シンデレラと魔法使いは辺境地へ向かう
「じゃあ、箒に補助魔法かけておくな」
ヴィオルはそう言って杖を一振り回しましたが、全く変化は見当たりませんでした。
「魔法かかっているの? そもそも補助魔法って何?」
エラは箒に何の変化がないことと、初めて出てきた魔法の名前に疑問が湧きました。
「補助魔法とは、魔法を使う者の手助けをする魔法のことだな。今回で言うとエラが箒に送る魔力の量を調整したり、そもそも転倒しないようにしたりすると言う魔法だな」
「なるほど。それなら手を離していても安心ね」
さっきのように誤って手を離してしまっても、落ちることはないのだと思うと安心しました。
「その程度なら大丈夫だけど、自ら飛び降りようとして手を思いっ切り離したら流石に対応は出来ないから無茶はするなよ」
「そんな危険なことするわけないでしょ!」
ヴィオルがまるで子どもに接するように注意するので、エラは苛立ちを感じました。
「自ら戦地になるかもしれない場所に行くような変わり者だからな。エラなら何をしてもおかしくないと思えてきて、どんな行動も不安なんだよな」
エラはその言葉通りのことをしていることは多少自覚はあるため、反論は出来ませんでした。
自分の無茶振りに付き合わせているヴィオルに少しだけ申し訳無さを感じ、奇抜な行動は取らないと口にしたのでした。
「エラ、そろそろ出発するぞ。ボーっとしていると置いていくからな」
エラが声を掛けられている時には、ヴィオルはすでに箒に跨り空に浮遊していました。
エラは慌てて箒に跨り、「空を飛べ! ビビデバビデブー」と大きな声で叫びます。
すると急速に上がっていた先ほどとは違い、今回は緩やかに上がっていきました。
少しずつ町が小さくなり、ヴィオルがいるところまで浮遊すると、その光景はとても壮大で圧巻です。
また、少し暖かめの風が吹き、心地良いのです。
エラはこの状態をもう少し堪能したいと思いましたが、ヴィオルが前に進み始めたので、堪能出来ずに早速出発となりました。
安定した姿勢と落ち着いた速さで前に進むので、安心して空を飛ぶことが出来ます。
また、空気を通り抜けるこの感覚が何よりも楽しいのでした。
ヴィオルは、何も言わずそのまま進んでいき、それに続いてエラが進みます。
どうやら、ヴィオルと同じ方向に進むようにも補助魔法を掛けているようで、ヴィオルと逸れる心配がないと分かったエラはこの点でも安堵しました。
最初は空を飛ぶ感覚を楽しんでいたのですが、暫くすると物足りなさを感じ始めました。
そのため、エラはヴィオルに話しかけることにします。
「ねえヴィオル、私達の国に戦線しようとしている国は一体どんな動物を集めているの?」
急にエラに話しかけられ、少し驚きましたが、質問にはすぐに返答をしました。
「えっと確か……狐とアザラシと……」
「それはさっき聞いたわ。他に何かないの?」
エラは気になって、ヴィオルの回答を急かします。
ヴィオルはその時戦争のことの方が気が気でなく、正直隣国の方の話はあまり記憶に残っていなかったので、なかなか答えることが出来ないのでした。
それでも、質問に答えようと王子との会話を再び頭の中で再生させると、隣国の話のことを思い出すことができました。
「あと、ゾウやドラゴンとかも捕らえてると言っていたな」
「ドラゴンですって! ドラゴンってこの世に存在したんだ。妖精と言い、魔法使いと言い、何でもいるのね」
物語の中でしか存在しないと思っていた動物の名前が多く現れて、エラは少し興奮してしまいました。
「でも、ゾウもドラゴンも、とある所にしか住んでいないんでしょう。やっぱり捕らえるなんて許されざる行為だわ」
エラはこの怒りに乗ってくれると思いましたが、ヴィオルは黙り込んでしまい不思議に思いました。
「どうしたの? 体調でも悪くなったの?」
「いや、そう言うわけではないよ。でも少し気がかりでね」
気がかりと言う言葉に疑問を持ったエラはヴィオルに質問することにしました。
「ゾウやドラゴンもそのまま生きた状態で捕まえているらしくてさ。あんな大きくて凶暴な動物をどうやって生きたまま捕まえたのか不思議に思って。剥製とかにはしていないしさ。あの時は戦争の方の話で気にしてなかったけど、今となると気がかりだな」
「ドラゴンは凶暴なイメージはあるけれど、ゾウも凶暴なの? 温厚なイメージがあるのだけれど」
エラは剥製と言う言葉にはゾッとしましたが、それ以上にゾウのことが気になりました。
「確かに普段は温厚だよ。でも、危害を感じたらその威力はヤバいものさ。あとそもそもドラゴンもゾウと同様に普段は温厚だよ」
「え、ドラゴンって温厚だったの!? 意外だわ」
エラはドラゴンの存在自体に驚いた上に温厚だと聞き、尚更驚いていしまいました。
物語でのイメージとは全く異なるものなのだと改めて実感しました。
この会話を終えると暫くの間再び沈黙が続きました。
それに耐え兼ねたエラは再びヴィオルに話しかけました。
「ねぇ、戦争ってどんな感じなのかしら?」
「長い間この国では戦争が無かったからな。俺だって簡単には想像出来ないさ。なんせ50年以上の前の話で俺達は生まれてないからな。ただ間違いなくお互いに死傷者が出ることはほぼほぼ間違いないだろうな」
エラは間違いなく死傷者が出ると言う言葉を聞き悲しくなりました。
「そうね。でも、出来るだけ死傷者は少なくしなきゃ。ヴィオルの前でも、お義母様の前でも、国の前でも誓ったし、前に進むしかないわね」
「そうだな…………えっ、お義母さん?」
ヴィオルはそのまま流されそうになりましたが、今日は会っても無いはずなのに、いつ継母の前で誓ったんだと言う疑問が浮かびました。
「えぇ手紙で、戦争に参戦して終結させてくると誓いを立ててきたわ。あと、ポムの世話もお願いと書いてきた」
「ちょっと待って。この話は誰にも言わないでと約束したよね? 何勝手に戦争のこと書いてるの?」
「だって手紙書かないとお義母様を心配させちゃうでしょ」
「いや、寧ろそっちの方が心配させるわ。普段ポムに乗って弓を射るのを心配させているんだから、心配させたくないんだったら、まずそっちを止めろよ」
貴族の醜い世界を知って欲しくないからと16歳まで外で働かせず、ポムに乗って弓を射るのを毎回心配するなど、ただでさえエラに対して過保護である継母が、戦争に行くなんて知ったら発狂するのことはほぼ間違いないでしょう。
ヴィオルは例え戦争を無事終えたとしても、戦争に連れて行った自分に対して、その後婚約解消では済まない恐ろしいことが起こるような気がして、頑張ろうと燃え上がっているエラとは反対に、背筋が少し寒くなったのでした。




