87: EP5-10 アマテラス
ふーむ。
これは... 参考にすべきかな?
西暦3020年9月3日、協定宇宙時08:00
|小惑星エリス近傍、CAU海軍組み立てプラント
隣接複合施設『アマテラスハンガー』
思えば、CAUがこれほど安定した基盤を築いているのは何故なのだろうか?
──Side: 三人称視点
その日、太陽系外縁系の小惑星エリス近傍にあるCAU海軍組み立てプラントステーション、そこに隣接する複合施設に多数のCAU軍の人員が集まっていた
再編の行われたCAU海軍、海兵隊、そして独立遊撃艦隊セイバー、あらゆる組織の人員が、だ
「見てみろウィルクス、長官だ。 久々に見たな...」
「そうだな、シオンハート。 ここしばらくはサンクチュアリの連合本部に籠り切りだったと思うんだが。 こちらに戻ってきたということは、情報方が何かを掴んだか...」
「...いや、単純にアマテラスの進宙式だからかも...しれないが...」
「それはあるな...」
上級将校用のモニタールームでそんなことを呟く2人
「エンスウェン、こんなに集めて大丈夫なんだろうな。」
「あぁ。 火星圏の部隊は不用意に動かしてはいないさ。 我々も、正規軍もな。 万一に備え、今日はサイトウに任せてある。」
「...あぁ、アイツか。 なら大丈夫そうだな...」
マルコシアスとエンスウェンも少し離れたところでCAU軍本部長官の映るモニターを見ながら会話していた
「...ところでこんなところにいていいんですか、元帥?」
「ん? あぁ、別に今日は俺の出番はないからな。 あれは正規軍の旗艦であって、セイバーには直接的に関係するものじゃないしな。」
「なるほど。 しかし、アマテラス... サンクチュアリゲートの理論上の通行限界質量スレスレ、でしたっけ?」
「あぁそうだ。 あれ以上の質量を一度に通過させようとすればゲートの崩壊のリスクがあるレベルの、な。」
「全く... 連合本部も無理をしましたね。 ...ん? ということは、よく考えたらもう進宙式は向こうで済ませてあるんですよね?」
「まぁそうなるな。 最後の仕上げはこっちでやったが、航行可能段階という意味で言えば、間違いなくそうなる。 ま、とはいえ正式なお披露目だからな、今日は。」
サイラスとカエデも同じようにモニターを眺めつつ同じように会話を続けていた
「かーんたいちょー。」
「ん... ルイナか。 どうした?」
「はいこれ。」
「...レモンティーか。 ありがとう、ルイナ。」
シオンハートとウィルクスが座るシートの前にルプスレフィアがコップに入れたレモンティーを持ってくる
「えーっとシオンハートは... コーヒーでよかったよね?」
「あぁ、ありがとう、ルプスレフィア。」
ウィルクスに続いてシオンハートもそれを受け取る
受け取ったコップの中には茶色をした液体が入っている
「...ん? いつもより甘くないか?」
「あれそう? 銘柄も何も同じだと思うけど。」
「...じゃあ気のせいか。 まぁいいさ、嫌いって意味じゃない。」
ズズズ、と音を立て、シオンハートがそれを啜る
そしてコップを眼前のローテーブルに置くと、シートに置いていたタブレット端末を手に取る
いくつか操作をし、1つの表示を表示させるとふと呟く
「...アマテラス、か。」
「あぁ。 建造開始は5年前。 CAU艦隊の威信を賭け、連合本部と協定標準省、その他諸々関連組織が建造を承認した。 ...まぁ、極秘プロジェクトにも程があった...が。」
ウィルクスが横から端末を覗き込み、画面に表示されている直線的な、とにかく角ばった形状の艦船、アマテラスの3Dモデルを弄り回す
「...威信を賭け、とは言ったものの、一体全体、どうして連合本部はこんなものを承認したんだか、未だに分かっちゃいない。 明らかにオーバースペックだ。 思わないか、シオンハート?」
「...まぁ、確かにな。 サンクチュアリゲートの通行限界質量を突き詰めてる設計なのもどうかしているし、搭載している兵装も色々とおかしすぎる。」
「そうだな。 600mm水平3連フォーカスレーザーカノン『スサノオ』が艦載主砲、副砲でようやく水平2連300mmプレシジョンレーザーカノンっていうのはどういう了見なんだろうな? 副砲がアルビオンの主砲と同じだとか、さすがに訳が分からないな...」
「スサノオはあれだろ? アマテラスにしか搭載できないから、専用設計らしいじゃないか。」
「当たり前だろう。 砲身キャパシタへの充電だけでどれだけ時間がかかると思ってるんだ? しかもただの600mmじゃない、それ以上の出力を収束させてるんだ。 アマテラスの無茶苦茶な出力に任せた...そうだな、アホ設計だ。」
「お前がそういう言い回しをするのは珍しいんじゃないか、ウィルクス?」
「それぐらいおかしい、ということだ、シオンハート。」
ウィルクスが手にしたコップのレモンティーを口に運ぶ
