90: EP5-13 寒空に香る硝煙:Ⅴ
...まぁ、後は任されたよ、R。
コロニー協定連合体 "CAU"
西暦3020年5月19日[STC]
協定宇宙時00:35
木星近傍宙域、木星圏廃棄コロニー群057内部
──Side: 三人称視点
『セルジオからジャレッド、状況はどうなってる?』
『まだ様子見してるっぽいな。 特にCIWSはずっとそっちを見てる。 ...望遠で捉えた、そっちに送る。』
『確認した。 ...ん? このタイプは最近あまり見なくなった気がするが... どうだったか...』
『そりゃあれだろ、廃棄コロニーにゃお似合いってとこだろ、セルジオ。』
『まぁそうか。 とはいえ動いてるんだろう?』
『だな、ジャンクってわけじゃなさそうだ。』
マルコシアス率いる強襲班と別れたセルジオ、ロビンは防衛設備群の無力化を試みていた
外部から監視するジャレッドからの情報により2人は目標を見定める
『いや待て... あれ前に弄ったことあるな。 確かまだ倉庫に置いてあると思うんだが...』
『倉庫? ネイヴィガーのハンガーにCIWSなんてなかったと思うが。』
『昔の家のほうさ、ジャレッド。』
『あぁ、そっちか...』
セルジオがまだネイヴィガーにスカウトされる前に拠点としていた小惑星を魔改造した自宅を思い出しながらそう言う
いくら旧式とはいえコロニー用の防衛設備が配備された小惑星基地とはどうかという話ではあるが、それだけ価値がないものとして扱われていたのだろう
『あれなぁ、性能は悪くなくて好きだったんだが、いかんせん標的捕捉システムの作りが甘くてな。 近づいてちょっと弄っただけで簡単に書き換えれちまうんだ。』
『そりゃ甘いとかって次元じゃないだろ。 ...待てよセルジオ、つまりお前、あれ...』
『...まぁ、そうだな、ジャレッド。 試してみる価値はありそうだ。 ロビン、接近するのにいい案はないか?』
『ん? そうですね... アンカーは使えるかもしれません。 最新型のネアス・アドニスのシステムでもクラックできるわけですから、旧式なら余裕のはずですよ。』
ロビンがアンカーを再度ランチャーに込める
『やってみましょう。 あまり長くは持たないはずですから、せーので。』
『いいぜ、合わせよう。』
ロビンが彼らが隠れていた物陰から少しだけ身を乗り出すと、狙いを定め、山なりにアンカーを射出し、防衛設備群付近に着弾させる
『...行きますよ、3...2...1... アンカー起動!』
『ゴー、ゴーゴー!』
アンカーが紫色の光を発し、周辺の防衛設備の照準がそちらを向く
直後、2人の機体は物陰から飛び出し、スラスターを全開にし防衛設備の射線上を突き進む
『ロビン、状況はどうだ!?』
『持って... 後30秒です!』
『それだけありゃ十分だ! ...見つけた、制御端末が裏にある!』
セルジオの座るコックピットのモニターに強化表示される形で制御端末の位置が表示される
『セルジオさん! 敵のバトルワーカーが... あっ...』
ロビンがそう言いかけた時、遠くで身を乗り出していた敵バトルワーカーの胸部装甲に大穴が開き動きを止める
『ありゃいい的だな。 あ、礼はいいぞセルジオ。』
『助かったぜ、ジャレッド!』
2人はそのまま勢いを落とさずに突撃し続ける
『あー、ありゃ... 初期ロットかその次ぐらいのだな...』
『初期ロット?』
セルジオの何となくといった具合の呟きにロビンが気になった部分を問う
『ああ。 あのタイプはさっきも言ったがシステム面の作りはいつまで経っても甘いままだったんだが、それはともかく安価な割に性能は良くてな、何度も改修されては出荷されてて... あのガトリング状の砲身が見えるだろ? あれが5連装になったのは第3期ロットからで、それ以前、まぁつまり初期ロットと第2期ロットは4連装なんだ。』
