92: EP5-15 寒空に香る硝煙:Ⅵ ─Temporary End
ひとまずの終わり。
...でも、それは本当の終わりなのかな?
コロニー協定連合体 "CAU"
西暦3020年5月19日[STC]
協定宇宙時00:55
木星近傍宙域、木星圏廃棄コロニー群057内部、旧市街区域
──Side: 三人称視点
『あー... あれ生きてんのか?』
『...まぁ、ライラ・ジーナのショックアブソーバーは優秀ですから... 多分...?』
カンペアドールに蹴り飛ばされ、背後のビルの中へと消えていった敵リーダー機を見ながら、ジャレッドとロビンがそう不安そうに漏らす
『今の速度と角度...後当たり所、ビルの材質... まぁ、骨折ぐらいで済むんじゃないかとは思うよ、ロビン。』
『セルジオさんがそう言うなら...』
セルジオが呟く中、当のカンペアドールとクランツ機、ジーナ機が敵リーダー機が消えていったビルへ近づく
ジーナだけは敵が降機した2機のバトルワーカーに照準を向けたまま後ろ歩きで下がっているようだ
『...大隊長、もうちょっと勢いを弱めでもよかったのではないだろうか。』
『まぁ... それは... 同意する。』
『まぁあれでアイツもシャキっとしただろ、さっさと情報を吐かせるぞ!』
果たしてシャキっとした程度で済んでいるのかは到底疑問なところではあるものの、カンペアドールとクランツ機がビル内へと入っていく
ジーナ機はそのまま外で警戒態勢を維持する
『大隊長、こちらで敵パイロットを引きずりだす。 援護を頼む。』
『了解だ、副長。 最後の抵抗をしてくるかもしれないからな、注意しろ。』
ビルの奥で残骸に埋もれ完全に停止していた敵リーダー機を見つけると、クランツは少し距離を置いた場所に自身の機体を膝立ちで駐機させ、コックピットから降りる
その間、カンペアドールは敵リーダー機に予備として腰部にマウントしていた40mmロングライフルを持ち、油断なく向けていた
敵リーダー機にクランツがよじ登り、コックピットハッチにたどり着く
『──強制解放のコックを見つけた。 大隊長、準備はいいか?』
『いつでもいい。』
『3、2、1、解放!』
クランツがハッチ下部側にあるハッチ解放用のコックを捻りながら勢いよく引く
すると、ハッチ内部から小さな爆発音が聞こえ、ハッチがゆっくりと開きだす
元々、フレームワーカーの頃からコックピットハッチは開いている状態がデフォルトとして設計されている
バトルワーカーもその設計は受け継がれており、ハッチの強制解放はつまり、閉じた状態を維持するためのロック機構を爆砕ボルトで吹き飛ばすシンプルなものとなっていた
本来は事故などでリアクターの出力を失った場合など、機体が動作できなくなった場合に外からパイロットを救助するためのフェイルセーフ機構ではあったが、このように敵パイロットを強引に引きずり出すのにも当然使える、という話だ
クランツが元々片手で構えていた近接戦闘用のハンドガンをしっかりと両手で構え直し、コックピット内部に向ける
『暗くて良く見えんな... とりあえずパイロットを確認したが...』
『...生きてるだろうな?』
『古典的な手法を試すとしよう、大隊長。』
そう言い放ったクランツが構えをそのままにコックピット内部に潜り込む
そして、ハンドガンを握る両手のうち、右手を離し、拳を握りしめる
そのまま、コックピットの座席にもたれかかったままの敵パイロットを見据え、右腕を静かに引き、それでいて重々しく振りかぶる
直後、重い殴打音と悲鳴が響いたのは最早言うまでもないことだろう
『ふむ、生きているようだな。』
『おい副長、ビルの外まで悲鳴が聞こえたぞ?』
『...生きている...いや、起きたんだろうな、可哀そうに...』
マルコシアスのぼそっとした呟きはどこへともなく消えていった
その後、コックピットから引きずり出された敵リーダーとついでに後から追いついたセルジオ達の援護によって捕縛された残り2人の敵パイロットがビル内に集められる
「ふむ、外のバトルワーカーの放射線はここまでは影響がないようだね。 思いのほか影響が少ない...か。」
「放射線? ...あぁ、ESFのバトルワーカーは融合炉だったか?」