「...出力系は...IEPARを80機、か。 他にも... うん? 『ムラクモ』用補助リアクターシステム? IEPARを10機?」
シオンハートが疑問の声を上げる
「なんだシオンハート、ちゃんと見てなかったのか? アマテラスの主砲のことだ。」
「主砲? 600mmのことじゃないのか?」
「違う違う... ちょっと見てみろ。」
ウィルクスが再び画面を操作する
すると、全長5キロ、全高1.5キロを誇るアマテラスの前面装甲の一部がスライドして、砲口のようなものが露わになる
「まさか...」
「その、まさかだな、シオンハート? そう、アマテラスの艦隊決戦用超大型対艦レーザー、ムラクモだ。 口径は750メートル。 IEPAR40機分の5分間分ぐらいの出力を1発に込めて放出する、何から何までオーバースペックな主砲、さ。 ほんっとうに、本部は何を考えてこんなものを設計したんだ?」
「口径750メートル? そんなもの、直撃したら戦艦級でも蒸発、いや、消滅するレベルだろう。 ...我々パイロットからしたら範囲制圧兵器のほうがまだマシだな、そっちは必死になれば回避できる。」
「言葉通りだろうな、シオンハート。」
シオンハートの本気の困惑に、ウィルクスが同意を返す
そういえばルプスレフィアがいないな、とシオンハートが周囲を見渡すと、サイラスとカエデの所にいるようだった
まぁいいか、とシオンハートは思考を戻す
「...ん? 待ってくれ。 IEPAR40機の5分間分? 補助リアクターシステムを考慮しても、IEPARを30機も占有したら他に回す出力に問題があるだろう?」
「まぁ、普通ならそうだろうな。 事実、これは設計段階ではメインリアクターと補助リアクターシステムではなく、専用リアクターを搭載して運用されるはずだった。 だが、IEPARの登場でこれは更なる形で進化したんだ。 前にサイラスがIEPARを用いた艦船制御システムの話をしていたのを覚えてないか?」
「いや... どうだったか。」
「まぁいいさ。 IEPARはαとβを切り替えられるのが売りだったんだが、これをドック以外で変えるのは実戦上はリスクがある、という評価だ。 これは今も変わらない。 ただ... アマテラスはそのサイズを生かした制御系統を組み込めたらしくてな。 技術方曰く、シージドライブ・システム、だそうだ。」
「シージドライブ? ...包囲戦?」
「察しがいいな。 このシージドライブ・システムにより、アマテラスはいついかなる状況下においても、IEPARの反応系統を切り替えることを実現した。 シオンハート、お前だってその意味は分かるだろう?」
「もちろんだ。 バトルワーカーだって結局はEWERで動いてるわけだからな。 ...いや待てウィルクス。 まさか、切り替え... 全てのIEPARをどちらかに統一して出力する、ということができるわけだな?」
当然だ、という顔をした直後に、言葉通りのまさか、という表情を見せるシオンハート
「ご名答。 シージドライブ・システムはこれを高度に制御するために設計されたんだ。 出力系、あるいは推進系にそれぞれ割り当てられているIEPARをまさしく再割当する。 ムラクモはこれを前提に再設計され、シージドライブ・システムのシージモード、つまり、推進系を全て出力系にリルートした上で運用することが前提なんだ。」
「推進系を全てリルート? つまり、固定砲台というわけか?」
「そうなるな。 とはいえ、パッシブシールドやその他のレーザー砲に供給されるエネルギーも全て増強される。 アマテラス用の新装備、シールドブースターも相まって、ガラテア級を遥かに上回るシールド強度を再現できるというのが理論上の話だな。」
「シールドブースター?」
「あぁ。 予備キャパシタにチャージしたエネルギーをシールド発振器に投入して、瞬時にシールド強度を維持するシステムだ。 まだ技術方でもここらへんは新興技術すぎて名称がしっかり固まっていないが、アクティブ・シールディング・システムだとか呼んでる奴もいるらしいな。」
「...なぁ、もしかして、超大型なのを生かした、いや、悪用した、技術方のサンドボックスになってるんじゃないだろうな。」
「言わない方がいい。」
「...私のマリエルはやはりセイバーの技術方に見せるのを続けた方がよさそうだ。」
呆れた顔でそんなことをいう2人
「...シオンハート、お前のマリエルはマリエルで、いつも技術方から消耗の少なさを指摘されてるんじゃなかったか...?」
「いいんだよウィルクス。 実際コストも安く済んでるんだからな。 私達がちょっとぐらい好きにしても、スノーは怒らないさ。」
「...はぁ。 それもそうか。」
シオンハートがふとモニターを見る
「おや。 どうやらそろそろ式典が始まるらしいな。 ...うわ、将軍までいるな。 本当に何から何まで珍しい日だな。」




