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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP5『艦隊冷戦期』

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85/129

85: EP5-8 CAU海軍

...まぁ、人力のダメージコントロールって確かに重要だけど、自動化システムによるところもやっぱ緊急対応時はあると便利なんだよねぇ...


...ん?

あぁ、了解、ブラック君。

西暦3020年6月1日、協定宇宙時(STC)12:00

小惑星エリス近傍、CAU海軍組み立てプラント

有気ドック、艦隊ハンガー


何事にもお披露目は重要だろう?



──Side: 三人称視点



「それで? わざわざ艦隊長に大隊長、司令官閣下までこんな現地に出張ってまで何の話なんだ...?」

「まぁ、現地に来ないと分からないことだってあるだろ、シオンハート?」

「...まぁ同意しておくさ、サイラス。」


いつも通りの声が響く


部屋の中、テーブルを囲むのは7つの影


上座にサイラスが立ち、そこを扇状に囲むようにセイバーの艦隊長、大隊長がいつものように揃っていた


「連合本部がCAU艦隊再編を承認した。 いや、艦隊だけではない。 CAUの軍組織改編規模になった。」

「...組織改編だと? サイラス、どういうことだ?」


なんだかんだ言って、エンスウェンは現実主義なのだ


「陸戦部隊まで含めてCAU軍全体を今一度再編する。 我々セイバー連隊はCAU海軍独立遊撃艦隊セイバーとして再編される。 コールサインはシルバースピア。 」

「銀の槍? また気取ったネーミングだな。」

「おっと、考えたのは俺じゃない... 誰だと思う?」

「...こういうセンスの無さは... どうせシーラだろ?」


少しだけ首を傾げ考えた後、ウィルクスがそう断言する


「ご名答。 仮にも人の嫁にセンスがないと堂々と言い放つのはお前の良さだと思っとくよ、ウィルクス...」

「...いいから先を話せ。 まだあるんだろう?」

「へいへいまったくで... 」

「どこから来たんだその喋り方...」


ウィルクスの呆れがいつにも増して加速する


「セイバー第1、第2、第3艦隊はその形を丸々維持しつつ、コールサインのみを更新する。 第1艦隊、カエデの隊をスピアヘッド、第2艦隊、ウィルクスの隊をスピアハンドル、そして第3艦隊、エンスウェンの隊をスピアヒルトとする。 ...言わなくても分かってるとは思うんだが...」

「クレームはシーラに、だな。」

「察しが早い部下で助かるな、ウィルクス...」


そんなことを言いながらため息一つのサイラス

続けてカエデが口を開く


「はぁ... スピアヘッド、うちは突撃隊でもやるんですか?」

「役割分担を考えると自然とな... まさか、ウィルクスに重砲持たせて突撃させるわけにもいかないだろう...」

「よく考えてもみれば...ヒルト、か。 どちらも敵に激突するものだが...」


エンスウェンが珍しくぼやく


「...ま、まぁなんだ。 とりあえずだな... 来週、それぞれの艦隊にようやくアイツが到着する予定だ。」

「ようやくアルビオンか?」

「おお、そのようやくだ。 少数の先行量産型が上がってきてるからな。 正規軍と交渉としてとりあえず3つは取り付けた。 後は順次量産分を回させるつもりだ。」

「それぞれの旗艦を更新、というわけですね。」

「あぁ。 まずは旗艦からと決まっているものだしな... 」


いつの間にか7人が囲むテーブルには新型主力戦艦、アルビオンの艦影ホログラムが表示されている

現行の主力戦艦ランティッヒを元にしたその構造は、見慣れたようで、それでいて新しいデザインが随所にみられる設計だ

CAU兵器デザインの恒例である直線的な船体はランティッヒのそれより一回りは大型化している


その横に並ぶようにいくつかの艦船ホログラムが表示されていく


「今回、ようやく見せられるものが増えてな...」


サイラスがそう言い、順を追って説明し始める


「まずはガラテア級重巡洋艦(HCL)だ。 これもアルビオンと同じくパッシブシールドに対応する。 また、EPAR(エジタイト粒子加速炉)ももちろん採用し、新技術としてヘビーシールドコントローラーを採用した。 これは一時的にEPARをオーバーロード(反応加速)させ、その全出力をシールドシステムに供給する。 理論上、現行の技術で突破することはできないシールド強度に到達するはずだが、リアクターの安全係数、それからシールド発振器の強度を考えるとその状態は持って20秒だろう。 もちろん、対艦レーザーの出力も既存のカンタック級より大幅に向上している。」

「重巡洋艦か...」


アルビオンより2周りは小さい船体ながらも、多数の砲塔が見えるそのガラテア級のホログラムは威容を放っている


「それから... こっちはデスピナ級ディスラプタークラス駆逐艦だ。 パッシブシールドはもちろんのこと、新装備として対艦用のジャンプディスラプター、それから、マイクロ・ジャンプドライブを搭載している。」