「そうだね、ジーナ。 ESFは第2世代の頃からずっと熱核融合炉をリアクターとして採用している。 あれだけ派手に暴れてリアクターごと破壊したからには、一応これも気にしておかなきゃ、というところさ。」
空間放射線量を気にするセルジオにジーナが話しかける
「面倒だよな、エジタイトはそこらへんの汚染がないって聞いてるからいつも安心ってところで助かってる。」
「あれほど人体への反応性がない物質も中々珍しいからね。 エッカート博士もウェルティ博士も、本当にスゴイ人達さ。」
しみじみと語るセルジオの背後、敵パイロットの様子を見ていたロビンがクランツに何やら話しかけている
「...あの、クランツさん。 通信越しにまで悲鳴が聞こえた時点で色々察してはいた...いえ、察しようとはしたんですが。 その... この2人の怯え方は一体どういう...?」
「少々...多少やりすぎだったかもしれないが、まぁ結果良ければ何とやら、ということにでもしておいてくれ、ロビン。」
その返答にロビンが露骨に目を逸らす
そんな様子を横目に、敵リーダーと向かい合っていたマルコシアスにジャレッドが近づく
「大隊長、船に連絡がついたぜ。 すぐに応援を寄越す、だとさ。」
「了解だ、ジャレッド。 ...さて、我々もある程度は仕事をしておくか。」
マルコシアスが再び敵リーダーに向き合う
あからさまに怯えた目をしており、その目線は時折ちらちらとクランツの方を見ている
「さて... 色々と聞きたいことはあるが... どうやら面倒事は避けられそうだな? おい、副長!」
もちろん、マルコシアスがその目線に気づいていないわけもなく、クランツを呼ぶ
「何だろうか、大隊長?」
「コイツと... ちょっと仲良くお話しておいてくれ。 ログは... ジャレッド、頼めるか?」
「任されたぜ、大隊長。」
「了解だ、大隊長。」
敵リーダーにクランツとジャレッドが歩み寄っていく
その時の、敵リーダーの表情が相当に酷いものだったことはしばらくの間ネイヴィガーの定番ネタになったとかなってないとか...
「ロビン! ジーナ! そっちの2人を見張っておけ! 応援が来たらすぐに引き渡せ、大した情報も持っていないだろうから、適当に船の倉庫にでもぶちこんで後でJPC002に帰ってから警察にでも突き出してやることにする。」
「了解です、大隊長。」
「任せな!」
「で、だ。 セルジオ。 このビル... 管理局だったか? 図面通りならこの近くの外壁ブロックにリアクター区画があるはずだな?」
「うーん、そのはずだね、大隊長。 これだけ色んな設備を動かしてたんだ、廃棄コロニーには似つかわしくない何かがあっても... とは考えてるけども。」
「なら拝みに行くとしよう。 案内してくれ、セルジオ。」
「喜んで、大隊長。」
場をそれぞれのメンバーに任せた後、マルコシアスとセルジオは次なる目標に向かい歩き出す
後日、その場の感想をロビンはマルコシアスにこう語ったという
──クランツさんってあんなに... その... 武闘派だったイメージないんですけど...
協定宇宙時01:25
木星近傍宙域、木星圏廃棄コロニー群057、コロニー外壁低重力区画
「この先のエアロックを、と言ってももう機能していないようだけど... まぁ、通り抜ければ、そこがリアクター区画のはずだよ、大隊長。」
「そこまで遠くはなかったな。」
身体がふわふわと浮かぶ低重力区画の中、2人は目的地へと進んでいた
「廃棄されたコロニーに一体何が動力を供給していたんだか...」
「見れば分かるものか? セルジオ。」
「そりゃあもちろんさ。 お、あのエアロックだね。」
2人がエアロックのドアに近づく
「...あー... 大隊長、こじ開けないとダメっぽい。」
「ではそうするとしよう。 3カウントで行くぞ。」
その言葉通りにマルコシアスの掛け声に合わせ、2人はドアをこじ開け、また、その向こうの反対側のドアも同じようにこじ開ける
エアロックを通り抜けると、そこは確かにリアクター区画だった
「...これは...」
「エジタイト反応だ。 一般的なエジタイト反応炉ってところ... いや...?」
広い空間に並び立つ大型のエジタイト反応炉を眺め、そしてセルジオが首を傾げる
「何だか... 違和感があるな。」
「何がおかしいんだ、セルジオ?」
