、エラは意味が分からず、思わず「はい?」と強く反応をしてしまいました。
前公爵夫人はエラの気を悪くしたのだと感じ、そう言う意味で言ったわけではないと謝ります。
エラは一体どう言うこと意味なのかと、再び即座に前公爵夫人の言葉に反応しました。
前公爵夫人はまあまあ今から説明するからと、持っている魔法の杖を一振りします。
すると、魔法の杖や魔法の箒と同じ材料である、エラが普段から使っている珍しい弓が現れました。
よくよく見ると、形や大きさは全て、エラが普段から使っている弓と全く同じで、違いは材料だけでした。
「実はね、エラちゃんに指導した時から注文して速急に作ってもらっていたのよ。それが昨日ようやく届いたから、これを使いなさいな」
「え? それって……オーダーメイド?」
この材料自体がそもそも高価なものであるのに、サイズはとても大きくて、その上自分特注のオーダーメイド。
普段使っている弓も、昔父である子爵からくれた贈り物で、珍しい上に、素材なども良いものが使われていたいたので、かなりの高級品ですが、これはそれとは比較にならないぐらい高価で貴重な物であることは間違いありません。
そんな高価なものをアッサリとそして早急に作らせることが出来るところは、王家直属の公爵家だけあって、地位や財力に関して流石だなと感心してしまいました。
その一方で、そんなものを自分のために作られたと考えると、エラの頭は痛くなるのでした。
「いえ、こちらの弓の方が使い慣れておりますから、それを使う必要はないですよ」
これは半分本当で、半分嘘。
今使っている弓はもう4年の付き合いで、完全に自分の手に馴染んでいるので、前者は本当です。
しかし、使う必要がないと言う後者は嘘。
必要がないのではなく、単純にエラが使いたくないだけなのです。
もうすっかり馴染んでいたのでエラも先程まで忘れておりましたが、ただでさえ現在、高価な魔法の箒と魔法の杖を借りている状況なのに、それよりも高価な物を借りたくないはないのです。
壊したり、失くしたりしたらどうしようと、そちらの心配が嵩みます。
だから今回は、かなりきつめに断りを入れました。
しかし、前公爵夫人はその要望を素直に受け入れることはしませんでした。
「駄目よ。その弓だとどうしても限界があるわ。折角魔力を使うのに勿体ないわよ。魔力を有効に使うには、絶対にこっちにするべきだわ。取り敢えず持ってみてちょうだい」
前公爵夫人にここまで言われたら、エラは従わないわけにはいかず、仕方なく自身の弓を仕舞いました。
そして、渋々前公爵夫人が用意した弓を手にしました。
感触は、魔法の杖や魔法の箒と同じなので、そこまで違和感は感じませんでした。
でも、エラには他の不安がよぎりました。
「今まで使ったことがないし、使いこなせる気がしないのですが」
「本当ならこれで練習させたかったけど、なんせ予定が思った以上に早くなってしまったからね。まあ、エラちゃんなら大丈夫よ」
「何を根拠にそんなことが言えるのですか?」
「まあ、女の勘ね」
「やっぱり根拠ないじゃないですか!」
エラは、なんかこのやり取り少し前にもやったなと、過去の記憶が蘇り、ため息ばかり出てしまいます。
何だか自分がやってきたことがここでツケが回ってきたような気がしました。
自分が今までこうやって周りを困らせていたのかと思うと、少し申し訳なく思います。
こうなったら、自分も無茶振りに応えなくてはと、逆に使命が燃えました。
こうしてエラは、新しい弓と言う、新たなパートナーと共に、戦場に向かったのでした。




