思わぬ遭遇
エラとヴィオルは休憩を挟みながら、約1日半をかけて辺境地へ到着しました。
ヴィオルが付いて来てと言うので、エラはヴィオルに続いてそのまま付いて行きます。
進んでいくと先ほどまではとても静かだったのに、少しずつ人の声が聞こえてきて、その声はだんだん大きくなっていきました。
「ヴィオル、いらっしゃい」
その声はとても澄んだ綺麗な声でした。
その声の主が2人の前に現れます。
綺麗な卵型の輪郭で、真っ白な肌、そして少しタレ目で可愛らしいのですが、とても綺麗な金髪が美しさを引き出しており、可愛いと美しいの中間と言う良いどころ取りしたような顔。
エラはその容姿を羨ましく思いました。
それにしても、王族であるヴィオルに対して気軽に話しかけるとはどうやら只者ではなさそうだと勘ぐりました。
しかし、ヴィオルには女の気配すらなかったと、義姉が言っていたので、エラは2人が一体どう言う関係なのか大変気になったのでした。
そんな中、ヴィオルは顔色を変えて大変驚き次のように叫びました。
「母さん!?」
その言葉にエラは自分の耳を疑いました。
何故なら、彼女はどっからどう見ても20代半ばだからです。
どっからどうみても姉弟にしか見えません。
ヴィオルが22歳なのですから、母親がそんな年なわけがないのです。
「ねぇ、ヴィオル。この方って『お母さん』と言う通称なのかしら?」
エラでも何を言っているのかわかりませんでしたが、「お母さん」と呼んでいるには何か理由があるのではないかと思ったのです。
「そんなわけないだろう。事実俺のお母さんなんだよ。魔女だから若く見えるけど、こう見えても49歳で、27歳で俺を出産しているの」
そう言えばヴィオルの祖父も、お父さんとは友人のようにしか見えませんでした。
確かに前公爵夫人も魔女ですから、若く見えるのも納得でした。
それでもやはり、彼女が魔女だと差し引いても驚くものなのでした。
この人こそ、真の美魔女なのだと痛感しました。
「ヴィオル、余計なことは言わなくていいの!」
ヴィオルは前公爵夫人に思いっ切り頭を叩かれていました。
その衝撃はかなりのものであり、ヴィオルは思わず頭を自身の手で撫でてしまいます。
「何が余計なんだよ」
「女性の年齢は如何なる時でも言っていけないの。昔からよく言うでしょう、女性の年齢や体重は聞くな言うなって」
「聞くなとよく言われるけど、言うなとは聞いたことがなけど」
「ごちゃごちゃ言わずに、そう言う時は素直に自分の非を認めたら良いの」
ヴィオルは不本意そうに、分かった分かったと2回返事をして、やり投げに自分の非を認めました。
前公爵夫人は返事は1回でしょうがと怒るものの、訂正しようとしないので、その様子に肩をすくめました。
「それにしてもそのお隣にいる可愛らしいお嬢様は誰かしら? ねぇその子、ヴィオルの恋人? 早く紹介してよ」
前公爵夫人は、今まで一度も女の気配を感じさせなかった息子にとうとう春が来たのかしらと考え、思わずニヤニヤしてしまいます。
その一方エラは、可愛いと言う言葉にはお世辞とは言え嬉しいと思いながらも、もし恋人を一気に超えて婚約者だと言ったら、飛んでもない方向に行きそうな気がして少し不安になります。
「違うよ。この子はエラ・アン・ヴァーンズ嬢で、俺の弟子だ」
ヴィオルは恋人だと言うことはハッキリと否定し、弟子であることをしっかりと強調しました。
確かに、最初から弟子として連れて行くと言っていましたから、エラは納得し、少し安心しました。
「いつの間に弟子が出来ていたの? 弟子が出来たなら私に教えてくれたら良かったじゃないの。隠すなんて酷いわ」
「最近弟子になった子だから紹介する時間がなったの」
「あら、なら私がいない僅か1ヶ月半の間で出来たと言うの?」
「あぁそうだよ」
「彼女は一体どんな魔法が得意なのかしら?」
「主に攻撃だね」
次々くる質問に、ヴィオルはウザく感じてきて、最後の方はぶっきらぼうな言い方になります。