「そうだね... まず... 普通、こういうコロニーのリアクター区画に使うエジタイト反応炉ってのは、完全に同一の規格のものを揃えるのがセオリーなんだ。 そのほうが出力の計算だとか、色々やりやすいからね。」
その言葉を聞いたマルコシアスが辺りを見渡す
そして、ふとセルジオに視線を戻す
「...まちまちだな、サイズも、形状も。」
「そう、そうなんだよ。」
マルコシアスの言葉通り、この広い区画にはほんの1か2メートル四方程度のバトルワーカー用反応炉らしきものから、高さ20メートルはあろうかという大型反応炉まで、様々な炉が置かれていたのだ
「しかも、だ、大隊長。 見たところ、そのどれもがやけに古いか...損傷がある。 まるで...」
「ジャンク品の見本市、か?」
「ご名答だ、大隊長。」
確かにその言葉通り、大小さまざまな炉は、また、古ぼけていたり、炉体が傷だらけだったりといったものばかりだった
「特に... あれを見てくれ大隊長。」
そう言ってセルジオが指差した先にはバトルワーカー用反応炉が置かれている
所々焼け焦げたような跡があって、かろうじて動作しているといった雰囲気だ
「あれと似たような状態の炉を見たことがある。 軍の犯罪組織鎮圧任務の残骸を漁っていた時に、ね。」
「...残骸から取り出したものだ、と?」
「そう。 普通ならあんなの、一発で廃品送りさ。 実際、俺も何度かあんな状態のを拾ったことはあるけど、ほとんど部品取り用さ。 意外と中身の細かい部品は無事だったりするからね。」
セルジオがそう言いつつ、更に目前にある別の炉を指さす
「こっちなんて... うん? コイツの炉の定格出力は... なんだこりゃ、10%ぐらいしか出てないじゃないか...」
炉の出力制御盤を見ながらセルジオがぼやく
「ジャンクを揃えるだけ揃えて、見てくれ...いや、累計の出力だけは揃えた、というところか。」
「まぁ...そうだな... 例えジャンクでもそりゃ、確かに数を揃えれば...ね。」
確かにこの空間には数えるのも面倒になるほど多くの反応炉が置かれている
元々はこの空間にはしっかりとした規格品の反応炉があっただろうが、もちろん、それはコロニーが廃棄されるときに回収されている
つまるところは、状況から察するに、ここを根城としていた彼ら賊がどこかから盗み出したか、回収したものを勝手に置いていただけ、というところだろう
最低限生活し、装備を整備、防衛設備を動かすにはこれでも十分だった、というところとも言えそうだ
『大隊長。 応援の部隊が到着した。 それと...中々有意義な話もできたぞ。』
「了解した、副長。 ...よし、セルジオ、一旦戻るとしよう。」
「了解さ、大隊長。」
クランツの通信を合図に、2人はコロニーの内部区画へと戻り始める
「...あぁ、後でエンジニア連中にも一度ここを見せるべきか、セルジオ?」
「確かに。 手配は頼めるかい?」
「やっておくさ。」
そう言うと、2人は部屋を後にしていった
協定宇宙時01:55
木星近傍宙域、木星圏廃棄コロニー群057内部、旧市街区域
「おう、おかえり、大隊長!」
「ああ。 何も問題はなかったか?」
ジーナの出迎えにマルコシアスが応じる
「もちろん、大隊長! で、クランツが話があるってよ。」
「ふむ、では早速聞くとしよう。」
セルジオ、ジーナと共にクランツとジャレッドが待つほうへとマルコシアスが歩いていく
その時、少し離れたところで応援に来た部隊が賊の生き残り3人を引きずっていく光景が広がっていた
「...まぁ、降伏した手前殺すわけにもいかなかったしな。」
ぼそりとジーナが呟く
「もう一発ぐらい殴っておいたらどうだったんだい?」
「げ、それぐらいならイケたか。 もっと早く言ってくれよセルジオ!」
「いや、分かっててしてないのかとね。」
「なー大隊長、今から...」
ジーナが普段の様子に似つかわしくない弱々しいような声音で問うように声を出す
「...やめておけ、ジーナ。」
「あいさ、大隊長。」
そんな短いやりとりのうちに、クランツ、そしてジャレッドの前に着く
少し遅れて賊の引き渡し作業が終わり合流したロビンを交え、短い挨拶も程々に済まし、そしてクランツが本題を話し始める
「色々と興味深い話が聞けた。 ログはジャレッドが残したが、とりあえず今いくつか話すとしよう。」
「あぁ、聞かせてくれ、副長。」
そうして、クランツはログを元にいくつかを話し始める