「対艦用ジャンプディスラプターも十分疑問点しかないが... マイクロ・ジャンプドライブとはなんだ、サイラス?」

「まぁよくぞ聞いてくれた。 既存のジャンプドライブ理論をちょいと弄ったエンジニアがいたんだが... 大幅な小型低出力化にどういうわけか成功してな... 極超短距離のジャンプが可能になった。 距離にして100キロから200キロ程度だ。」


艦隊戦においてその程度の距離は近距離と言っていいだろう

しかし、それを聞いたエンスウェンの目が変わる


「...なるほどな。 瞬間的な突入と離脱に持ってこいというわけか。」

「相手の度肝を抜くにはこれ以上の装備はないだろう? もちろん、既存のジャンプドライブ理論をベースにしてる以上、フィールドジャンプは可能だ。 上手く運用できれば...」

「これは...艦隊長というよりかは艦長の腕の見せ所だな。」

「我らが誇る海軍艦長の腕前をご覧じろってな... 」


サイラスがそこで振り返り、背後にあった窓のほうを向く

ハンガー内部、多数の艦船が係留されているそこに1つの艦船が入ってくる


「あぁ...ちょうどいいところに。 見てみろ、あれがアルビオンだ。」


サイラスの指差す先、先に係留されていたランティッヒの横に並ぶようにゆっくりと後退しながら一回り大きなアルビオンが係留されていく

後退が終わり、係留が完了すると船体各部の装甲がスライドし、そこからいくつもの砲塔が出てくる


「主砲はランティッヒの250mmレーザーカノンを改良した水平2連300mmプレシジョンレーザーカノン前方3門、後方1門搭載。 更にランティッヒになかった副砲の枠として高速巡航ミサイルVLBを4つ配置してある。 FCS(火器管制システム)のファームウェアもミサイル誘導テクノロジーを前提にアップグレードされたものを搭載し、ミサイルも誘導テクノロジーに対応させてある。 装甲材についてはいつも通りのカイパタイト合金製だが、装甲厚は以前より200mm増加させてある。 そして何度も話していることだが、機関はメイン電力用のEWER(EWE反応炉)-α5基と推進システムのEWER-β4基を統合型EPAR8基に切り替えてある。」

「...ん? 待ってください、統合型EPAR? どういうことですか?」

「...あぁ! そういえば話してなかったな!」


そもそもの話をするのであれば、従来、CAU軍の艦船は2系統の機関を搭載しているものだった

これはEWE、エッカート・ウェルティ・エジタイト反応の区分が異なることに起因している

EWE-αと呼ばれる反応は電力として出力が行われる汎用性の高い区分であり、艦載電力システムとして用いられるものであり、また、EWE-βと呼ばれる反応は強力な斥力や引力といった方向に活用ができる特殊な反応のため、指向性を持って放出することで艦船推進力として用いられている

従来型のEWERではこれらを効率よく運用するため、事前に専用の調整が行われた2つの炉を併用していたが、今回サイラスが言い出したものはどうやら様子が何か違うようだ


「EPARなんだが、設計段階における試行錯誤の結果、α反応とβ反応を切り替えて運用できるようになったんだ。 結果的に、1種類の炉をリアルタイム制御で振り分けることができるようになった。 つまるところ、それが統合型EPARってわけだ。 これを用いた新型艦船制御システムも開発中なんだが...現状だとアマテラスに搭載するのが精一杯らしい。」

「ふむ... そんな新型炉だったとは。」

「肝心のそのリアルタイム制御はまだ不安定だから結局は出撃前に振り分けを弄るのがルールになるだろうけどな。 それでも、だいぶ画期的ではあるさ。」


ハンガーの更に奥のほうには既存型のカンタック級巡洋艦よりも大柄な、それでいて戦艦よりかは小さい艦影が入ってくるのが見える

どうやらそれがガラテア級重巡洋艦のようだ


「...あぁ、そうだ。 シオンハート... エルフィンストーンが明日HQを海王星に戻すって言っていたぞ。 何か用事があるって言ってなかったか?」

「いや? 特にはないな。」

「あれ、そうだったか... まぁそうなら忘れてくれ。 まぁ、他もHQに用事があるなら早めに行ってくるといい。 おっと本題を締めるのを忘れるところだった。 とりあえず、正式な命令書や配置書は後日標準省を経由して配布される。 それで詳しく確認してくれ。」


サイラスがそう纏め、場にはそれぞれの了解を表す言葉が響いた






そうして会議が終わり、シオンハートが場を離れようとした時、ふと声がかけられる


「シオンハート、この後少しいいか?」

「ふむ、特に急ぎの用事はないが... ウィルクス、何の用だ?」

「話したいことがあってな... 何、そんなに時間は取らせないはずさ。」


シオンハートが右手を自身の顎にあて、少しだけ考え込む


「...良し、付き合うさ。 そこのラウンジにでも寄っていこう。」


そうシオンハートが言い、2人は再び歩き出した

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