「彼女はあとどのぐらいで魔女になれそうなの?」
「つい最近魔女になったよ」
「何なんですって!」
前公爵夫人はヴィオルの言葉に大変驚いてしまいました。
なんせ魔女になるには何年も下手したら何十年もかけてなるものなのですから、驚くのも無理はないことでした。
「まぁもともと彼女自身で時間を掛けて習得していたみたいだから、俺はほとんど教えていないけどね」
「誰の助けを得ずに習得って……飛んでもない天才ね」
ヴィオルはその言葉には素直に頷き同意します。
エラは2人から天才だと言われて少しこそばゆいですが、嬉しく思いました。
「そう言えば挨拶をし忘れていたわね」
前公爵夫人は体をエラの方に向けて姿勢を正します。
「初めまして。私、ヴィオルの母のマリエッタです。ヴィオルがお世話になっております」
前公爵夫人は爽やかな笑顔を向けて挨拶します。
エラはどう挨拶したら良いのだろうと少し戸惑いながらも、質素はワンピースの裾を少し掴み、カーテシーをとりました。
「初めまして。私、エラ・アン・ヴァーンズと申します。彼にはいつもお世話になっています」
エラはこれで正解なのか不安に思いながらも精一杯挨拶をしました。
そんなぎこち無い様子のエラを見て、前公爵夫人は微笑ましく思いました。
「そんなに畏まらなくて良いのよ。気軽に接してくださいな」
そのように言われても、彼女は何処まで言ってもヴィオルの母親で、何より前公爵夫人であるのでそんなことは出来るわけがなく、エラはただ苦笑いするだけでした。
このままではエラが苦しいだけだろうと思い、ヴィオルは話を変えて前公爵夫人に質問をしました。
「それにしてもいつ帰ってきたの? 数日前までは帰ってきてなかっただろう?」
「えぇ、今日ここに戻ってきたわ」
「最近仕事が終わって、戻って来ている最中にこのような事態になっているから直接ここに来たってこと?」
「いや〜仕事はすぐ終わったけど……色々あってね」
前公爵夫人は気まずそうにヴィオルから目を逸らしました。
「やっぱり父さんのところに帰りたくなかったんだね」
前公爵夫人はヴィオルにビシッと指摘され、顔がこう垂れてしまいます。
「なんて言うか……その……父さんを嫌いになったわけじゃなくてね……」
「分かってる。父さんに構われ過ぎてウザくなったんだろう。お疲れ様」
普段仕事はどんなに遅くても半月で終わらせてくるので、ヴィオルは、1ヶ月以上帰っていないのには仕事以外に理由があるのだろうなと言うことは簡単に予想はついておりました。
前公爵夫人はてっきり責められると思ったので、ヴィオルに労いの言葉を言われ少し驚きます。
「別に甘えてくるのは構わないのだけど。まぁ、そう言うところが可愛くて結婚したわけだし。でも……もう少し節度を守って欲しいわよね。だから少し離れて気分転換したくちゃったわけよ」
「え、可愛いの?」
ヴィオルは可愛いと言う言葉に反応してしまいます。
公爵は厳つい顔と身体であるため、とても可愛いと言う要素が見当たらないからです。
「だってあの見た目と行動が全く異なるから。なんて言うのかしら? ギャップ萌え? とにかく可愛いわ!」
「……………そう……なんだ?」
前公爵夫人は満面の笑みで公爵の魅力を語りますが、ヴィオルには全く理解が出来ないのでした。
その一方エラは、2人はとても仲が良くて素敵な夫婦だなと羨ましく思いました。
「でも、何で父さんに構われ過ぎているって分かったわけ?」
「数日前に父さんに会いに行ってさ。そこで父さんがメチャクチャ寂しそうにしてから」
「そう。でも、何で会いに行ったの?」
「まあそれは色々あって。落ち着いたらまた話をするよ」
ヴィオルの顔が真顔になったので、これは今すぐには語ることが出来ないことなのだろうと前公爵夫人は察しました。
「分かったわ。後でじっくり聞かせてちょうだいな」
「えぇ、必ず」
2人は笑みを浮かべて約束します。
そんな2人を見てエラは、本当に仲の良い親子なのだなと実感したのでした。