その中、マルコシアスが気になった話を確認する
「...ふむ、敵バトルワーカー...ネアス・アドニスの出所、か。」
「あぁ。 どうやら連中は盗み出したり回収したりしたものを売り捌いて生計を建てていたようだ。 一昔前のセルジオのようなものと考えれば遜色ないだろう。」
「盗みはしてないからな?」
「戦場からの無許可のサルベージは盗みもいいところだろう。」
「...何も言い逃れできない。」
セルジオがバツの悪そうな雰囲気で目を逸らす
「話を戻そう。 色々な物を方々へと売り捌いていたそうだが、その中でも一番大きなものと言っていたのが... ライラ・ジーナだ。」
「ほう。 奴が乗っていたもの以外にもあったのか。」
「いくつか盗み出していたそうだ。 それ以外にも昔から持っていたものもあったそうだが。」
「昔... なぁ大隊長、やっぱりもう一回だけ殴ってきていいか?」
「...後でサイラスでも通して交渉してみたらどうだ? エンスウェンあたりにも言ってみろ。」
「そうなるよなぁ...」
ジーナが露骨に肩を落とす
「...話を戻すぞ。 ライラ・ジーナは闇ルートを通してESFに流したそうだが、その見返りとして今日我々が始末した山のようなネアス・アドニスを受け取ったそうだ。」
「流したライラ・ジーナはほんの数機だろう? なのに数十ものネアス・アドニスになって帰ってきたのか?」
「いや、他にも盗み出した数個の新品のバトルワーカー用エジタイト反応炉も同じルートで流したそうだ。」
「...だとしても計算が合わないだろう、機体丸ごとよりかは当たり前だが遥かに安い代物だ。」
「それはそうだが... だが、2,3度小突いても同じ事を繰り返していたからな。」
「なら...いや...まぁそうか。 他には?」
目を逸らし続けていたセルジオの下に応援に来ていた部隊の兵が近づく
一言二言交わしながら何やらデータ端末上でデータをやりとりすると、その兵はまた戻っていく
「ちょっといいかい、皆?」
「なんだ、セルジオ?」
「いや... 今日撃破したネアス・アドニスを調べてもらっておいたんだ。 何だか妙な違和感があったからな。」
「妙な?」
「そう。 何ていうかな... どことなく古臭い、というか... まぁ、それで、だ。 やっぱり案の定だった。」
セルジオがどこからか取り出した携行式の3Dホログラフィック投射機を地面に置き、データ端末を操作する
よく見るネアス・アドニスと細部が異なるがほとんど同じ機体の3Dホログラフィックが一同が囲む空間に映し出される
「これだ。 ネアス・アドニスのマイナーチェンジバージョン。 一時期これのジャンクがESF領内で急増した時期があったんだけど... 結局その後しばらくしてまた見なくなった。 恐らくは...大規模な試験運用か、あるいは小規模な採用程度だったのかもしれない。 内部のファームウェアといい、その他のいくつかの設計といい、やけに攻撃的な印象を受ける設計だったから印象に残ってたんだ。 多分...10年ぐらい前じゃないかな。 まぁ、部品取りにはそこまで影響なかったから時々遠出して漁りに行ってたな。」
どうせ内部ファームウェアなんてオリジナルだし、とセルジオが笑う
「ふむ... そうなると、そのマイナーチェンジバージョンを大量に在庫してる誰か...あるいは何かがライラ・ジーナと引き換えに提供した、というところか?」
「まぁ、そんな感じだとは思うよ、大隊長。」
「...ふむ... 何か引っ掛かるが... とりあえず帰投し、エンスウェンに報告するとしよう。 賊の討伐は完了... 奇妙な情報がいくつかある、とな。 ...よし、ネイヴィガー、撤収だ!」
マルコシアスの号令の下、いくつかの謎を残しつつも、ネイヴィガーは木星近傍、JPC002への帰路へと着く
謎が残っていようとも、ひとまず領内を荒らす賊の排除そのものには成功している以上、作戦は成功だろう
こういった謎が解決することは中々稀なことではあるものの、マルコシアスはそう遠くないうちに再びこの謎と出会う日が来るような予感がしていた
そして、帰還の数日後、セイバー第1艦隊長こと、レン・カエデがこの作戦に関するあらゆる情報が含まれた報告ファイルの閲覧を行ったという事実を聞いた時、マルコシアスはその予感をほとんど確信めいたものへと変えていた




