甘い物好きとその弟子
「きぬ、儂ぁまあまあ大食らいの方じゃが、それでも飯の他に半殺しをいきなり二つは多すぎる」
弘は箸を取って二つのおはぎを、それぞれを半分に割った。
「秀助どんよ、悪いが小皿を一つこっちにくれないかい?」
秀助は清次郎の方をチラリと見た。
「おてしょ……?」
「小皿のことだ。そいつを養父のところに一枚持って行っとくれ」
清次郎は微笑して小声で答えた。指は呉須染の皿を示している。
「へぃ」
秀助は軽く笑って、残りの皿を清次郎に押しつけた。腰を低くしたまま起ち上がり、弘の側へ寄り、皿を差し出す。
弘は素早く切り分けたおはぎを載せる。
「色々頼んで済まぬがな、秀どんよ、これをウチの女衆に渡してくれ。
世の中じゃ、女子は甘いもんが好きだというが、寝たきりの寝起きにの半病人に、いきなり二つも三つもおはぎを食う訳にもいくめぇよ。合わせて一つ分も食えば、満腹になるだろう。
ああ、その前に、女房殿に膳を持ってこなければならぬな」
「あ、すぐに……」
秀助は小皿を持ったまま振り向いた。
障子がそろりと開いた。外側で権太が頭を下げている。傍らには膳が置かれていた。
「秀助どんが奥様のために白粥を拵えてくれてたんで」
粥の碗と刻んだ硬い梅の小皿が乗った膳を、権太はそそっときぬ女の前へ運んだ。
「わざわざ粥を煮てくれたのか。秀や、お前なかなか気が利くではないか」
秀助は褒められたのが少々気恥ずかしかったのか、なんとも表現のしようのない微笑を浮かべて、
「いえ、とんでもございやせんです」
軽い会釈をしてから、きぬ女の膳に小皿を置いた。
「無理せずにお召し上がりくだせぇ」
「ええ、でもきちんと食べないといけませんからね。そうそう、清次郎殿、牡丹餅とお皿をこちらへ。みなに配りますよ」
「あ、はい」
清次郎は持っていたおはぎと秀助に押しつけられた小皿を、両手に均衡悪く持って、義母の元へ飛んで行った。皿の方を秀助に押しつけ返して、きぬ女の前に膝をついて、おはぎを掲げた。
皿を押しつけられた秀助の方も、きぬ女の前に重なった皿を差し出した。
「清次郎殿は甘い物がお好きだと聞いております。二つ召し上がりますよね?」
きぬ女の言葉は疑問形になってはいるが、拒否権のない口ぶりだった。
「はい、有難く」
清次郎の返答の声が消える前に、秀助の持つ皿に小豆餡と胡桃餡のおはぎが一つずつ載った。
「秀助さんは?」
きぬ女から青白い顔を向けられ、秀助は清次郎が持っているおはぎの包みをチラリと見た。残っているおはぎは二種類二個、合わせて四つだ。
『お直さんに権太とっつぁんに俺で分けるには、それぞれ一つずつ。残った一つを三つに割るのが、一番いいんだけっとも』
だからここで『二つでも三つでも、なんなら全部でも』と正直に答えるのははばかられる。
言葉を選んでいる間に、弘が、
「きぬや、秀どんは清次郎の弟子だろう?」
「あら、そうですね」
きぬ女は素早く鉄絵の皿に二種類のおはぎを取り乗せた。