『なるほど、確かにあれは4連装ですね...』
ロビンの呟きの通り、設置されているCIWSの砲身は4連装ガトリングのようだ
『で、だ。 あれのシステムの作りが甘い...は何度も言わなくても分かるとして、実は第2期ロットまではもっと致命的な弱点を抱えていてな。』
『致命的な弱点?』
『ああ。 外部通信用のポートのセキュリティが信じられないほど緩い。 数メートル級の短距離なら無線でほぼノータイムでハックできる。 さすがにクレームが酷すぎて第3期ロット以降は無線通信規格そのものが廃止になったみたいだけどな。 後はその分浮いたコストで少し装甲が増設されてたり...』
『セルジオさん豆知識はそれぐらいに、もう着きますよ!』
『分かってるさロビン! ちょっとだけ時間をくれ、すぐに終わる!』
2人の機体がCIWSが設置されている台座の足元へ踏み込む
周囲に敵機はいるはずだが、先ほどのジャレッドの視界外からの攻撃が脅しとなっているのか、姿が見当たらない
『うわこれ初期ロットだ、しかもよりにもよって1.0バージョン。 セキュリティなんてあってないようなものさ。 ...逆によくこんなのの完動品が残ってたな...』
『ちゃんと動くんですよね?』
『さっきまで動いてただろう? ...ん? これは...』
『どうしたんです?』
『...ここの連中は...アホ...というか...』
セルジオがコックピットで何やら操作しつつ呟く
『あーロビン、なんて言うか... その...』
『セルジオさんらしくないですね、何があったんです?』
『...ここの火器管制、乗っ取れた。』
『は?』
ロビンが短く漏らす
『いや... どうにもぱっと見た瞬間、他のとこにもネットワークが繋がってるみたいだったから、試しに遠隔ハックしてみたんだよ、ロビン。 できそうならするのが普通じゃないか。 てっきり他の防衛兵器系かなって思ったんだよ、そりゃそうじゃないか、内部ネットワークの同期だとかあるしさ。 いやでもさ、まさかだからって、中枢の火器管制までノーマークだなんて思わないじゃないか、なぁロビン?』
『あーまぁ... 言いたいことは分かりました。 それで...』
『とりあえずファイアウォールだけ手持ちの簡単なのは置いといた。 こんな酷い有様のシステムを運用してるような相手じゃこれで十分かもしれない。 ともかく、システムを掌握、カウンタ―に使える、ってとこは間違いないさ。』
そう言ってセルジオがニヤリと笑いを浮かべた
協定宇宙時00:45
木星近傍宙域、木星圏廃棄コロニー群057内部、旧市街区域
『ロビン! そっちにもいくつか回すぞ!』
『なーセルジオ俺の分はないか?』
『あーじゃあ...』
セルジオが勢い余って乗っ取った敵防衛兵器システムを使い、3人はマルコシアス達を援護していた
『おっ... あ? なんで対艦砲があるんだ? これ...』
『...確かにこれは... 旧式ではあるけどESF系の艦船で見たことはあるな。 なんでだろうなぁ。』
『いやこれ本当に... なんでこんなものまでたかだか廃棄コロニー内の拠点を防衛するまでに配備してるんでしょう?』
ロビンの疑問は言われてみればその通りだろう
たかだか海賊か何かの拠点のはずだというのに、用意されているものだけは異様に厚い
照準システムの映像を通し、支援砲撃の中を突き進むマルコシアス達の姿が見える
隊長であるマルコシアスの動きもそうだが、3人揃ってまるで何も妨害がないかのように彼らは進んでいく
『...聞かれたら怒られそうだけどよ。 あれ自分から当たりに来てるようなもんだろ。』
照準に自分から突っ込んできたジーナの機体を見つつそんなことをのたまうジャレッド
それでいて、咄嗟の判断で当てないようにはしているのだから、なんだかんだと言っていても問題は起きていない
『ん、システムに反応。 さすがに敵にハックを気づかれた。 ...いや、自動化システムで追い払えそうか、ほっとこう。』
『...ロビン、右奥の機体が見えるか?』
『ん? どれです?』
『ほらあの... 迷彩柄の機体だ、赤いラインの入った... ああダメだ、砲塔の旋回範囲外だ。 ちょっと待ってくれ、映像を回す...』
ジャレッドが手元のコンソールを弄り映像を共有する
映像にはマルコシアス達が突き進む先の敵が拠点としているらしきビルの付近、つまり一番奥にある敵機がフォーカスされて映っている
『ああ、これですか。 これが?』
『あの機体だけ赤いラインが入ってる上に一番奥に構えてる。 しかもご丁寧にこの場にいる敵のライラ・ジーナはアレだけと来た。』
『ははぁ、言いたいことは分かりましたよジャレッドさん。 あれが敵のリーダー格だと。 大隊長、敵のリーダー格と思われる機体を発見しました。 セルジオさん経由でリンクします。』
『ほいさ大隊長殿、これだ。』
自身の操作する砲塔の映像でもそれを捉えていたセルジオがデータリンクを行う
『確認した。 ...そうだな、ここについていくつか聞きたいこともある。 副長、ジーナ、いいな?』
『了解した、大隊長。』
『おうよ、生け捕りだな!』
ジーナがそれに応じるように機体の手の内にあるロケットランチャーを再び発射し、隊列を組み直そうとしている敵機を粉砕する
元から腕の立つパイロットがいないと思わしきその賊達に狙いの定まった3人を止められるはずもなく、次々と粉砕、あるいはコックピットごと切り捨てられるか、銃弾でハチの巣にされていく
気づけば、敵はリーダー格のライナ・ジーナとその周囲を固める多少は腕に自信があると思わしき2機のアドニスだけだった
ネイヴィガーの3人と、賊の3人
両者は一定の距離を保ちつつ牽制しあう
『...あー、ジーナ。 一応形式だけ頼む。』
『あいよ、大隊長。』
ジーナが手元のコンソールを操作し外部スピーカー機能を立ち上げる
『さて諸君! 形勢は見ての通りだ! 大人しくお縄につこうってんなら命だけは...』
ジーナの呼びかけを聞くや否や、賊のうち、リーダーの向かって右に立っていた1機が手にしていたライフルをあらぬ方向に投げ捨て、コックピットのハッチを解放しつつスピーカーごしに叫ぶ
『もう沢山だ! 降伏ならいくらでもする!』
『いい心がけだな! それで...』
そう言いつつジーナがライフルを左の1機に向ける
『ま、待ってくれ! 降参だ降参! 俺はあんたらにはもう逆らわねぇ! ただ俺はコイツが金くれるっていうから... だからこれでチャラだチャラ! 』
ジーナの脅しにもう1機も先と似たようにライフルを投げ捨て、機体のコックピットハッチを解放する
『中々大物だなこいつら、この状態で言えるなんてよ。』
『言わないであげましょうよ、ジャレッドさん。』
その様子を見ていたジャレッドとロビンがそんな軽口を交わし合う
そして、同じくその光景を間近で見せられていたリーダー機から声が響く
『おいお前らそんな簡単に... っあ?』
何かを言いかけたその機体に、ほぼノータイムで何かが蹴りかかる
機体のコックピットの少し下、脚部と胴部の接続部あたりに膝蹴りを入れられ、リーダー機は吹っ飛び背後の建物の壁へと埋まるように消えていく
何が突撃してきたのかがそのパイロットが理解していたとは到底思えないが、言うまでもない
リニア型スラスターの全開出力で機体を吹っ飛ばしたマルコシアス機──カンペアドールだった




